第26話 湧起る(2)
──深夜
『……さまぁ』
「……ん」
『ヒメ、さま』
『ヒメ様、ヒメ様』
「……ぁ」
頭に直接響く声に眠っていた頭が覚醒した。ゆっくり瞼を開けると其処には見慣れた男の人が二人いた。
『ヒメ様、お迎えに参りました』
『まいりましたぁ』
「……リュウビが呼んでいるのね」
『ハイ~。オイケ様がヒメ様に逢イたい逢イたいト~』
『我らヲ迎エニ寄越されましタぁ』
「分かりました」
私はゆっくりとベッドから起き上がりふたりが担ぐ籠に乗って家を出た。
お腹が大きくなった私は以前のように自分の脚でリュウビの元に通うことが難しくなっていた。
私との逢瀬が少なくなったリュウビはたまにこうやって使役する蛇を使って私を迎えに来させた。
人に
「ミズキ」
「リュウビ」
三日ぶりに逢ったリュウビは私を見るなり性急に求めて来た。
「ミズキ、ミズキ」
「あっ、ちょ、ちょっと待ってください」
「何故だ。おまえが欲しいと乞う俺の気持ちが解らぬのか」
「それは……分かります。わ、私だって……同じだから」
「ミズキ」
「でも少しは顔を見て話してから……と」
「……」
赤くなりながらそう応えるとリュウビはニッコリと機嫌よさそうに笑った。
「? リュウビ」
「ふっ……すまぬな。つい気持ちが急いた。おまえへの思慕が溢れてしまって仕方がないのだ」
「~~~」
素直な気持ちを恥ずかしげもなく言われ私は益々赤くなった。
「体はどうだ? 辛くはないか?」
「はい、大丈夫です。ただ体が重くて何をするにも時間がかかってしまって」
「そうか。──だが明日には軽くなる」
「え」
ことも無げにいわれた言葉にぽかんとしてしまう。
「明日、満月を迎える。月の満ち潮と切っても切れぬ水の神の
「……そ、そう……なんですか」
「あぁ。だからどうしても今日、逢いたかったのだ」
「……」
「ミズキのこの腹も見納めだと思ってな」
「……リュウビ」
そっと抱きしめられ心がジンッと温かくなった。
「出産の際、俺は傍にいてやれぬが俺は常にお前と共に在ることを忘れるな」
そういいながらリュウビは私の首に何かを掛けてくれた。
「それは俺の血が混ざっている勾玉だ。宝飾品のように仕立て身に着けられるようにした」
「ペンダントですね。ありがとうございます」
リュウビから贈られたそのペンダントをギュッと握ると不思議と心が安らいだ。
「だから……な、ミズキ。今宵はふたりきりで過ごす最後の夜だ」
「……はい」
うっとりとした目で見つめられ私もありとあらゆる処が潤った。
「優しくする」
色んな意味がこもったリュウビの言葉を私は生涯忘れることがないと思ったのだった。
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