第22話 折込む(4)



「悪かったな、ミズキ」

「いえ……私の方こそみっともなく大きな声を出してしまって」

「ミズキが森にいる間は姿を見せるなと固く禁じておったというのに」

「禁じていた?」


喋る蛇と別れ、池の畔の岩の上で抱きしめられるような格好で私はリュウビの話を訊いていた。


「前にも言ったと思うがこの森はみずちもりと別名が付くくらい蛇が多く生息しておる。元々龍神が祀られていた場所だったからその龍神の使役の蛇たちの名残でもあるのだが」

「はぁ…。そうなんですね」

「だが人間は──特に女子おなごは蛇が嫌いだろう? だからミズキがこの森にいる間は姿を見せるなときつく申し付けていたのだ」

「確かに蛇は苦手、ですけど……」

「ん?」

「先刻みたいに意思疎通出来る蛇だったら大丈夫、かも」

「……」

「何を考えているのか分からないから余計怖いっていうところがあるのかも知れません。でも先刻の蛇は……その、なんだか妙に人懐っこくて……そんなに嫌だなとは思いませんでした」

「そうか。まぁアレは元々人間だった者だからな」

「──へ」


リュウビの何気なく放たれた言葉に思わず固まった。


「アレは昔、村で悪さをしていた悪党でな。何故か瀕死の状態でこの森に逃げ込んで来て偶然にもこの池を見つけたのだ。だから俺は告げた。『人として死にたいのならこの池の水は呑むな。だが蛇となってまでも生き長らえたいと願うのならばこの水を呑むがいい』とな」

「それで……呑んじゃったんですか?」

「あぁ。しかし元々の気性が最悪だったからかも知れぬが毒であるはずの水が反対に作用したらしく、蛇として化身した途端、妙に神がかり的な善い性格となってな。その物珍しさから俺の使役として使ってやっているのだ」

「へ……へぇ…。そう、なんですね」


大抵の不思議なことには慣れたと思っていた私だったけれど、まだまだ私の知らないことが沢山あるのだなと思った。


(──そういえば)


不思議な蛇に関しての疑問が晴れた私は次の疑問をリュウビにぶつけた。


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