第3話 恋乞う(1)




あなたのことを知れば知るほど愛おしくなる。



約束されたその時が来るまで私はあなたへの思慕を募らせて行く──……




**********




「えっ! さっちゃん、しちゃったの?!」

「しーっ! 声、大きいっ」

「っ」


慌てて両手で口を塞ぐ。そして何故かじわじわと顔が熱くなった。


「もう、瑞生みずきってばそんなに驚くことじゃないでしょう?」

「だ、だって……私たちまだ中2だよ? 早くない?」

「早くないよ。好きな人に求められた時がその時でしょ?」

「……」


(そう……なのかなぁ)


親友の咲恵ちゃんが初体験したという報告を訊いてただただ驚くばかりの私。


「まぁ瑞生は奥手だからね。彼氏もいないし」

「……別に彼氏なんて要らないし」

「またまたぁ~~本当は欲しいんでしょう? 雅紀の友だち紹介するっていってるのになんで未だに断るの?」

「いや……本当要らないから」


(要らない──というか作れないんだよね)


咲恵ちゃんと彼氏の雅紀くんは小学生の時から付き合っていた。


勿論小学生の時はただ仲のいい友だちという枠を超えていなかったようだったけれど、その関係は中学生になってからガラッと変わったように思える。


「ねぇ、瑞生はどんな男子が好みなの?」

「え」

「なんかそういうの訊いていなかったなぁと思ってさ。タイプに近い友だち探してもらうからさ」

「いや……本当に、私」

「瑞生も彼氏作ってそれでダブルデートしようよ。きっと愉しいよ」

「……」


咲恵ちゃんの軽快なトークに圧されどうしたものかなと思っているとタイミングよく予鈴が鳴った。


密かに(助かった!)と思いながら次の授業の準備をするために席に着席した。



「次のテストにはここ出るからな。とりあえず公式だけでもバッチリ覚えておけ」

「……」


授業中、ぼんやり考えることといえば先ほどの咲恵ちゃんの報告だった。



『昨日、雅紀としちゃった』



咲恵ちゃんが雅紀くんとキスしたと報告された時もビックリしたけれど……


(えっち……しちゃったんだ)


近しい友だちのそういう話を訊くとドキドキしてしまって仕方がない。


(でもでも14歳でっていうのは早過ぎでしょう!)


私がそう思うのは多分当たり前のことなのだと思うのだけれど、どうも友だちの輪に加わってみんなの話を訊くとその考えは古くさいのだと思い知らされる。


(私以外の友だち……殆どキスしてるっていってたなぁ)


中には彼氏じゃない、男友だちともノリでしちゃったという子がいる有様。


(好きな人じゃないのにキスって出来るの?!)



私は出来ない!



絶対出来ない!



そんな恥ずかしいことを考えたらまたカァと顔が熱くなった。


(あぁ……もう、なんだか生き辛い…)


はぁとついたため息は静かな教室にフッと消えて行った。


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