第6話

 神父様のお名前が小焼こやけってわかったから、これでウチの魅了チャームも効くようになるかもしれへん。

 ウチの目の前でエクソシストの夏樹様はピクシーのおはるさんにボコボコに殴られてる。

 肩に乗る小鳥ぐらいのサイズやのに、攻撃力が高いから、このピクシーなかなかやるやの。

 伊達にダメンズの世話をしてないと思うの。世話できればできるほど懐いていくはずやから、この男、めっちゃダメンズやったりせえへん?

 ひとしきりボコッたらピクシーの姿は消えた。頭に乗っけてた四つ葉のクローバーを取ったんやと思う。

 消えたけど、夏樹様の頬が不自然なほど横に伸びてるから引っ張られてる……。ちょっぴり可哀想になってきた。エクソシストやからウチの天敵のはずやのに、扱いが可哀想。

 やっとこさ施設案内が始まる。夏樹様の背中をぽてぽてついていく。

 孤児院の中はあっさりしていた。思ったよりも簡素な造りをしてて、余計なことにお金を使っているようには見えへん。教会が運営してるから? でも、あの教会は豪華絢爛なシャンデリアにステンドグラスにって感じに派手派手やったやの。宗派の問題なんかな。まったくわからへん。

 話をテキトーに受け流しつつ、見学する。ウチは修道女の服を着てるから子供達が「シスター!」って言いながら駆け寄ってくる。

「シスターは、神父様のお嫁さん?」

「違うやの」

「おいおい、おまえら。小焼はお嫁さん貰えないぞ。なんと言っても真面目な司祭様だからな!」

「夏樹せんせーが威張って言うことじゃないと思いまーす」

「思いまーす!」

「言ったなぁ!」

 鬼ごっこ開始の合図やったんかな。

 ……そっか、宗派的に恋愛ができへんねや。だからウチに恋愛相談に乗ってくれって言ったんや。

 それなら、女性耐性が無いってことやの。しめしめ……。これはチャンスやの。童貞が相手なら、おっぱいを揉ませたら余裕やの!

「あんた、悪だくみしてそうだけど、無駄だと思うよ。あの兄さん、ちょっとやそっとじゃ表情が変わらないからねぇ」

「ふぇっ!? 急に出てこんといてやの!」

「サキュバスなのに驚かないでくんなよ。あたいでも傷つくんだよ」

 いつの間にかウチの肩におはるさんが乗っかってた。そういえばちょっとずっしりした感覚があったやの。

「悪いこと言わないから、さっさと町から出て行くかうちの人に退治されな」

「退治されたくないやの」

「それなら出て行きな」

「そうしたいのはやまやまなんやけど……無理やの」

 ――ウチは今まで飲んだ牛乳分神父様を手伝わんとあかんから。

 そう答えたら、おはるさんはケラケラ笑ってた。透明の翅をぱたぱたさせて、ひっくり返るくらいには笑ってた。何でそんなに笑われてるかさっぱりわからんちんやの。

「今のうちに逃げ出すとか思わないのかい? 悪魔なのに真面目なんだねえ」

「あの神父様なら地獄の果てでも追ってきそうやもん……」

「まっ、あの人から精力を抜き取れたら良いね。ちょっとあんたを応援したくなってきたよ」

 遠回しに落ちこぼれサキュバス認定されたやの。ピクシーに応援されるってことは、ダメダメなことやの!

 ウチだって、この町に来る前はブイブイ言わせてたのに! 牛乳ばかり飲まされてなかったもん!

 夏樹様が鬼ごっこから戻ってきたので、おはるさんは肩に飛び乗ってた。

「案内はこれぐらいかな!」

「夏樹様はここで何してるやの?」

「そのまま。悪魔祓いだな。でもまあ、おれは医学的なケアをすることが多いかな。病気とか精神性の疾患で悪魔に憑かれてるって妄想を抱いてることがあっからさ。それの見極め。そんでから、儀式だな。おまえには説明しねぇけど」

 説明されても困るからええの。それに、サキュバスに何してるか教えたらあかんと思う。この人、やっぱり、ダメンズやの……。

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