2「テュルク・デ・ロマンス」編

第1話「残り回数を増やし直しますわ~」

「――――はっ!?」


 気がつくと、私はベッドの上にいた。

 恐る恐る、額に触れる。

 良かった、穴は開いていない。

 メニューを開くと、


『一生のお願い(残り回数:2回)』


「よーっし! ちゃんと増えてますわ!」


 死ぬのは、怖い。

 が、今さらだ。

 私は何としてでも人生を勝ち取るんだ。

 アフロディーテに勝つんだよ!!


 私は震える手で棚から拳銃を取り出し、銃口を額に当てた。





   ◇   ◆   ◇   ◆





『一生のお願い(残り回数:16回)』


「は~っ」





   ◇   ◆   ◇   ◆





『一生のお願い(残り回数:35回)』


「うっぷ……」





   ◇   ◆   ◇   ◆





『一生のお願い(残り回数:64回)』


「もう嫌だ死ぬのは嫌だ嫌だ嫌だ……ううううっ、負けるな私!」





   ◇   ◆   ◇   ◆





『一生のお願い(残り回数:89回)』


「はーっ、はーっ、はーっ、ううう!」





   ◇   ◆   ◇   ◆





 ――そうして。


『一生のお願い(残り回数:106回)』


 来た。

 ようやく、ここまで来た。

 来てしまった。


 私は拳銃を額に当てる。


「はーっ、はーっ、はーっ……」


 怖い。

 だがこれは、今までとは違う怖さだ。

 私の中に、とある可能性に対する考察があるのだ。





 ――本当に、次も戻って来れるのだろうか?





「戻って来られますわよね……? アフロディーテとの『一生のお願い合戦』に勝つためには、数百回分くらいはストックがないと不安ですもの」


 戻って来られるだろうか。

 本当に?

 今、ここで引き金を引いて、本当に死んでしまったら?


 残り回数:106回。

 それこそが、神様だかゲームシステム様だかが、私の『一生のお願い』に対して与えてくれたチャンスだった。

 106回分というのが、神様が私に与えてくれた回数なのだ。

 もしも私が、この回数を逸脱したとしたら、天罰というか、バグとかフリーズのようなものが発生したりしないだろうか。


 メタな読み方になるが、もし私がゲームや物語の作者だったとしたら、


『一生のお願い、99999回分貯めてきました。もう絶対、何があっても勝てるもんね~』


 なんて展開は絶対に許さない。

 だって、そんなの盛り上がらないもの。

 主人公が勝てるかどうかの瀬戸際に立っているからこそゲームも物語も盛り上がるもの。

 私は主人公ではなく悪役令嬢だが、いや、だからこそ、そんなおちゃらけた展開を神様――ゲームマスターは許さないのではないだろうか。


「う……」


 引き金に触れる指が、震える。

 引くべきか、引かざるべきか。


「ううううう……!」


 案外、あっさりと107回、108回になり、私は盤石の態勢で次の戦いに挑めるのかもしれない。

 それこそ99999回もお願いが使えれば、もう絶対、何があってもアフロディーテに圧勝できるだろう。

 私は幸せな未来をつかみ取れる。

 バカ殿下――じゃなかった、バッカス殿下みたいなアホとは違う、素敵な伴侶だって見つけられるかもしれない。

 幸せになりたい。

 幸せになりたいのだ。


 引いちゃえ。

 引いちゃえよ、私。

 そうだよ。今まで何百回と死んできたんだ。

 もし、万が一、本当に死んだとしたら、それはもう、そのときだよ。


「うううううううううう!!」


 指先が、震える。

 私は、私は引き金を――――……

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