第4話「殿下とデート@兵器開発室」

「こちらは中庭ですわ! この季節は、キンニクヒヤシンスが見どころですわね」


「「「「「うおおおおおおおおおおっ! 筋肉! 筋肉! 筋肉!」」」」」


 領軍兵たちが筋肉している中庭を通って、アブデュル殿下をお城にご案内します。

 殿下の後ろには、護衛騎士様がついておいでです。


「こちらは図書室です。世界中の本が集まっていると評判なのですわよ」


「こちらは大広間。今日のパーティーが楽しみですわ!」





   ◇   ◆   ◇   ◆





「こちらは兵器の研究開発室です」


 何十人もの精鋭エンジニアが右往左往している研究室に、殿下をお招きします。


「「――!?」」


 思わぬところに案内されて、アブデュル殿下と護衛騎士様が目をひん剥いておいでです。

 まぁ、そうなりますわよね。

 仮想敵国に自国の最新鋭兵器を見せるなんてこと、普通はしませんもの。


「これが、我が軍がグランド連合王国と共同開発しているフィンエールド銃マークII。従来のマスケットと同じく前装式の小銃ですが、銃身内部にライフリングが施されているため、射程は1,000メートルを超えます」


「「1,000!?」」


「しかもマークIIは我が家の特注品でして、このとおり――」


 わたくしはマークIIを手に取ります。


「【筋肉魔法】で覆うことで、銃身を保護」


 わたくしの魔力が銃身を包み込みます。

【筋肉魔法】――毎度毎度、筋肉筋肉言っててギャグみたいですけれど、【筋肉魔法】の原理は単純です。


闘気ウェアラブル・マナ】という魔法がございます。

 剣や槍などで達人レベルに達した者が会得できる、体内の魔力を筋力や防御力に変える魔法です。

闘気ウェアラブル・マナ】で纏った脚は、チーターよりも速く走れると言います。

闘気ウェアラブル・マナ】で纏った肌は、剣をも弾くと言われます。

 ならば、銃弾をも弾く父上パパうえの大胸筋は?


 そう、【筋肉魔法】とは【闘気ウェアラブル・マナ】の完全上位互換魔法なのです。

 それも、アイゼンベルク家の血を引く者にのみ受け継がれる、『血統魔法』と呼ばれるもの。

 しかも父上パパうえほどの達人になれば、己の肉体だけでなく、周囲にいる味方の体をも筋肉に変えることができるのです。

 アイゼンベルク領軍将兵たちがいつも上半身裸なのは、裸の大胸筋が銃弾を弾くのは、父上パパうえの筋肉が伝播しているからなのですわ。


 そして、【筋肉魔法】は己の魔力を得物に伝播させることも可能です。

 ちょうど今、わたくしが魔力でフィンエールド銃マークIIの銃身を覆ったように。

 父上パパうえが前線に立つ戦場では、領軍将兵たちは弱体版【筋肉魔法】を使うことができるようになります。

 つまり、今わたくしがしていることと同じことを、領軍将兵たちもできるわけですわね。


「この状態でより火薬量の多い弾薬を使うことで、飛距離を2,000メートルまで伸ばすことが可能です」


「「2,000!?」」


 こんなことまで話してしまって大丈夫なのか、ですって?

 大丈夫ですわ~。

 父上パパうえからも許可は得ております。


 何しろ、両帝国はこれから、わたくしとアブデュル殿下を通じてひとつになるのです。

 この銃はトゥルクに向けられるのではありません。

 ともに手を取り合い、外敵から身を守るためにこの銃は使うのです。


 だからわたくしは、積極的に軍事情報を開示します。

 余すところなく開示して、敵意がないことと、わたくしとアイゼンベルク家のトゥルク帝国に対する気持ちが本物であることを、アブデュル殿下にお分かりいただくのです!


「そしてこちらが革新的兵器・後装式自動小銃ですわ! こちら、無煙火薬という新しい火薬を使うのですが、ガス漏れによる威力の減衰・暴発のリスクが最大の課題でしたの。ですがそれも、【筋肉魔法】で覆ってしまえばこのとおり」


「続いてこちらが、滑車付き榴弾砲。従来の車輪型ではなく滑車によって自動で元の位置に戻るため、狙いが狂うことがございませんし、発射頻度も向上します」


「こちらは迫撃砲。砲兵ではなく、歩兵が持ち歩ける榴弾砲ですわ! 慣れるのにやや訓練を要しますが、その機動性と使い勝手の良さはすさまじいですわよ。歩兵が砲を扱えるというのは、戦場の常識を一変させうるポテンシャルを持っています」


「こちらは自走砲。風魔法使いを1人つける必要がございますが、戦場で文字どおり縦横無尽の活躍を見せること間違いなしですわ!」


「こちらは全自動小銃。アサルトライフルというやつですわ。やはりガス漏れが最大の課題でしたが、筋肉で覆ってしまえばこのとおり」


「こちらは成形炸薬弾。ジャベリンですわね。モンロー/ノイマン効果というと難しく聴こえがちですが、構造自体はカンタンですのよ」


「こちらは――」

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