第10話


 夕のミサも終わって、午後8時。

 神父様はキッチンに立ってた。後ろから抱き着――くんはやめとこ。下手したら包丁でグサッと刺されそうやの。信者から果物や野菜を貰ってるみたいやけど、どうせなら料理を持ってきてくれたら楽やと思う。この神父様ずっと働いてる気がするやの……。あんまり元気が無いと精力を抜けないから、ちょっと楽してもらいたいやの。

「サキュバスってニンニク食べれますか?」

「吸血鬼やないから食べれるやの。むしろ、精力がつくものなら大歓迎やの」

「それなら、貴女は毎食マムシドリンクで良いですか?」

「極端すぎるやの!」

 どうやら信者に贈られたみたいやけど、余ってるようやの。牛乳の次はマムシドリンクなんて嫌やの。

「ねえねえ小焼様。マムシドリンク飲んで、ウチにせーえきちょうだいやの」

「わざわざマムシドリンク飲む必要ないと思いますけど」

「それじゃあ――」

「相手しませんよ」

 やっぱり駄目やったやの。でも、はじめに比べたら、だいぶ優しくなってるような気がするやの。ウチをポイッてしやんくらいには優しくなったやの。

 話してるうちに神父様は料理を皿に盛りつけてた。彩り鮮やかやの。

「テーブルに運んでください」

「はいやの」

 トレーに乗せてテーブルに運ぶ。簡素な木のテーブル。ずっとひとりで食事してたんやと思うの。ウチが座ってるほうのイスはピカピカやけど、神父様のイスは少し傷が入ってる。こんなに広い教会で、ひとりぼっちって……、ちょっぴりかなしい。信者と一緒にご飯食べることもあったんかな……、この感じやと無さそう。仲良しっぽいダメンズエクソシストもここにはあんまり来てへんのかな……。ピクシーを肩に乗っけてるくらいやから、あっちはあっちでよろしくしてるんかな。ウチが考えても関係無い話やったやの。

 おゆはんは、ペペロンチーノ、ポトフ、トマト。

 神父様は食事前のお祈りをしてるから、ウチは先にフォークを握る。神父様の前にはお箸が置いてあった。……もしかして、一人でおったから、カトラリーセットが無いんかな。

 まずはペペロンチーノをぱくり。口に入れた途端にニンニクの独特の香りが鼻を抜けていった。食欲をそそる香りやの。唐辛子のピリッと辛いところがポイントになってて、美味しいやの。パスタがちょうど良くアルデンテに茹でられてて、喉につるんって通っていく感覚が堪らないやの。ポトフのスープがまた美味しいやの。玉ねぎやベーコンのうま味がたっぷり出てて、ワインに合う感じがするやの。ワイン出してくれてへんけど。このトマトは何やろ? 齧ってみる。甘い。でも、黒コショウでピリリっとして、これも美味しいやの!

「美味しいですか?」

「美味しいやの。神父様、料理上手やの」

「一人でいると嫌でも上手くなりますよ。……いや、何処かのエクソシストはキッチン爆破してましたが」

 ちょっとだけ考える仕草をしてこう言うってことは、あのダメンズエクソシストのことやと思う。ピクシーがおるなら勝手に料理も作ってもらえるからええと思うの。

 おゆはんも終わって自由時間……なんやと思う。神父様はお風呂に入ってくるって言うて部屋を出てった。今のうちに脱走できるやの! とは思ったんやけど、窓を開けてやめた。ここにおったら、ごはんは貰えるやの。牛乳だけで過ごさんくてええの。飢えることはないやの。あと、神父様にぎゅうぎゅう抱き着いたらエネルギー補給できるし……、逃げんくても良さそう。ただ、何させられるんか未だにわかってないやの。そもそもウチが飲んだ牛乳の数をあの人がわかってるかも謎やの。町中の牛乳の数を把握してるとしたら……ウチは一年以上ここにおらなあかんくなってまう! ……逆に考えたら、それだけ神父様と一緒におれるやの。うぅん、悩ましいやの。あの神父様をメロメロにしてやれば、ウチの縄張りを横取りしたサキュバスにドヤ顔できるのにぃ!

「サキュバスって風呂入らないんですか? てっきり一緒に入るかと思ったんですが」

「はうっ!?」

 一緒にお風呂入れたんやの!? ついていったら良かったのに……残念やの。

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