第9話 恋乞う(7)
「──怖いか?」
「……少し、だけ。でも……御池様のこと、知りたかったから」
「……」
私がそういうと御池様の表情は寂しげなものから少し明るく和らいだものになった。
「お祖父ちゃんの曾祖母ってことは御池様、すごく永く生きているんだね」
「あぁ。百年以上は疾うに過ぎているな。もうよく分からないが」
「……」
「御池様になると決めた瞬間、俺の人間としての生は失われた。時も止まった。歳を取ることはなかったが身体的老化だけは止めることは出来ぬ」
「え」
「ゆっくりとだが体は老い、いずれ死を迎える」
「それって……完全な神様じゃないから?」
「そうだ。所詮人間の血が混じった雑種だからな。人間よりは遥かに長生きだが神としては全くお話にならないレベルの寿命だ」
「……」
「ここ数年、なんとなく感じていた。俺の寿命もそろそろ尽きる時かと」
「!」
「そんな時にミズキが俺の前に現れた。御池様として生きて来た俺は子を成すこともなくこのまま誰にも知られないままひとり朽ち果てるのかと思っていた時に」
「……」
「ミズキが見つけてくれたのだ。そして呑んでくれた──この池の水を」
「……」
「ミズキ、何故泣いておる」
「……え」
御池様に言われて初めて私は泣いていることに気が付いた。
ポロポロと玉のような涙が頬を伝って流れた。
「泣くな」
「……はい」
だけど涙は止まること無く流れた。御池様の心にほんの少し触れて、その気持ちが何故かワッと私の体中を駆け巡った。
語られた話だけじゃない。それ以外の、御池様の気持ちや感情が何故か私の中に流れ込んで来たのだ。
(これって……池の水のせい?)
御池様そのものだといった池の水を呑んでいた私は御池様に支配されているようなものだった。
(だからこんなに気持ちが分かってしまうの?)
そう何となく納得してしまった。
「おまえは泣き虫だな」
「そんなこと……ないです」
「俺のことで泣かれるのは敵わん」
「……ん」
御池様に優しく抱きしめられ、その温もりを感じるととても穏やかな気持ちになった。
それと同時に何ともいえない感情が私の心をきつく縛り上げる。
──もっとも今の私にはその感情に何という名前が付くのかは解らなかったけれど
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