第28話 湧起る(終)



「俺はミズキが傍にいてくれるだけでいい。──ついでにこういうことをさせてくれると尚いい」

「あっ」


リュウビの長く綺麗な指が私の少しだけ開かれた裾から中に入り込んだ。


「ん、なんだもう濡れているな」

「ゃ……んっ」


クチュクチュと音を立てて私の中が疼き出したのが分かる。


「相変わらずよい反応をしてくれるな。堪らない」

「ん……だって」


リュウビに触れられると母親としての顔は瞬時に引っ込んでただの欲深い女になる。


求められれば私も貪欲にリュウビを求めた。


「……ふむ、そろそろ三人目でも作るか?」

「えっ」


リュウビの言葉に激しく反応してしまう。


「ミズキはまだまだ若いからな。もう4、5人は産めそうだな」

「そ、そんなに?」


リュウビはカァと赤くなる私を攻める指を休めなかった。


「遠い先に俺がいなくなっても子が多ければ寂しくはないだろう?」

「……リュウ、ビ」


リュウビの気持ちが痛い程に分かって普段は考えないようにしていたことを強く意識してしまう。


「それに子が多ければ選択の時を迎えてもいくつもの道が拓かれるように思うしな」

「……」

「まぁ、最悪誰も御池様にならずともその時はその時で時代が変わる時なのだと受け入れよう」

「……」

「くれぐれも子どもたちの気持ちを尊重してやってくれ」

「……はい」


父親としての威厳ある言葉に尊敬の念を抱いた。そして好きという気持ちが溢れて仕方がなかった。



リュウビに甘く愛される。


たゆたう池の中でもう何度も感じた至福のひととき。



「ミズキ、愛しているぞ」

「私も……愛しています、リュウビ」



リュウビと出逢ってからまだほんの十五年程だというのにそれでも私の人生の半分以上はこの人と共にあった。



私は幸せ者だ。


短くも濃厚な生の営みを常に感じさせてもらっているのだから。



彼が護るこの蛟の杜にて昔も今も、そして──これから先もそう思う気持ちに変わりはないだろう。






深淵の彼方から(終)




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深淵の彼方から 烏海香月 @toilo

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