第22話

「神父様は、人間好き?」

「どういう意図の質問なのかわかりませんが、特に好きでも嫌いでもないです。興味無いですね」

 無関心ってことなんかな? 『好き』の反対は、『無関心』やから、なかなか深い回答やの。

 何か他にも聞いてみよかな。今やったらそれなりに相手してくれそう。教会でお仕事してる時はウチにかまってくれへんから、こういう自由時間がチャンスやの。上手くいけば、そのままメロメロにできるし、ウチは精力もせーえきも貰えるやの。今くっついてるだけでもほんのちょっとずつエネルギーが充電されていってるような感じがするの。やっぱりこの神父様は相当な魔力を持ってるやの。……魔力回路があるタイプなんかも。ダークエルフの血が混ざってるんやったら、その可能性もあるし……。

「いつまでくっついてるんですか」

「エネルギー充電中やの。神父様がウチにせーえきくれへんから、こうやってちょっとずつ回復してるんやの」

「効率が悪すぎませんか」

「それなら、せーえきちょーだいやの」

「飴をあげるから我慢してください」

 神父様はテーブルの上のカンカンを手に取って、パカッと開いた。色とりどりの飴ちゃんが入ってた。知り合いの魔女さん、こんなに作ってくれたんや。

「ほら」

「口移しが良いやの。唾液を貰えたら、ウチはもっと元気になるやの」

「元気になりすぎても困るんですが」

「ウチが、教会で衰弱死してもええの?」

「サキュバスが教会で衰弱死してもなんら不思議ではないと思いますよ」

 そう言いながら神父様は飴の包み紙を開いて、自分の口に放り込んだ。すぐにバキバキッ、と信じられないくらい大きな音がする。

 口の中がちらっと見えたけど、神父様の歯、すごい尖ってるやの。ダークエルフの血が濃いといっても、ダークエルフの歯は人間と同じようなものやったはず。恐ろしいやの。

「それにしても、甘いですねこれ」

「げろげろな甘さやの。ウチはもうちょっと苦いほうが好きやの。甘いのもええと思うけど、苦いのも嫌いやないの。オトナの味って感じがするやの」

「せっかく作ってもらったんですから、きちんと食べてくださいよ」

「小焼様、口移ししてやの」

 名前を呼んでおねだり。ウチの魅了チャームの効果が出てるなら、これで口移ししてもらえるはずやの。

 神父様は飴の包み紙を開く。目が合う。ウチは目を閉じて、唇を突き出す。

 その途端に口に飴を突っ込まれた。

「貴女に唾液を与える訳ないでしょうが」

「うぅ、ケチやの」

「ケチではありません。普通です」

 口の中で飴ちゃんを転がす。甘いやの。げろげろな甘さやの。神父様はまた食べてる。勿体ないから一緒に食べてくれてるんかな……。

 でも、これって、せーえき入りやなかった?

「神父様。この飴ちゃんって、せーえき入ってるやの?」

「牛乳キャンディなんですから入ってませんよ。何を言ってるんですか」

「でも、ウチの求めてるものが入ってるとかなんとか言ってたと思うの」

「牛乳です」

 会話が終わってしまったやの!

 ウチはけっきょく牛乳で回復してたってことやの!? 騙されたやの……。

 歯磨きをして、就寝前のお祈りをして、寝室に移動してきた。

「今日は私が布団で寝ますので、けいはベッドで寝てください」

「わかりましたやの」

 ウチは言われたとおりにベッドに入る。神父様が寝付いたところを襲ってやるやの!

 目を閉じる。ふかふかのお布団で気持ち良いやの。安眠できそうやの。……って、まだ寝るわけにはいかへんの! ウチは神父様を――……。

「けい。もう寝たんですか?」

 耳元で囁かれて驚いた。あれ、もしかして、ウチが襲われるやの?

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