第11話 恋乞う(9)



年に一、二度、祖父のお墓参りに行くのも私が御池様の元に寄ることを想定して折り込まれていた。


そして祖父の家を手入れをしながら存続させているのもいずれ私が御池様の子を産み、育てるための場所として残しているということだった。


「瑞生ちゃんはそれでいいの?」

「え」

「本当に……そんな本当か嘘か分からない伝承を信じて、周りから一生を決められて、縛られて……それでいいの?」

「……」


辰朗さんは私に会う度にそう何度も問い掛けて来る。


それは私を心配してという気持ちからのことだと分かっているからありがたいなと思うのだけれど。


「僕は──」

「ありがとう、辰朗さん」

「……」

「いつも言っているけどね、私、最初の頃より御池様のこと、怖いとか思わなくなっているの」

「……」

「御池様ってね、相当歳を取っているいるはずなのに見かけはすっごく若いの。御池様になった時から歳を取らないからなんだって」

「……格好いいの?」

「すっごくカッコいいよ」

「瑞生ちゃんって見かけで騙されちゃうんだ。中身はとんでもない老人で半分神様だとかなんとかってそんな訳の解らないモノなのに…。本当にこの世に存在しているかどうかも怪し──」

「辰朗さん!」

「!」


私は大きな声で辰朗さんの名前を呼んだ。辰朗さんは酷く驚いて急ブレーキをかけ、車は金切り声を上げながら停車した。


「み、瑞生ちゃん、突然どうし──」

「辰朗さんが心にもないことを言おうとしたから」

「!」

「辰朗さん、本当はそんなこと思っていない。本当はちゃんと御池様のこと、信じている」

「……」

「ただ……心配してくれているんだよね? 私のことを」

「……」

「辰朗さん、優しいから。私が伝承に縛られているんじゃないかってひとり反発してくれているんだよね」

「……瑞生、ちゃん」

「でもね、安心して。私、ちゃんと自分で考えているよ御池様のこと。それに多分だけど私、もう御池様のこと……好きになっている」

「……」

「誰に強制された訳でもなく、ちゃんと自分で想っているの。御池様と添い遂げたいって」

「……」

「だから心配しないで。私は私の心のままこれから進んで行くから」

「……は、ははっ……参ったな、全く」

「辰朗さん?」

「やっぱり選ばれた女の子は違うね。僕よりもうんと歳下なのにしっかりしている」

「……」

「──分かった。もう何も言わないよ。瑞生ちゃんがそう決めているなら僕は野宮の者として瑞生ちゃんを支えて行くだけだ」

「……辰朗さん」



この時初めて口に出した『好き』という言葉。


これが私が御池様を真剣に想っていると自覚した瞬間だった。


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