第28話
神父様の顔の前で手を振ってみる。反応無し。完全に就寝中やの。
これなら、夢の中に入って、あんなことやこんなことをして、せーえきをゲットできるはずやの!
……でも、神父様に触ったら、ウチはぶっ飛ばされるんやなかったっけ? 何されるんやったっけ? 逆さ吊り? でもでも、これはウチが生きるために必要な行動であって、生理現象であってぇ……、でもでもでも、退治されたくないやの。ウチ、戦闘系の悪魔やないし……、どちらかというと状態異常でえげつないデバフをくらわせるタイプやし……、エクソシストを呼ばれて退治されるのは嫌やの。神父様にグレネードランチャーで木っ端微塵にされてまうかも……! 怖いやの!
ウチはそうっと、伸ばした手を引っ込める。退治されたくないやの……。痛いのは嫌やの。怖いやの。
触ったら駄目って言うけど、このベッドで二人寝るんはちょっと狭い気がするやの。お布団で寝る? でも、神父様は添い寝しても良いって言うてたし……、横におるだけで少しずつエネルギー充電される気もするやの……。
向かい合わせで寝るのは、ちょっぴり恥ずかしいやの。サキュバスのウチが恥ずかしがるっておかしいけど、なんか、恥ずかしいやの。きっと、神父様の顔が綺麗やからやの。長い睫毛に爪楊枝でも乗せられそうな気がするやの。
神父様に背中を向けてお布団に潜り込む。先に神父様が入ってるからもうお布団はぬくぬくやの。目を閉じる。感覚が研ぎ澄まされて、色んな音が聞こえる。教会の周りには木がいっぱいあるから、フクロウが鳴いてる。他にも妖精がおるんかな。色んな声が聞こえるやの。
「襲わないんですね」
「ふぇっ」
「……けいは、良いサキュバスですね」
起きて、たんやの……?
ううん。声は寝ぼけてるような感じやの。寝言? 後ろにおるからわからへん。
ぎゅっ、と擦りつくように抱き着かれてしもた。急なアプローチにドキドキしてまうやの。サキュバスやのに。ウチ、サキュバスやのに! 何でこんなにドキドキさせられなあかんの! ウチがドキドキさせたいのにぃ!
「あの、小焼様……。どうせなら、おっぱいでも触って――」
反応無し! もう寝落ちたんやの? ウチ、抱き枕のようになってるやの。密着されたから、急速充電のようになってるけど、これはこれで、生き地獄やの! 生殺しやの!
けっきょく、抱き枕にされたまま、朝になったやの。
ウチが目を覚ました時には、神父様はいつもの神父様やった。身支度がきっちり終わってる状態で、寝ぐせもついてへん。
「おはようございます」
「おはようやの……」
「貴女を抱き枕にすると快眠できますね。今夜もお願いします」
「それなら、もっと心地良くしてあげるやの」
「その方法は遠慮します。これどうぞ」
相変わらずつれへんやの。
神父様はコーヒーカップを差し出してきたから、ウチは黙って受け取る。
白い液体がカップの八分目まで入ってる。ウチに牛乳あげといたらええとでも思ってるんかな……。何も貰われへんよりはマシやから、黙って飲んどこ。……牛乳飲む度にウチの労働契約が延長されてまうけど……、エネルギー切れになりたくないんやもん。
口に含んで舌の上で転がす。味が、変やの。昨夜飲んだのと違うやの……。
「神父様、これ、牛乳にしては味がおかしいやの」
「牛乳とは言ってませんよ」
「じゃあ、何やの?」
「ヤギ乳です」
ヤギ乳にしても……なんか混ざってるような気がする……。
いつもより、魔力がわいてくるような感覚があるし……。もしかして……?
「神父様の体液入ってるやの?」
「どうでしょうね」
否定せぇへんかった。いつもきっぱり否定するような人やのに……。
「おかわりちょーだいやの」
牛乳やないから、ウチの労働契約にも関係ないやの! ヤギ乳万歳やの!
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