第9話「1,012,351人ヘラ会談」
「――っは!?」
そうしてまた、いつもの朝。
いつものベッドの上。
悪役令嬢ヘラのゲームスタート。
私はすぐさま棚から拳銃を取り出し、己の額に当てる。
引き金を引く。
◇ ◆ ◇ ◆
「――っは!?」
つらくないのかって?
つらいさ、もちろん。
けれど、私は乗り越えなくちゃならないんだ。
乗り越えて、AIアフロに勝利し、幸せをつかみ取るんだ。
アブデュル殿下と再会するんだ!
私の赤ちゃんを取り戻すんだ!!
……
…………
………………
……………………
…………………………
………………………………
◇ ◆ ◇ ◆
「貯めてきました100万回!!」
「ヘラァアアアアアアアアアッ!」
「ぎゃ!?」
のん気にアフロディーテが宿泊するゲストルームに突撃し、私は殺されかける。
「『一生のお願い』です! アフロディーテ令嬢、わたくしの親友になってくださいまし!」
「はっ!? ヘラ令嬢――じゃなかった、貴女! 本当に100万回分貯めてきたんですか!?」
アフロディーテ令嬢こと風呂先生は、私と同じくループしている。
「はい! ではさっそく、100万人と通話しますね! 『一生で一生に一生の一生な一生に一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の一生の――」
「考えなしですか!」
風呂先生にポカリと叩かれる私。
「日が暮れます! いえ、丸1日かけたって言い終わるわけないでしょう! 100万回ですよ!?」
風呂先生が電卓を叩く。
「100万 ÷ 60 ÷ 60 ÷ 24 ≒ 11.6!! 『一生の』を1秒に1回言ったとして12日間! 0.5秒に1回言えたとしても6日間かかります。飲まず食わずに言い続けてですよ? 死んでしまいます。私の殺人衝動も戻ってしまいますし」
「そんな、どうすれば――。先生、何か裏技的なものはないんですか!?」
「いや、だから『一生のお願い』がその裏技なんですって」
「「うーん……」」
どうしよう。
誰か、相談に乗ってくれないだろうか?
「あ、さっきの男ヘラさん! 『一生のお願い』です。ユーザーID:2さんと通話させてくださいまし」
――ヴォン
『お! お前は以前の女ヘラ』
「ヘラは女です!」
『なんか前回の通話からめちゃくちゃ時間経ってるんだが』
「そりゃ、100万回死んできましたからね」
『お前、マジでヤベーよ』
「お褒めに預かり光栄です。それで、相談があるのですが――」
◇ ◆ ◇ ◆
『……は?』
事情を話すと、ユーザーID:2さんが首をかしげた。
『それこそ、「一生のお願い」を使えばよくね? 「一生のお願いだから、次の一生のお願いで100万回分一気に使わせてくれ」って』
「「天才か!」」
◇ ◆ ◇ ◆
――というわけで。
今、私の前には1,012,350人のヘラがいる。
全員が喋ったらぐちゃぐちゃになること間違いなしだから、YouTubeの配信風にさせていただいた。
喋るのは私と風呂先生とユーザーID:2さんのみ。
1,012,350人のヘラたちの発言はコメントとして画面上を流れていく。
私はまず、『一生のお願い』の存在をヘラたちに伝えた。
『うおっ、本当にメニュー画面が出た!』
『残り回数5,000!? 死に過ぎでしょアタシ』
『こんなんチートやん。今度こそあのアフロに一泡吹かせてやる』
「あっあっ、待ってください! 実はみなさんの『一生のお願い』を、使わせていただきたいのです」
『どういうこと?』
『他人に自分のお願い使われるのはなぁ』
『まぁまぁ聞いてみようぜ。このヘラはいろいろ情報持ってるみたいだし』
「ありがとうございます。実は――」
続けて私は、ご覧のとおり100万人のヘラがいることと、彼ら彼女らの死んだ回数が2,147,483,647を超えていることを伝える。
『オーバーフローさせるのですね!?』
『どゆこと』
『待て待て。そもそもデータ型はintegerなのか? long型だったら億どころか兆、京より上限上だろ? そんな回数、一生かかっても集まらねえぞ。いや死んでるけど』
「大丈夫です。このゲームの開発者である風呂浴み子先生自らが、integer型であることを保証してくださいました」
『風呂先生!?』
『開発者いるの!?』
『どこどこどこ!?』
「皆様の割りとそばに」
続いて配信画面にアフロディーテ令嬢こと風呂浴み子先生が登場する。
『『『『『アフロディーテェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?』』』』』
100万人のヘラたちによる絶叫。
恨まれてるなぁ、アフロディーテ。
風呂先生が頭を下げる。
そこから風呂先生による説明と謝罪が始まった。
各アフロディーテの中に風呂先生が入っていること。
AIアフロちゃんの暴走により、ゲームユーザーがゲームの中に取り込まれてしまったこと。
1,012,351人のユーザーのうち、99パーセント以上はすでに死んでしまっていること。
逆にゼロコンマ数パーセントはまだ取り込まれてから数日とかだから、AIアフロちゃんを止めることで蘇生できる可能性が残っていること。
『マ!?』
『戻れるなら戻りたい!』
『俺はさすがに死んでるだろうなー……』
『私も』
「というわけで」
再び私が喋る番になる。
「みなさんの『一生のお願い』を結集させて、AIアフロをフリーズさせてみませんか?」
『いいね』
『盛り上がって参りました!』
『元気玉みたいな展開』
『元気玉ってなにぃ?』
『え、元気玉伝わらないの!? ジェネレーションギャップきっつ』
あはは、盛り上がっとる。
肯定的なコメントが流れていくことしばし。
『AIをフリーズさせるって言うけどさ、そもそも「一生のお願い」を管理してるのはそのAIなの? ゲームシステム自体をフリーズさせることになったりしない? そうなったら、俺たちみんな死んじゃうんじゃないの?』
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