第16話
その後は、ウチは布団に寝かされて紐でぐるぐる巻きにされた。
身動きができへん。布団があるだけ昨日より扱いは丁寧になって――ないやの! これは丁寧やないやの! 危うく騙されるところやったやの。
神父様はそのままベッドに入って寝たようやし、ウチは丸まった布団でうつ伏せ状態で放置される。このまま朝が来るのを待つのも嫌やの……。火の魔法で布団を焼いてって考えたけど、火事になったら大変やの。それこそ、神父様が許しても、信徒が怖いやの。大切な教会を焼いたら一瞬で退治されてまいそう。
目を閉じて、気が付いたら朝やった。けたたましいアラームが鳴り響いてる。早く止めて欲しい。神父様まだ寝てるん? それとも起きてる? ベッドの上はこっからやと見えへん。
「おはようございます」
「おはようございますやの……」
身支度の終わった様子の神父様はアラームを止めて、ウチを解放してくれた。やっとお布団巻きから脱出できたやの。ほんの少し汗ばんでるやの。
「では、私は朝のミサがありますので、けいは朝食を作ってください」
そう言って、ウチをキッチンに置いてけぼりにすると、神父様は歩いていった。
サキュバスがミサに出る必要はないからちょうどええの。朝食を作ってくれって言われたから、美味しいご飯を作って、胃袋をガッシリ掴んで、ウチの虜にしてやるやの!
冷蔵庫を開く。食材がきちんと並んでた。整理整頓清潔清掃って感じやの。やるやの……。独り身の男にしては、なかなかやの。
何が好きなんかはよくわからへんけど、ここのものを使えば変なものにはならへんはずやの。
昨日の朝はトーストとサラダを食べてたはずやから、朝はパン派なんかも。ウチは棚から食パンを引っ張り出す。一斤あるやの。まずは切らな……。こういう時は風の魔法でスパスパっといけるやの。えいっ!
「あ…………、皿も切れてしもた……」
そうっと新聞紙に包んでないないしといた。ないない。後でこっそり外に捨てに行こ……。
パンが切れたから次は火の魔法で焼くの。えいっ!
「真っ黒こげやの」
昨日は上手くいったのに! どうして今日は失敗するんやの……。外側の黒いところだけ剥いだらあかんかな。風の魔法で吹き飛ばしてみたけど、中までこんがり焼けてた。……うん。良い感じに炭になってるやの。勿体ないことをしたやの。
もっかいやりなおして、トーストが焼けたやの。後はサラダと何かスープとかそういうものを置いたらええんかな。
あ! ベーコンエッグトーストにしたらええやの! そしたら、ウチの株も上がるはずやの。美味しいの作ればメロメロになるはずやの。
そうと決まればベーコンを火の魔法で焼く! えいっ! 上手くいったやの!
次は卵を割って――……、殻が入って、黄身もグチャグチャになってしもた。これやと目玉焼きができへん。これはウチがスクランブルエッグで食べよっと。もっかい割るの! えいっ! ぐしゃあって潰れたやの。これもウチのスクランブルエッグに追加やの。
「……また、殻が入ってしもた」
これで5個目。残りの卵は1個だけ。これで決めてやるやの!
「何作る気なんですか?」
「はうっ!?」
「というか、まだできてないんですか。私はもう腹ペコなんですが」
無表情で腹ペコって言われたらちょっと怖いやの。背中を悪寒が滑り落ちていったやの。神父様はキッチンを見回してから溜息を吐いた。
「サキュバスって料理できないんですね。皿の数も減っていますし、パンも二人で食べるにしては多く切ってますよね?」
「……ごめんなさいやの」
「これだけキッチンを荒らしていますが、怪我はしていませんか? 火傷もありませんか?」
「ないやの……」
急に優しく問いかけられるから驚いてしまうやの。そのギャップにドキドキしてまうウチのおバカ! サキュバスがドキドキしてどないするんやの!
けっきょく朝ごはんは神父様が用意してくれた。次こそはウチ頑張るやの!
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