第35話

 花壇のお手入れがひと段落したところで、ダメンズエクソシストが遊びに来たやの。

 遊びにって言うよりは、お仕事なんかもしれへんけど、ウチには遊びに来たように見えるやの。目に見えてへんけど、肩にはピクシーのおはるさんが乗ってるんやと思う。夏樹様のほっぺが異様に引っ張られてるやの。

 ウチは植木鉢に新しく球根を植えるように言われたから、作業を続けるやの。手で土を掘り起こして、用意されてた球根を植木鉢にぶち込んで、軽く土をかけてあげるの。これを十個繰り返したやの。ボランティア活動の一環らしいやの。神父様って色んなことやるんやの……、大変やの……。

 花壇の端に見慣れない葉っぱがはえてた。雑草なら抜いてあげなあかんけど、これは雑草? とりあえず、引っこ抜いてみるやの。

「えいっ!」

「ぴやあああああああ!」

「な、な、何やの!?」

 引っこ抜いたら、人の形をした根っこが叫んだから、ウチは慌てて埋めなおした。マンドラゴラがはえてる教会ってどうやの!?

 ウチ、叫び声聞いてしもたやの。人間やったら死んでたと思うの。悪魔で良かった……。

「あんた、マンドラゴラを抜いちゃ駄目じゃないかい!」

「知らんかったんやもん」

 頭にみずみずしい四つ葉のクローバーを乗っけたおはるさんがウチの隣に来た。透明の翅が光って、輝いて見えるやの。ピクシーの翅は虫のように透明で綺麗やから、ウチはちょっと羨ましい。ウチのはコウモリに似てるから、透明な翅が羨ましいやの。天使の翼も一枚一枚が抜け落ちるのが儚くてオシャレやと思うの。仲良くはできへんけど。

「あんなにすごい火の魔法を使えるのに、マンドラゴラがわからないとはねぇ」

「あれは神父様がオーバーキルしたやの。ウチはちょっと燃やした程度やの」

「あっはっはっは、そりゃわかってるよ。あの人はオーバーキルしがちなのさ。用心深いと言うか、信じてないと言うか、もしかしたら神さえも信じてないかもしれないよ。司祭だってのにねぇ」

「おはるさんは、あの人について詳しいやの?」

「いンや。うちの人より仕事ができるってことしか知らないよ」

 遠回しにダメンズって言われてる夏樹様可哀想やの。まっ、ピクシーに好かれてる時点で、ダメンズ認定されてるから、無問題やの!

「知ってることと言えば、ここの花壇の呪物フェティッシュは、魔女が喜んで取引に応じてくれるものらしいさ」

「神父様が魔女と仲良しなのも驚きやの」

「ああ、伯母さんだからねえ」

「伯母さん?」

「伯母さんさ。父のお姉さんだって聞いたよ」

 つまり、神父様のお父さんは……体に魔術回路を持ってるから、強い魔力を有してるってことになって……、そりゃ半分悪魔みたいなもんやのっ!

 だから、高速充電されるわけやの。ウチのバッテリーもすぐフルチャージされるってわけやの。ウチは電力で動いてへんけど。

 それなら、ますます神父様をメロメロにしたいやの。

「おはるさん。どうやったら、あの神父様をメロメロにできると思う?」

「あたいにゃそのメロメロって感覚がわかんないけど、もうなってんじゃないかい?」

「でもウチ、まだせーえき貰ってへん。事におよんでへん」

「そうは言うけど、あの神父様、今までならサキュバスなんてすぐにロケットランチャーぶっ放して木っ端微塵にしてたくらいさね?」

「……怖いやの」

 急にいなくなったサキュバスは皆ロケットランチャーで木っ端微塵にされたって考えたら、怖いやの。怖すぎて、ぶるぶる震えてしまうやの。

「その肉片でこの花壇が栄養満点の土だって噂」

「ひゃうっ!?」

「冗談さ。ここの土はうちの人が薬物調合してる安全な土さね」

「驚かせんといてやの……」

 あの神父様なら、返り血を浴びても舌なめずりしてそうやし、獲物をバラバラにして土に混ぜそうやから、怖いやの。信じてまうやの。ぶるぶる。

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