第16話 輿入れ(5)
呼ばれている──そう感じた私の脚は自然と引かれるまま夜の森を抜け、見慣れた風景にその身を置いていた。
「──ミズキ」
薄ぼんやりと明るい池の畔の大きな岩に御池様が座っていた。それはいつもの、見慣れた光景だった。
「……御池、様」
「よう来たな──我が妻」
「!」
『我が妻』という言葉にドキッとした。
「俺は此処から離れることが出来ぬ故、花嫁を迎えに行くという花婿らしいことが出来なくてすまぬな」
「そんな……普通の結婚式でも花嫁が花婿の元に歩いて行くんです。だから──」
「そうか」
「っ」
不意に上げられた御池様の腕が私の体をかき抱いた。
「ようやく俺のものになるのだな」
「……はい」
「俺を好いてくれているのだな」
「~~~はいっ」
「ふふっ、赤くなっているな。愛い奴」
いつもと同じように御池様は私の体をやわやわと触れ始めた。
気が付くと私が身に付けていた寝間着は肌蹴させられ、御池様の中で生まれたままの姿になっていた。
「ん……綺麗だな、ミズキの体は」
「は、恥ずかしい、ですっ」
「何を恥ずかしがる。そんなことを考える余裕もないくらいに愛してやるぞ」
「!」
急に感じた浮遊感。その少しだけ不快な感覚に思わず目を瞑った。
「──ミズキ」
優しく声を掛けられ同時に唇に柔らかな感触を感じた。
慌てて目を開けると其処には一面淡い青色の世界が広がっていた。
「えっ、こ、此処は……」
「池の中だ」
「池の…? ってことは水の中?!」
だけど御池様が池の中だといった其処は普通に呼吸が出来る空間だった。
(水の中なのにどうして?!)
「俺の妻になるとはこういうことなのだ」
「……え」
「俺と共にいられるように、俺の子を孕むことが出来るように体が少しずつ作り変えられていったのだ」
「…そう……なんですね」
常識的にはありえない──ううん、どうしてそうなるのかなんて考えるだけ無駄だった。
そうなるようになっているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます