第38話

「そもそもどうしてそれが欲しいんですか?」

「精力を吸い取って生活してるからやの。せーえきを貰ったら、元気になるんやの。あと、種族の繁栄にもなるんやの」

「……そういえば、サキュバスって孕まないらしいですね」

「そうやの。人間を孕ませるやの」

「迷惑行為はやめてください」

「ウチ、そんなことしてへんの」

 そもそも、せーえきを持ってないんやから、孕ませることなんて不可能やの。想像妊娠ならさせられるかもしれへんけど、そんなことをするために女の夢に入り込みたくないやの。ウチは、活きの良い男の精力を抜き取りたいやの。

「まあ、お前は悪事をしていないので、ここに置いているわけですが、何かしたら即座に焼き払いますからね」

 焼き払うって怖すぎるやの……。やっぱり花壇に肥料として撒かれてるんかもしれへん。この教会を襲撃した魔物は皆、肥料になってしまったんやの……。

 そんで、畑ではマンドラゴラが元気良く成長してるやの……。マンドラゴラがはえてる教会っておかしいやの。悪魔教会と一緒やの。

「それで、小焼様はウチにせーえきくれへんの?」

「エサは与えないと言ってるでしょうが」

「牛乳はエサやないの?」

「エサですね。いえ、この不毛なやりとりをする必要は無いんです。夏樹ので我慢してください」

「これ、夏樹様のせーえきやったやの?」

「夏樹は医学知識があるので、似たようなものを作っただけですよ。主原料は卵白なので、たんぱく質と言う点では同じですね」

 疑似せーえきやったやの! オトナの教育ビデオでよく使われるやつやの。ウチ、また、騙されたやの。でもでも、元気になったから、何かしらあるんかもしれへん。エクソシストの手作りやから、サキュバス避けとして使われるものなだけかもしれへんけど……。

 これ、けっこう美味しかったから、これなら騙されてもええかも。けど、夏樹様が疲れて寝てるって意味がわからへん。

「夏樹様がどうして疲れてるん?」

「搾り取るのに疲れたからですよ。聖職者なので禁欲はできるんでしょうが、発散する時は我慢できなくなって、めちゃくちゃになってしまうわけですね」

 これ、やっぱり、せーえきやない?

 神父様が嘘を吐いてるようには見えへんけど……、表情がほとんど変わらへんから、嘘吐いててもわからへんような気がするやの。

 むしろ、神父様は何をしたら表情が変わるんやの? ごはん食べてる時はちょっぴり嬉しそうに見えるんやけど、傍から見たら全く変わってないような気がするやの。

「で、お前にエサを与える時は、上の口が良いんですか? 下の口が良いんですか?」

「お口は上だけやの」

「下の口から涎を垂らしてるんじゃないですか?」

「そんなことないやの。お口は上だけやの!」

「……けいって男から精力搾り取ったことあるんですか?」

「あるやの! ウチ、この町に来る前は色んな男をメロメロにして、百戦錬磨やったやの」

「どうしてこの町に来たんですか?」

「縄張り争いで負けたんやの……」

「それはそれは」

「笑わんといてやのっ!」

 神父様は口を手で押さえてた。こんなタイミングで笑うってひどいやの。嘲笑われてるやの! 馬鹿にされてるやの! ひどいやの!

「笑ってないですよ。それは、つらかったですね。お前は戦闘向きの悪魔ではないから、つらかったでしょう。これでも食べて元気出してください」

 神父様はウチの手に飴ちゃんを握らせた。この前のと包み紙の色が変わってるやの。ウチは飴を口に放り込む。美味しいやの。

「美味しいやの」

「それは良かったです。私のを提供した甲斐がありました」

 神父様、今、何て言うたやの? 私の何を提供してるんやの?

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