第29話

 身支度を整えて、本日もウチは修道女としてお仕事やの。

 と言っても、神父様が何をしてるんかはよくわかってへん。毎回お祈りしてるけど、何の意味あんの? って思ってまう。

 今日は入信者の洗礼があるみたいなんやけど、見ててもよくわからへんの。色んな手順を踏んで、入信するってことなんやけど……、ウチ、されてへんし。そもそも、ウチが神に祈るなんておかしいやの。くそくらえやのー!

 おせんべいのようなパンを毎回食べなあかんし、ぶどう酒はちょびっとしか飲まれへんし……これに何の意味があるんかさっぱりやの。

 次はとっくに洗礼されて、熱心に教会に通ってる人にゆるし・・・をあたえてた。自分で自分を許すような神父様やから……、これ、ほんまに意味あるん? 神父様に許してもらえたら、神にも許してもらえるってことなん? よくわからへん。

 で、やっと朝ごはんやの。

 ウチが作ったら大事故になるって思われてるようで、今日はキッチンに立たせてもらわれへんかった。

 今日の朝ごはんは……、白濁色の液体で満たされたコップが置かれる。

 もしかして、これだけ? 急に雑になってへん? 昨日までの美味しいごはんは? それとも、また塩対応に戻ってしもたん? ウチにメロメロになったんやなかったの……。

 いや、もしかして、これは、せーえきかもしれへん……。ウチはおそるおそるコップを手に取って、液体を口に含む。

「ヨーグルトやの」

「貰ったんですよ」

「ウチのごはんこれだけやの?」

「もう少し待っててください。どれだけ腹ペコなんですか」

 ウチよりも神父様のほうが腹ペコっぽいやの。

 怪獣のうめき声のような腹の音が聞こえるやの。

 席でヨーグルトを飲みながら待ってたら、神父様は料理をいっぱい持ってきてくれた。

 神父様が席に座るまで料理に手をつけないウチ、えらいやの!

 神父様は食事前のお祈りを始めたから、ウチは目の前に置かれた料理に手を伸ばす。

 今日はサンドウィッチやの。ホクホクのエッグサラダに、こんがり焼かれたベーコンに、シャキシャキのレタス! 美味しいやの。こっちはカツサンドやの。こっちはフルーツサンドやの。甘くて、酸っぱくて、辛くて、苦くて、美味しいやの。いっぱい美味しいものが溢れてるやの。ほっぺたがおっこちてしまいそうやの。

 ほっぺをなでなでしてたら、神父様はほんのちょっぴり笑ってくれた。ずぅっとムスッてしてるから、力が入りっぱなしやと思う。

「神父様はどうしてずぅっとムスッとしてるんやの?」

「別にムスッとしてるわけではありません。元からこういう顔なんです」

「もうちょっと力抜いたらええと思うの。せっかく綺麗な顔してるんやから……。それやと、女の人も近寄って来ぉへんの」

「私は、司祭ですが?」

 司祭やから、結婚はできへんってことなんやけど……女性と付き合うことも禁止されてるんかな? すごい厳しい宗教やの。

「神父様は働きすぎやと思うの。日に何回もミサしたら大変やの」

「そういうものですから、大変だと思ったことはありません」

「たまにはサボったらええの」

「そういうわけにはいきませんよ」

 コーヒーを飲みつつ神父様はそう答えた。

 他の教会の神父もこれぐらい働いてるんかな? この人だけやったりしやんかな?

「ウチ、他の教会を見てくるやの」

「……けい。貴女はサキュバスなんですから、退治されますよ」

「でも、神父様はウチを退治してないやの」

「見た目が好みの女なので、退治したら勿体ないじゃないですか」

 この人、たまに素っ頓狂なこと言いだすやの。ウチの見た目は幻術で変わってる……と思ったけど、神父様には効いてへんのやった。ありのままの、ウチの姿を愛でてくれるんなら……嬉しいけど、複雑な気分やの。

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