第34話

 ちびっこの声を聞いて、大人が集まってくる。大変やの。教会に悪魔がいるってバレたら、ウチは全力で逃げたらええと思うけど……神父様が……。

「ぼうや、今、この修道女さんを見て言ったかい?」

「うん! こいつ、悪魔だ!」

 ちびっこはウチを指差しながら言う。何でわかるんやの。ツノも隠してるし、尻尾も翼も服の中に隠れてるのに……。もしかして、尻尾がスカートから出てた? 足元を確認してみる。ううん。出てへん。魔法を使ってたから? 魔女やエルフがそのへんにおるんやから、悪魔に限定されるんはおかしいやの。

「悪魔くらいいるだろうに。神父様だって半分はそうなんだから」

「そうそう。ぼうや、悪魔でもね、神様を信じる子はいるのよ」

 あれ? ウチが言い訳を考えている間に解決したやの? ウチ、悪魔ってバレても問題ない感じやの?

 というか、今、神父様も半分悪魔って言わんかった?

「騒がしいですね」

「あ、神父様……、ウチ……」

「神父様! こいつ、悪魔だ!」

 ちびっこは神父様に近寄ってウチを悪魔って何回も言うてる。神父様は何て答えるつもりなんやろ。勘の良いガキは嫌いですよって言うて爆破したりせぇへん? 大丈夫?

「けいは悪魔ではなくて、天使ですよ」

「天使!? それなら、天使の羽見せてよ!」

「羽を見せるには服を脱いでもらわないといけませんし、女性の服をここで脱がすのは神に仕える身としては許せません」

「証拠見せて!」

「仕方ないですね。けい。天使の輪でも見せてやってください」

「は、はいやの」

 天使の輪……。天使の頭の上にある電灯みたいなやつやの。えーっと、イメージ。イメージして、集中! えいっ!

「見えました?」

「すごーい! 天使様だ! 教会に天使様がいる!」

 ちびっこは嬉しそうに走っていってしもた。

 なんとかなったやの? ちびっこには天使って信じてもらえたやの? これで教会の評判もあがりそうやの。天使がいるなら、教会もきっと良い感じになるはずやの。何しろ、天の使いがおるんやから! まあ、ウチは悪魔やし、サキュバスやけど。

「お前の幻術って効くんですね。私には全く見えなかったんですが」

「ウチ、幻術は得意やの!」

「それは初めに聞いたような気がします」

 今、さり気なく「お前」って言われたやの。ちょっと親密度が上がったような気がするやの。はじめに比べたら、だいぶ扱いが良くなってきたと思うやの。ポイッてされてへんだけ。

「あの、神父様。さっきここにおった人が、神父様は半分悪魔って言うてたんやけど」

「母がダークエルフだからかもしれませんね」

「ダークエルフと悪魔は別種族やの」

「そうです。世の中には名前がわからないからと柑橘類を全て『みかん』と呼ぶ夏樹のようなやつがいるので、それと同じ感覚かと」

 ダメンズエクソシストの語彙力の無さを教えられたような気がするやの。遠回しに悪口を言うてる気がするやの……。

 神父様と一緒に花壇の水やりを再開する。ウチは水の魔法で雲を出してたけど、神父様はじょうろで水をあげてた。ゾウさんのじょうろを持ってうろうろしてる姿に変にキュンとしてまう。これがギャップ萌えってやつなんかもしれへんやの……。ちょっと可愛いやの……。

「四つ葉のクローバー見つけたやの」

「それは摘んでおいてください。おはるに渡してやらないといけません」

「ピクシーの必須アイテムやの」

「これがないと姿が見えないですからね。不思議な種類ですね。それに比べて、けいはいつでも見えるから、目の保養に良いです。長いスカートから見えるくるぶしが良い」

 ……神父様、すごく性癖がダダ洩れになってるけど、大丈夫やの?

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