ホットミルクをあなたと

末千屋 コイメ

第1話


「お邪魔しますやの」

 窓からひっそり入り込む。ここまでは順調。

 あとは、活きの良い男からせーえきを奪うだけ。かんたん、簡単やの。

 ベッドですやすや気持ちよさそうに寝てる男に近づく。活きの良い男やの。きっと良質な体液を持ってて、精力に満ち満ちてるの。

 瓶に詰めて置いてるなんて、食ってくれと言ってるようなもんやの。瓶を奪って退散!

 入ってきた時と違う窓から出て、屋根にお座りする。

 奪った瓶をこじ開けて、中身を飲み干した。

「…………ちがう。これ、牛乳やの」

 また失敗した。

 これで通算三百六十六回目!

 毎日牛乳飲んで健康的ー! なんて笑ってられへん。

 寝室に牛乳を置くなんて間違ってるやの!

 わざとこぼしてお布団を臭くしてやりたいやの!

 しょうがないから、次の獲物をさがそ。香りでわかる。活きの良い男が近くにいる。

 もし人間が起きても、サキュバスのウチには、魅力チャームがある。メロメロにして、たっぷり搾り取ってやるだけやの!

 月光を背に浴びながら屋根から屋根へ。

 男の匂いが濃くなった。この家やの!

 窓から入って、長い廊下を歩く。

 なかなか大きなお家やの。さぞかし良いものを食べてるんやろなぁ。ウチもそろそろ良いせーえきが欲しい。

 匂いを辿って寝室にもぐりこめた。男はベッドでもぞもぞしてる。とても良い香りの白い液体がコップに入ってる。手に取って飲み干した。おいしい牛乳やの。もう騙されへんの!

 寝てるなら、夢の世界に入り込んで――……。

「ぎゃっ!?」

「何ですか貴女」

 夢に入ろうと上に乗っかってキスしようとしたら、ツノを掴まれて、ポイって投げ捨てられた。いたい……。

 でも、起きたら起きたで、ウチには魅了があるの! メロメロにしてあげるやの!

「……貴女が最近この辺で噂になっている牛乳泥棒ですか」

 あれ? 効いてへん? 普通ならメロメロになって何にもできへんくなるはずやのに。

「まあ、何でも良いですが、私が翌朝楽しみにしていた特濃生乳を飲み干した罪は重いです。神が許しても私は許しません」

「神なんて、ウチには関係無いやの!」

「よく見たら、すごく露出してますね。お腹冷やしませんか?」

 急に優しくなったやの? やっぱり魅了効いてる? ウチにメロメロになってる? それなら、せーえきを搾り取ってやらなきゃ!

「寒いから、あなたに暖めて欲しいの。ウチをベッドに入れて?」

 ぴったりくっついて上目遣いでおねだり。これで完璧!

 やと思ったら、ツノを掴まれてポイってされた。

「何でそんな雑な扱いやの!?」

「サキュバスを丁寧に扱うわけないでしょう。私はこの町の教会の責任者ですし」

 これは完全にウチの負けやの。

 まさか聖職者の家に入ってまうなんて……。祓われる前に逃げなきゃ。

 回れ右をしたところで、尻尾を引っ張られた。痛い。

「逃げるな」

「痛いから離して!」

「離したら逃げるでしょうが。とりあえず、貴女には、今まで町中で飲んだ牛乳分働いてもらいます」

「それなら身体で支払うやの」

「貴女にエサをやるような馬鹿な真似はしませんよ。ですが、主もサキュバスに慈悲を与えるでしょうから、3日に一度は慈悲を与えましょう」

「神父様のせーえきくれるん?」

「いえ。牛乳です」

「そんなぁ……」

「今すぐエクソシストに祓われるか、ここで私の手伝いをするか選べ」

「……ここで働かせてください」

 こうして、ウチは教会のお手伝いをすることになった。悔しい!

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