第36話

「神父様をもっとメロメロにする方法ってないんかなぁ」

「サキュバスって催淫術を使えるんじゃないかい?」

「できへんこともないけど……」

 そういえば、その手があったやの。

 って、おはるさんがウチの世話をしようとしてるってことは、ダメサキュバス認定されてるやの。これが困ったやの。ウチはダメダメなサキュバスやないやの! ここに来る前は、毎日せーえきを搾り取れるくらいにイケイケドンドンなサキュバスやったやの!

 それやのに、縄張りを盗られたやの……。あんな、ド派手で、露出するしか売りが無いようなサキュバスが好きやなんてわかってないやのっ! そりゃあ、向こうのほうが、えっちなことできそうやけど……、おっぱいもおっきかったけど……、むぅ。

「そういえば、おはるさんは何でダメンズエクソシストと一緒におるん?」

「ダメンズなんて言わないでくんなよ。あの人はあれでも一生懸命やってるんだからね」

 ……あかんの。参考にならへんくらいに惚れてそうやの。ピクシーの特性上、ちょっとばかりダメダメな人について行ってまうの。寝ている間に靴を作ったり、枕元に木の実を置いたり、やることは色々あるけれど、ピクシーはだいたいイタズラ好きやの。

 そう考えたら、おはるさんはイタズラせずに夏樹様のサポートをしてるようやから……、ぞっこんラブって感じやの。

 花壇の手入れも植木鉢の整理もできたし、次に何したら良いか神父様に聞きに行こ……。教会に入って、神父様がいると思われる部屋へ向かう。

 おはるさんはウチの肩に乗ってた。体が小さいから、飛んだり歩いたりするより誰かの肩に乗る方が移動しやすいんやと思う。楽して移動できて羨ましいやの。

 それにしても……、ウチの魅了チャームってほんまに効果あるんか心配になってきたやの。もっかい試してみる?

「お仕事終わりましたやの」

「ありがとうございます。マンドラゴラを抜きましたよね?」

「うっ、何でわかったん?」

「そりゃあ、あれだけ大声で叫ぶんですから、ここまで聞こえるに決まっているでしょう」

「それもそうやの」

 神父様はウチに白濁色の液体の入った瓶を渡してくる。働いたご褒美なんかな。飲んどこ……。エネルギー補給は大事やの。

 濃厚で美味しいやの。舌の上で転がす度に、少し苦味も感じるやの。それから甘味が押し寄せてくるような感じやの。美味しいやの。でも、この瓶にはなんちゃら牛乳って書いてないやの。いつもの牛乳やったら、どこのやつかすぐわかるくらいに自己主張の激しい名称がついてるのに……。これはただの瓶やの。

「神父様。これ、美味しいやの」

「そうですか。それは良かったですね」

「そんなに美味しいならあたいも飲んでみたいもんだねぇ」

「これはサキュバス専用のものなので、おはるの体には合わないと思います」

「サキュバス専用の牛乳なんてあるのかい?」

「……牛乳ではないですよ」

 神父様は目を細めて、唇をぺろりと舐めてた。なんかえっちやの。

 って、ウチ、何を飲まされたんやの!? まさか、サキュバス専用の毒? ウチ、ここでひどい裏切りにあった感じやの!?

 とは思ったけど、どちらかと言うと疲れがぶっとんだ感じやの。高揚感もあるやの。今なら何でもできそうなくらいにアゲアゲな気分やの!

「これ、そんなに多く作れなかったので、たまにしか飲めませんよ。覚えておいてください」

「これ、いったい何なんやの?」

「お前はずっと飲ませろって言っていたでしょう。それなのに、わからないんですか?」

「ま、まさか、神父様の……やの」

「私のとは言ってませんよ」

「え。じゃあ、誰のやの!?」

「そういえば、うちの人何処行ったんだい?」

 ダメンズエクソシストの姿が見えへん。これは、もしかして、やの?

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