第19話

 孤児院でのお仕事も終わって、教会にびゅうううん! と戻ってきた。いつになったら神父様の車は、車検から戻ってくるんやろ……。バイクで振り落とされへんようにしがみつくのも大変やの。

 キスしてもらったから、元気げんきやの。シャンデリアのお掃除は終わってるから、天井のステンドグラスでも拭いとこかな。

「神父様。ウチ、あのステンドグラス拭いてくるやの」

「助かります。バケツと雑巾ならキッチンの隅のやつを使ってください」

「はいやの」

 服をぽいぽいっと脱ぎ捨てて、いつもの服に戻る。修道女の服は尻尾も翼も出されへんから窮屈やの。

 キッチンでお水をバケツに入れて雑巾を放り込む。掃除用具がけっこう置いてあるから、神父様は綺麗好きなんかもしれへん。そういえば、食器棚も整頓されてたやの。冷蔵庫も調味料をこぼした跡すらなかったやの。

 ステンドグラスまで飛び上がって、拭き掃除をする。バケツはシャンデリアに引っ掛けておいたやの。綺麗になったら、気分が晴れやかになるやの。ハレルヤってやつやの。意味はわからへんけど。

「神父様。ハレルヤってどういう意味やの?」

「『神を褒め称えよ』という意味ですよ。貴女には関係ない言葉では?」

「全く関係ないやの」

 神父様は夕のミサの準備をしてた。ウチ、夕のお祈り中にお掃除してて良かったんかな……。何も言われへんかったから良いことにしておくやの。それに、神様も教会が綺麗なほうが良いに決まってるやの!

「そろそろ人が来るので服を着てください」

「はいやの」

「……思ったんですが、それって制服か何かなんですか?」

「何でやの?」

「いえ。腹が冷えないか心配になったので」

 急に優しくしないでほしいやの!

 またドキドキしてもうたやの。ただの疑問やと思うのに、その疑問の理由が優しすぎて困るやの……。

「大丈夫やの。ウチのここには、あったかいものがいっぱい入ってるやの」

「牛乳しか入ってないと思いますが」

 ……それもそうやの。蓄えがないやの。これやとインキュバスも真っ青になってしまうくらいやの。

 かと言って、神父様を誘っても全くつれへんし……、今夜こそ何処かの家の男から搾り取ってやらな。

「あと、どうして靴下の色が左右違うんですか? 紛失したんですか?」

「こういうオシャレやの!」

「洗濯機で迷子にさせたのかと思ってました……」

 言い方が可愛いやの。何やの、洗濯機で迷子って表現……!

 神父様は見た目が仏頂面やし、つっけんどんやから、変なギャップがあって困るやの。落ち着くんやの。サキュバスがドキドキしてどないするんやの。ウチがドキドキさせなあかんのに!

「ついでに聞いておきたいんですが、貴女って、何が好きなんですか?」

「男がウチの下でとろけてるのを見るのが好きやの」

「自分がとろけるのは嫌なんですか?」

 何でか壁際で問い詰められてる。これは、チャンスやの? やっとウチにメロメロになった? ウチの魅了チャームが効いた?

「サキュバスって上に乗るイメージしかないんですが、下になることはあるんですか?」

「ないやの。でも、ウチ、神父様になら、乗られてもええの」

「は?」

 ギロッと睨まれて、思わずその場でジャンプしてもうた。

 ダークエルフって邪眼持ちやったっけ? なんか、めっちゃ、背中を悪寒がはしっていったやの。

「すぐ調子に乗るんですから」

「神父様なら、ウチ、いつでも大歓迎やの」

「貴女にエサを与えることはありません。ほら、人が来るのでそこに座っててください」

 神父様はウチから離れて、準備を再開した。メロメロまでの道は遠そうやの。

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