第2話
翌朝。午前5時。やかましいアラーム音がウチの頭をぐらぐら揺らす。
アラームをセットした張本人がベッドにすでにおらへん!
ウチは紐で体をぐるぐる巻きにされて身動きが取られへんってのに、ひどい!
「ああ、アラームをセットしていたことを忘れました」
そう言いながら部屋に戻ってきた神父様は、既に身支度が終わってるようやった。
教会ってこんなに朝早くから何かしてるん? ウチ、わからへん……。
神父様は縄を解く。逃げ――るんはやめとこ。この神父様に魅了は効果無いし、どうせ尻尾なりツノなり引っ張ってくるから嫌やの。もげるか折れるかしてまうやの。
「悪魔でも縄で縛られたら逃げられないんですね?」
「だって、ウチ、戦闘系の悪魔やないもん……。戦えるような子やったら、とっくに神父様を八つ裂きにしてるやの」
「だからあちこちで牛乳泥棒してたんですか?」
「ちがうやの。ウチ、せーえきが欲しかったんやの……。サキュバスにとって、せーえきや精力は生きる糧やの。でも、気付いたら牛乳を掴まされてたやの」
「そのあたりはどうでも良いですが、とりあえず……、その服装は教会に似つかわしくないので、これを着てください」
ポイッとぞんざいに修道女の服を投げられる。
教会にサキュバスがおること自体がアウトやと思うんやけど……それは気にしてへんのかな。ウチの服装についてしか言うてへんし。
「ツノと尻尾と翼もどうにかしてください」
「幻術で消せるやの」
「……幻術が使えるんですか?」
「使えるやの。えいっ!」
幻術には自信がある。
これで、この町以外の男からせーえきを搾り取れてたやの。
だから、これで……! 今度こそ、この男をメロメロにしてやるやの!
「今って何か幻術かけてるんですか?」
「え? ウチを神父様の好みの女に見えるようにしてるやの。どう? どう? 思わず抱いてみたくならへん?」
「……全く変わりないですよ」
「むむむむっ!」
ウチの
やっぱり、聖職者やから、そこらの男のように一筋縄ではいかへんってこと?
「もしかしたら、私の好みが素のままの貴女かもしれませんが」
「はうっ!?」
ウチがドキドキしてどうするやの!? サキュバスをドキドキさせるなんて、この男、なかなかやるやの……。
昨日も物理的にドキドキしたやの。ツノを掴まれてポイッて投げられた時とか。
「では、私は6時から朝の祈りがありますし、6時半から朝のミサがありますので」
「ウチはどうしたらええの?」
「私の手伝いです。それにしても、この教会には私しかいないので、貴女のツノ類が見えないか確かめようがないですね」
そんなことを言いながら神父様は部屋から出ていくから、ウチはその背中をぽてぽて追いかける。ウチの頭一個分は背が高い。
ウチはサキュバスの中でも背が低くて「ロリ趣味の男向け」って言われる種族に入るから、神父様の身長は男性の平均身長なんかも……。
どうやら教会の二階にウチは忍び込んでしまったみたい。暗がりやったからって油断したやの。匂いに釣られてホイホイ入ったらあかん場所やったやの。
「そういえば、神父様のお名前は?」
「人に名前を尋ねるなら、自分から名乗るのがマナーですよ」
「ウチは、けいやの」
「やのも名前ですか?」
「違うの! けい! 名乗ったから、神父様の名前も教えてやの」
「悪魔に名前を教えると思いますか?」
「ひどいやの! うそつき!」
「私は一言も自分の名前を教えるとは言っていませんし、マナーの話をしただけです。『神父様』と呼べるんですから良いでしょうが」
「ずるいやのー!」
「けい。騒ぐな」
うっかり真名を教えてもうたから、神父様に名を呼ばれただけで、体が痺れてまう。
うぅう、ずるいやのー! 絶対にやり返してやるやの!
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