第21話

 午後8時半。神父様はお風呂に入るみたいやの。一緒に入ってええんかな。後ろをぽてぽてついていってみる。

「何か?」

「お背中お流ししますやの」

「遠慮しておきます」

「あ」

 ピシャリッ! ドアを閉められた。カギがかかってるやの。開かへん。

 仕方ないから、リビングのソファでゴロゴロするやの。お外に行ってもこの時間やとまだ寝てる人は少ないから、夢の中に入られへん。深夜になったらお外に行って、夢に入り込んで精力を吸い取ってやるやの。今日こそは、せーえきも搾り取ってやりたいやの!

 神父様が相手してくれたら一番ええんやけど……、今夜こそはメロメロになってくれへんかな。また布団で簀巻きにされへんか心配やの。あれは、翼がギュウギュウして苦しいから嫌やの。

 ふとテレビ台を見たら、写真立てが伏せてあった。倒れたんかな? それとも、わざと伏してる?

 ウチは写真立てを摘まみ上げる。家族写真やと思う。金髪で赤い目の男の子が、金髪で、翠色の瞳で、褐色肌で、耳が尖ってて、おっぱいがぼいんぼいんしてる女の人と手を繋いでる写真。神父様とお母様なんかな。……ほんまにすごい綺麗な人やったやの。神父様の顔が整ってるから、そりゃそうなんやけど、ほんまに綺麗やの。

 お父様が写ってないんは、撮影してる人やからかな? もしかしたら深い事情があるんかも……。踏み込んだらあかんところなんかも。討伐されてもうたかもしらへんし。遺影やったりする? こればかりは神父様に話してもらわなわからへん……。

 お風呂上りでほかほかの神父様がリビングに戻ってくる。ラフな服装やから、ぴっしりした服とのギャップがすごいやの。……おっぱいあるやの。谷間があるやの。胸筋がすごいやの。

「何持ってるんですか?」

「これ、倒れてたから……」

「ああ。母と私です。これを撮ったのは父ですよ」

 聞いてへんけど、神父様に先にウチが聞きたいことを言うてくれた。これ以上話したくないって意思表示なんかもしれへん。ますます気になって仕方ない。

「神父様って、何で聖職者になったやの?」

「貴女に答える必要はありません。風呂が冷めるから早く行ってください。追い焚きをしたら余計なガス代と水道代がかかるんです。ただでさえ私一人だったところに貴女が来て食費が嵩むんですから」

「わかりましたやの」

 やっぱり触れられたくない何かがあるんかも。

 ウチは写真立てをテレビ台に置いて、お風呂に向かった。

 浴室は湯気で真っ白やった。肌を蒸気が包んで、湿り気を帯びる。スチームサウナに入りたくなってきたやの。魔界やったら、何処にでもスチームサウナが並んでるけど、ここやと何もないやの。

 髪を洗って、体を洗って、翼も尻尾もツノも綺麗に磨いて。ピカピカやの!

 脱衣所に出たら、着替えが置いてあったやの。神父様、用意してくれたみたいやけど、いつ入ってきたんやろ? 音が全くしやんかった。

 今日の寝巻は、どでかいウサギがプリントされたTシャツ。驚きのダサさやの。ダサカワイイって言うんかもしれへんけど……ビミョーなところやの。

 リビングに戻る。神父様はソファで寛いでたから、ウチは隣に座って、腕にくっついてみた。おっぱいで腕をぎゅっぎゅしてあげる。ほとんど無表情のまま、顔がこっちを向く。

「何してるんですか?」

「神父様の腕が逞しいから、抱き着いてるやの」

「はあ? 昔、そういう人形が流行りましたね。何という名前か忘れましたが、腕にくっつくビニール製の人形でした。夏祭りの出店で売っていて……私は欲しくなかったんですが、夏樹が欲しがって騒いでいたことを覚えています」

「神父様も夏祭りに行くんやの」

「昔の話ですよ。最近は人間が多いところが嫌なので行ってないです」

 わざわざ「人間が」って言うくらいやから、やっぱり何か事情があるんかな?

 ちょっと深く聞いてみたくなってきたやの……。

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