第4話「本当の『最初の一生のお願い』の使い道」
「殿下、裸踊りをしてくださいまし」
「は? 貴様、何を言って――」
『一生のお願い(残り回数:105回)』
が、パッ輝き、
『一生のお願い(残り回数:104回)』
になった。
「うむ、分かった」
服を脱ぎだす。
「殿下!?」
「殿中でございますぞ、殿下!」
「ええい、離せ!」
すがりつく者たちを振りほどき、バッカス殿下が全裸になった。
テーブルから、銀の皿を2枚、手にする。
そして!
「あ、それ! あ、それ!」
なんと本当に、本当に裸踊りをし始めた!!
キタ!
キマシタワー!!
勝ちました! これは勝ちましたわぁ~!!
「……ぷぷぷっ」
口と目元を扇子で隠しながら、わたくしは必死に笑いを堪えます。
はた目には、動揺しているか泣いているように見えることでしょう。
「殿下が、殿下がご乱心遊ばされた!」
「おいたわしや、ヘラ令嬢」
と、これは我が家の味方である軍務閥からの援護射撃。
「ご乱心……ということは、先ほどの婚約破棄も虚言?」
「いいえ、それは本心でございましょう!」
どなたかが言った言葉を、わたくしは力強く否定します。
「わたくしにもわたくしなりの言い分こそあれ、わたくしの言葉がアフロディーテ令嬢を、何より殿下のお心を傷つけてしまったのは事実! 罪は罪として、殿下からの断罪を潔く受け入れましょう!」
そう、婚約は破棄されねばならないのです。
それこそが、わたくしが生き残る道の第一歩なのですから。
◆ ◇ ◆ ◇
「見ていたぞ、ヘラ」
わたくしは今、アイゼンベルク城の最奥、アイゼンベルク辺境伯の執務室で縮こまっています。
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません――お父様」
「どう落とし前を付けるつもりだ、んん?」
悪鬼羅刹のような微笑。
「まさか、修道院送り程度の軽い処分で済むなどとは思っていないだろうな? そうだ、娘よ。お前、ポスボラス海峡の岬から身投げしてみるか。突然の婚約破棄を苦に自死――ともなれば、皇室に対するカードの一枚くらいにはなるかもしれん」
椅子に座り、ただならぬオーラを放つこの筋肉ダルマこそ、我が
生きる筋肉にして、この国に十三人しかいない魔法使いの一人にして、筋肉魔法の使い手。
『ただならぬオーラ』というのも比喩ではなく、実際にチリチリとした火の粉のような、静電気のようなもの――『魔力』が
この交易都市アイゼンベルクが、細い細い海峡を挟んで敵国と領土を接しているにも関わらずテュルク帝国に攻め入られずに済んでいるのは――テュルク帝国側にも莫大な利益を上げるこの交易路を荒廃させたくないという思惑はあるものの――8割くらいは父の武力と魔力に依るところなのですわ!
正直、お小水をおチビり遊ばしそうになるほどビビりちらしているわたくしですけれど、今日ばかりは強気の交渉でやらせていただきます。
いざとなれば『一生のお願い』がありますしね!
「その必要はございませんわ。そもそもわたくし、
「何だと?」
「先ほどの謝罪は『心配』をかけたことに対してであって、『迷惑』をかけたことに対してではありません。なぜならわたくしは、お父様に何一つとして迷惑をおかけしてございませんもの」
「どういうことだ?」
「だってバッカス殿下は、
…――売国奴ですのよ?」
途端、
続いて、
「ふ、ふふ……ははっ、あーっはっはっはっ!!」
獅子でも射殺しそうなほどカッと目を見開いて、豪快に笑いはじめました。
「そうか、娘よ! 貴様、いつ知った? どうやって知った!?」
「1年ほど前……殿下の周りに
ウソですわ。
実際には、今までの数百年の間にコツコツと集めて参りましたの。
殿下がアフロディーテにそそのかされてテュルク帝国と内通し、アイゼンベルク領へテュルクの軍勢を招き入れるための工作を進めていた証拠の数々を。
「証拠は、こちらに」
言って執務机に手紙の数々をぶちまけます。
もちろん、すべてニセモノです。
いえ、書いてある情報は全部本物です。が、手紙自体はニセモノ。
お側付きメイドのセレネが、一晩ならぬ半日でやってくれました。
実は、バカ殿下に使う前に、『一生のお願い』をセレネで試してみたのです。
結果はこの通りですわ!
「それで、裸踊りか! お前は殿下と婚約破棄したい。が、ただ単に婚約破棄されたのでは、家とお前自身に傷が残る」
「ええ」
「だから――何ということだ、お前も魔法が使えるのだな!? どんな魔法だ、なぜ今まで私に黙っていた!? 実に興味深い――殿下をご乱心させ、痴態を演じさせた。そして駄目押しに、婚約破棄自身は殿下の真意だとその場で強調した」
「そうですわ」
「
「まず、投身自殺はゴメンですわ~」
「無論だ。こんなにも有用な娘を死なせてなるものか」
「ついでにアイゼンベルク辺境伯領代理権限などいただけますと嬉しいですわね。そういえば最近、東の方が小うるさいようですけれど」
「はっはっはっ。ちょうど昨日、中央から招集がかかったところだ。明日から空けるに際し、領主代行を誰にするか考えていたのだが」
父が執務机から身を乗り出し、わたくしの肩をバンッと叩きます。
痛いですわぁ~。
「望みどおり、たった今からお前が辺境伯代行だ」
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