第14話 輿入れ(3)
長い時間をかけやっと目的の町に着いた時には薄暗くなっていた。
駅から出ると其処には辰朗さんが待っていた。
「瑞生ちゃん」
「辰朗さん」
「久しぶりだね。長旅お疲れ様」
「はぁ~~公共機関使って来ると車の時とは違う疲労感があるね」
「そうだね。あ、荷物持つよ」
「ありがとう」
私を迎えに来てくれていた辰朗さんは以前にもまして落ち着いた雰囲気になっていた。
駅から私が住むことになる且つての祖父の家まで車で30分程。その道中、辰朗さんと色んな話をした。
「美和さん、元気?」
「あぁ、元気だよ。もうじき臨月だというのに相変わらず畑仕事に夢中で」
「妊娠中も動いていた方がいいとは訊くけれど大きなお腹を抱えてじゃ大変そう」
「だよね。見ているこっちがハラハラするんだけど」
「ふふっ。ハラハラする辰朗さんが容易に想像出来るなぁ」
「ははっ」
辰朗さんは大学卒業後町役場に就職して其処で知り合った同い歳の美和さんと一年前に結婚していた。
美和さんは自給自足の生活に憧れこの町に引っ越して来て、その手続きやなんやらで役場に頻繁に訪れたことで辰朗さんと親しくなった。
そしてもうじき辰朗さんはお父さんになる。
「瑞生ちゃん、真っ直ぐ本家に向かっていいの? 何か買物するなら店に寄るけど」
「あ……食事の用意とかあるから食材買わなきゃいけないかな」
「大抵の物は冷蔵庫に用意してあるよ。昼間美和が買物して補充していたから」
「そうなんだ。ありがたいなぁ……お礼言わなくっちゃ」
「気にしなくていいよ。好きでやっているんだから。本当は今日も一緒に迎えに行きたいって言っていたんだけど昼間動き過ぎてちょっと辛そうだったから無理矢理置いて来たんだ」
「えっ、大丈夫なの?」
「大丈夫。多少辛そうじゃないと休まないからね」
「私、明日にでも美和さんに会いに行くね」
「あまり無理しなくていいよ。瑞生ちゃんだって本家に着いたらどうなるか分からないし」
「……」
愉しかった会話のトーンがほんの少し落ちた。
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