第6話「ヘラの中身が男性だった件(白目)」

『――えっ!? わたくし!?』


『アフロディーテ物語』を1番最初に買ったヘビーユーザーのヘラと通話が繋がった。


「ごきげんよう」


 私は、ユーザーID:2のヘラに対してカーテシー。


「わたくしはヘラ・フォン・アイゼンベルク――もとい、元日本人で社会人の■■■■と申します」


『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?』


 ユーザーID:2さんが仰天する。


『俺と同じ被害者!?』


「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」


 今度は私と風呂先生が仰天する。


「お、俺!? ってまさか――」


『そうだよ! 俺は男なんだよ! ってぇ、隣にいるのはアフロディーテ!? どういうことだ!?』


 あーもう、色んなことが一度に起こりすぎて大変なことになってきた。





   ◇   ◆   ◇   ◆





 全て話した。

『一生のお願い』のこと。

 アフロディーテの中身が風呂浴み子先生だったこと。

 AIアフロちゃんのこと。

 我々が恐らくはもう、死んでいるのだということ。


『ま、俺は妻子どころか彼女もいないし、家には弟がいるからダメージ少ないけどな!』


 自分の本体の死を秒で受け入れ、笑い飛ばすユーザーID:2さん。

 うむ。

 異世界転生者、かくあるべし。


「それにしても、男性も『アフロディーテ物語』買うんですね」


『そりゃそうさ。俺は風呂先生の長年のファンだし、戦略シミュレーションゲーは大好きだからな。というかプレイヤーの何割かは男性なんじゃないか?』


「男性の身でヘラを演じるのはツライでしょうね……」


『ツライなんてもんじゃねぇよ! 中身男なのにコルセット着せられるわ、メイドに体洗われるわ、定期的に高笑いしなきゃならないわで心が折れそうだぜ。しかも、せっかくTSしたのに貧乳だし』


「「これは美乳です」」


 私と風呂先生の声がかぶる。


『風呂先生!? これは失礼しました』


「い、いえ、こちらこそ、とんだご迷惑をおかけしました。私が変なゲームを作ってしまったばかりに」


『全然変じゃねぇっすよ! めちゃくちゃ楽しませてもらいました。「アフロ・デ・アフロディーテ」スキンを解放したときの興奮と、その翌日に先生がアフロ・デ・アフロディーテ姿を公開したときの興奮は今でも覚えてます』


「ああああ!? 貴方が最初に実績コンプした方だったんですね!? ありがとうございます!! ですがやはり、貴方を5,354回も殺してしまったのは事実。本当に申し訳ございません」


 …………ん?


『あー……まぁ、何と言いますか、「お気になさらず」というのもヘンな話ですが、うーん、難しいっすね』


 などと、現代日本人っぽいやり取りを交換することしばし。


『それで?』


 ユーザーID:2さんが首をかしげた。


『わざわざ「一生のお願い」を1回分使ってまで俺に通話してきたのは、何のためなんだ? 情報共有してアフロディーテを撃退しよう的な?』


「あ、それいいですね。でも実は、それよりもグッドなアイデアがありまして。AIアフロちゃんに一矢報いるためのアイデアが」


『んー……』


 ユーザーID:2さん、何だか乗り気ではなさそうだ。


『いや、そもそも一矢報いる必要あるか? そっちのアフロディーテ――風呂先生は今、ヘラに対する殺人衝動が抑えられているんだろ? だったら、そのまま処刑エンドを回避して、無事4年目に突入できるはずだ』


「いえ」


 と風呂先生が否定した。


「それは厳しいでしょう。恐らく『一生のお願い』で殺人衝動が収まるのは、持って1時間。というかすでに衝動が戻りつつあります」


 風呂先生がナイフを握りしめている。


「ヒッ……」


 私は先生から距離を取る。


「元に戻ってしまえば、私は悪役令嬢ヘラを憎悪し、心の自由を奪われます。ヘラを殺すまいと衝動を抑えるだけで精いっぱい。ヘラ本人を目の前にして、平静に対話するなど不可能でしょう」


『じゃあやっぱり、そのクソAI野郎をぶっ殺すしかねぇな。そっちのヘラ、どんな作戦なんだ?』


「名付けて『一生のお願い攻撃』! 100万人のヘラによる『一生のお願い』で、ゲームシステムをオーバーフローさせるのです!!」

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