第4話 恋乞う(2)



──そして季節は真夏



夏休みに入って一週間が経った頃。


「瑞生、今度の土日お祖父ちゃんのお墓参りに行くわよ」

「あ、うん」

「何も予定なかったわよね?」

「ないよ」

「じゃあ準備しておいてね」

「分かった」


母から田舎に帰る話を訊かされドキッとした。


(お祖父ちゃんのお墓参り……か)


四年前に亡くなった私の祖父、野宮三郎は母の父親だ。


代々野宮家は広大な山や土地を管理して来た資産家だったそうだ。


野宮の家の歴史について少し触れたことのある私は少し複雑な気持ちと、そして


(……御池様おいけさま、元気かな)


そんなことを思ってまたポッと顔が熱くなった気がしたのだった──。




一年ぶりの田舎だった。


四年前に亡くなった祖父のお墓参りを済ませ、私たち家族は生前祖父が住んでいた家にやって来ていた。


「兄さん、久しぶり」

「おぅ、元気だったか?」


住む人がいなくなった祖父の家は同じ町内に住む母の兄、つまり私にとっては伯父さんが管理していた。


「おっ、瑞生、大きくなったな」

「伯父さん、一年でそんなに変わらないでしょう?」

「いやいや、思春期の子どもは成長が著しい」

「著しいって……らしいなぁ」


大学卒のインテリな叔父との会話に思わず苦笑してしまう。


「瑞生ちゃん」


後ろから声を掛けられ振り向くと伯父さんの息子の辰朗たつろうさんが立っていた。


「久しぶりだね、元気だった?」

「元気だよ。辰朗さんは?」

「見ての通り。相変わらずだよ」


にこにこしながら辰朗さんは私の頭を撫でた。


八歳上で大学生の辰朗さんは私のたったひとりのいとこだった。ひとりっ子の私にとってはいとこというよりお兄さんという感じの存在だ。


「兄さん、前来た時に修理しなくちゃいけないって言ってた処、業者に見てもらった?」

「あぁ、それでな当初思っていたよりも状態が悪いといわれてな──」


母は伯父と家のことについて話し始めた。


父と辰朗さんは家の周りに蔓延っている雑草の手入れをし始め、私は何となく手持無沙汰になってしまった。


(草むしり、手伝った方がいいかな)


そう思った瞬間、急に体が急かすように動き始めた。


(あっ)


それは四年前から私にとっては当たり前になってしまった衝動だった。


(呼ばれている、行かなきゃ)


そう思うと私の脚は祖父の家を出て緩い丘をグングンと登り始めた。



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