第3話「殿下とのデート開始ですわ~!!」

 やっちまいました、ですわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!


 涼しい顔でカーテシーをキメながら、わたくしは内心、滝の汗でございます。

 再会の喜びがあまりにも強すぎて、思わず得意の落下ハグをキメてしまいましたの。


『落下ハグ』は前世(正確に言うと100万回以上前の人生)で、アブデュル殿下にしっかりたっぷり愛していただいた3年間において、わたくしが大好きだったハグ方法なのです。

『初めて逢ったときのことを思い出すから』と、殿下にもとても好評でしたのよ。


 とはいえ、今世のアブデュル殿下とは初対面。

 そう、初対面なのです!!

 だと言うのに、落下ハグをしてしまったのです!!

 完っっっっっっっっっっっ全に変人奇人ですわ~!!


 わたくしは、恐る恐るカーテシーと目礼を解きます。

 あああ……護衛の方、めぇっちゃわたくしのこと睨んでおいでですわ!

 そりゃそうでしょうとも。

 護衛対象の懐にいきなり飛び込まれたんですもの。内心穏やかではございませんわよね。


 護衛騎士様は剣の柄に手をかけて、抜剣直前の体勢。

 一方のアブデュル殿下は、わたくしを落下の衝撃から守ろうとしてくれたのか、風を纏わせた手をこちらに向けたままの体勢で固まっておいでです。

 やっぱり、お優しい方ですのね。

 さらにその隣には、アブデュル殿下のお父上君――トゥルク帝国皇帝陛下が立っていて、やはり剣の柄に手をかけておいでです。


 周囲では猛烈な風が渦巻いています。

 いわゆる『殺気』というやつですわ。

 この世界では、達人の殺気には魔力が載るんですの。

 殺気だけで相手を殺せる武人もいらっしゃるのですのよ。

 護衛騎士様と皇帝陛下、相当の達人の様ですわ~。


 恐らく並みの兵士なら失禁 & 気絶コースの強烈な殺気ですが、父上パパうえの筋肉式英才教育によって【筋肉魔法】を会得しているわたくしにとってはそよ風同然。

 先ほど投げ飛ばされたときの身のこなしも、今こうして殺気を跳ね返しているのも、【筋肉魔法】です。

 15歳スタートの今までのヘラは【筋肉魔法】を会得しておりませんでしたが、3歳スタートの今世では、頑張って学んでみたらなんか会得できましたの。

 3、4歳児の学習能力パネェですわ~!


「大変失礼した!!」


 父上パパうえが、城の中から大慌てで出てきました。


「その娘が私の子である、というのは事実だ。娘はこのとおり少々おてんばでな」


 そうなるように筋肉教育を施したのはどこの誰だったのかしら、ですわ~。


「ワータイガーを素手で倒したというアブデュル殿下の武名に憧れていて、何というか先走ってしまったのだ」


 と、あらかじめ用意しておいた台本をなぞる父上パパうえ


「そ、そうか。そういうことならば」


 剣から手を放してくださるトゥルク皇帝陛下。


「あのっ」


 わたくしは恋する乙女の目をします。

 演技ではございません。

 事実そのとおりなのですから。


「わたくしに、アブデュル殿下を案内するという栄誉に浴させてはいただけませんでしょうか!?」


 アブデュル殿下が、ちらりと皇帝陛下を見上げます。

 身の丈3メートルの護衛騎士様が、さりげなく歩み出てきました。

 その後ろで、トゥルク親子が何やらひそひそ話をしています。

 短い密談の後、


「あっはっはっ、難しい言葉を知っているお嬢さんだ。息子を案内してもらえるかい?」


「連れていってもらえるかな?」


 アブデュル殿下がわたくしの前に歩み出て、片膝をつきました。

 わたくしと殿下が、至近距離で見つめ合う形となります。

 殿下がわたくしの手を取って、


「幼き武人にして麗しきご令嬢・ヘラよ」


 甘~く微笑んだ。


「~~~~~~~~!!」


 わたくしは堪りません。

 だってわたくし、この瞬間のために100万回も死んできたのですから。

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