第31話
今日は孤児院での事務仕事やなくて、魔物の討伐をしに行くんやって。
ウチからしたら、同族をこらしめに行くから、なんか嫌やねんけど……、従っとかな、ウチが退治されてまうやの。
いつになったら神父様の車は車検から返ってくるんやろ……。時間がかかりすぎな気がするやの。振り落とされないようにぎゅうっとしがみついたまんま、バイクでブウゥウウウンと野を越え山越え谷越えて……、やってきたのは、毒の沼。人間が近付くような場所やないと思う。
「神父様、ここに何を討伐に来たんやの?」
「夏樹が退治できないからって投げてきたんですよ。ファフニールがいます」
「毒の息を吐くドラゴンやの!」
「そうですね。だから、ここが毒の沼になってしまったそうです。元々は山奥でのんびり過ごしているはずなんですが……、うちの母がよく背中に乗せてくれました」
どういうことかさっぱりわからへんことをさらっと言われたやの。
けっこうな大物やのに、背中に乗せてくれたって意味がわからへん。
「ほら、出てきました」
「神父様、毒耐性あるん?」
「無いですよ。私は人間ですから」
「じゃあ、こんなところで突っ立ってたら、危ないやの!」
姿を現したファフニールは既に怒ってるようで、威嚇がてらに毒の息を吐いてきた。ウチは神父様にタックルして、息が当たらないように避けさせる。うぅ、ウチも毒耐性無いのに……。状態異常やの……。クラクラするやの。
「サキュバスって毒耐性あるんですか?」
「ないやの……」
「それならどうして」
「だって、ウチは悪魔やから、それなりに耐えられると思って……」
思ったけど、毒状態になったんが初めてやから、やっぱり耐えられへん気がしてきたやの。ウチ、このまま死んでまうの? 神父様を助けて死ぬって……、悪魔的にどんな死に方やの……。後にお涙頂戴のラブストーリーになって、映画化されそうやの……。それで原作者の神父様の教会が潤うやの……。
「貴女が死んだら、誰がうちの牛乳を賞味期限までに消費するんですか」
その言い方はちょっと嫌やの。ウチ、期限間近の牛乳を消費するために契約してたみたいで嫌やの……。
身体が痺れて動かないやの。あ、これ、ほんまに死んでまうやつやの。
「とりあえず、先にアレをぶっとばしておきますね」
ウチを地面に転がして、神父様はファフニールと戦いに行ったんやと思う。あんな大物、一人で戦えるとはおも――……爆発音とモンスターの断末魔が聞こえたやの。あと、爆風でウチもぶっ飛ばされたやの。地面を転がるウチ、無様やの。
「お待たせしました」
神父様は何事もなかったかのように戻ってきた。
……何が起きたんか聞きたいけど、舌が回らへんし、口も動かへん。辞世の句すら言われへん状況やの。
カバンから薬草を取り出したと思ったら、次の瞬間には、ウチの口に突っ込んできてた。指を喉奥まで突っ込まれて、息が上手くできへんくなる。反射的に嘔吐しそうになったところを口を手で覆い隠されて、上を向かされる。
無理矢理呑み込まされたやの。でも、ちょっとずつ痺れが消えていく感覚がする。
「夏樹に毒消しのハーブ貰ってて良かったです」
「……神父様。あの、ファフニールは?」
「ああ……。私、爆破の魔術は得意なんですよ」
オーバーキルしてる……。絶対オーバーキルしてるやの……。毒の沼の近くに散ってる赤っぽいような黒っぽいようなものがブスブス音をたててるから……これ……木端微塵にされたファフニールやの……。怖いやの……。オーバーキルが怖すぎるやの……。
「しかし、貴女に庇われるとは思いませんでした。てっきりファフニールに味方するかと」
「ウチは神父様と契約してるから」
「私の奥さんだからじゃないんですか?」
「はうっ!?」
急に言われて、心臓が跳ねたやの。ううぅ、もう、何なんやの!
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