第8話


 午後0時半。お昼ごはん。

 ウチの分もきっちりある。神父様以外にはきちんと幻術が効いてるみたいやの。ウチを普通の人間の修道女として扱ってくれてるやの。

 神父様はお祈りしてるからウチは先に食べ――ようとしたけど、今のウチは修道女やから真似をする。何でウチが神に祈らなあかんの。よく知りもしない神に! そもそも祈りの言葉なんて知らんの。動きを真似することしかできへんの。

 今日のお昼は、ごはん、ツナじゃが、枝豆サラダ、すまし汁、フルーツ寒天、牛乳。すごい、子供がいるところの食事って感じがするやの……。栄養バランスを考えた最高の食事って感じがするやの。教会管轄なだけあるやの。

 ちょっと遅れて夏樹様が席に着いた。頼まれた饅頭が無かったから豆大福を買ってきたんやて。そんで、怪我した子の手当があるからってさっさと行ってしもた。手当してから豆大福渡しに来たらええのに。めちゃくちゃやの。

 ウチがまだ半分しか食べてないのに、神父様はもう全部食べてた。買ってきてもらったばかりの豆大福を頬張ってる。一口が大きいんかな。パクッ、て食いつく姿を見てたらドキドキしてまうの。

 きちんと顔を見てなかったけど、この人、けっこう美形やの。プラチナブロンドの髪やし、血のように赤い目やし、なかなかの美丈夫やの。まつ毛もバシバシやし。うーん。ウチが魅了かけられてる気がしてきたやの。もしかして、インキュバスやったりする?

「神父様ってインキュバスやの?」

「そんな訳ないでしょうが。ふざけるのも大概にしてください」

 普通に叱られたやの。インキュバスやないにしても、何かしら人以外の血が混ざってるような気がする……。だって、人間で赤い瞳なんて、今まで見たことがない。ピクシーやサキュバスなら普通におるけど、人間やとレアやと思うの。肌の色は……褐色より。こういう肌色の人間はおるから、気にする必要はなさそう。もしも異種族と交配してる子やったら、ウチより魔力があるかもしれへんし……。魔力が無くてもウチぶん投げられてるから勝ち目ないんやけど。ううん、謎やの。神父様に尋ねても答えてくれそうにないし……。

 ダメンズエクソシストなら話してくれそうやけど……、ピクシーのおはるさんに妨害される気がするやの。だから、余計な詮索はせんと、ぽろっとこぼしてくれるんを待っとこ。

 食堂のおばちゃんが牛乳が余ってるからってもう一本持ってきてくれた。神父様はそれをウチの前に置く。

「どうぞ。牛乳好きなんでしょう?」

「神父様のせーえきが良いやの」

「それは渡せません」

 ウチは牛乳瓶のフタを外す。美味しい牛乳やから2本貰えて嬉しいけど、ウチは別に牛乳好きやないの! ごきゅごきゅ飲んでぷはぁってする。神父様は目を細めてウチを見てる。もしかして、ごっくんさせたいタイプ? 独占欲が強くて、支配欲が強いタイプ? わざとらしく舌なめずりしながら見つめたら、溜息を吐かれた。

「わかりやすく誘惑するんですね、貴女って」

「それがサキュバスってもんやの」

「口にきゅうりの糠漬け突っ込んでやりましょうか」

 そこは自分の猛り立ったモノを突っ込むくらいの勢いで来てほしいのに、きゅうりやの。……きゅうりの糠漬け美味しいから仕方ないやの。

 事務仕事が終わったらしいから、教会に帰ることになった。行きと同じようにウチは神父様の腰にぎゅうっとしがみつく。ああ、エネルギー補給されるやの。しあわせー。やっぱりこの神父様をなんとしてでもウチのモノにしてやらな!

 教会に着いても事務仕事はまだまだ続く。神父様って普段何してるんかと思ったら事務作業が多いんやの……。あと、信者が来たらその対応もしてるやの。ウチ、手伝いさせられるはずやのに、何もせんと椅子にちょこんって座ってる。

「あのー、神父様。ウチは何したらええの?」

「全裸になって踊ってください」

「ふぇ!?」

「……それはサキュバスではないんですか?」

「ウチはそんなことしやんの!」

「そうですか。ああ、言い忘れていましたが、貴女が牛乳を飲めば飲むほど働く日数が増えますので」

 この神父様、慈悲の心があるんかないんかわからんくなってきたやの……。

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