108週目のデスループ悪役令嬢は、隠しコマンド『一生のお願い』に気付く ~残り回数:106回~
明治サブ🍆第27回スニーカー大賞金賞🍆🍆
1「隠しコマンド『一生のお願い』」編
第1話「107回目の断頭台と、そして」
「これより、世紀の悪女にして祖国の裏切り者、
死を告げるラッパの音とともに、帝都の広場に公示人の声が響き渡る。
「「「悪女に死を! 毒女に死を!!」」」
民衆たちの熱狂。
「「「反逆者! 魔女! 毒姫ヘラ!!」」」
何も知らない民衆――皇太子派の
まぶたが腫れて、もう、前が見えないが……きっと民衆は憎悪の表情を浮かべているか、さもなくば晴れやかに笑っていることだろう。
「最期に、何か言い残すことはあるか?」
耳元で、公示人の声。
私はもごもごと口を動かす。が、歯という歯が折れてしまっていて、上手く喋れない。
「ないようだな。――では」
――バツンッ!!
縄が断ち切られる音。
――シャァアーーーーッ!!
何度も何度も何度も聞いた、刃が下りてくる音。
刃が頸椎に入ってくる重い感触。
ぶつり、という不吉な感触。
「ここに、処刑は完遂された!」
「「「悪女が死んだ! 反逆者が死んだ!!」」」
髪をつかまれる感触。
――眩しい。
腫れたまぶたの向こう側で、きっと太陽が光り輝いているのだろう。
そこから先の記憶はない。
◆ ◇ ◆ ◇
「……――――はッ!?」
飛び起きて、首に触れる。
首はちゃんとくっついている。
「はぁ~……」
続いて自身を見下ろし、私はため息をつく。
深い深い、
ベッドから降り、姿見の前に立つと、案の定、3年前の――15歳の私が映っていた。
金色のドリル髪。
気の強そうな二重まぶたの目に、真っ青な瞳。
笑っていればさぞ美しいであろう顔はしかし、苦痛で醜く歪んでいる。
「これでッ、108回目ッ、ですかッ!」
私は鏡に額を打ち付ける。
「神様ッ、仏様ッ、ゲームシステム様ッ!」
何度も何度も。
「何度ッ、私をッ、殺せばッ、気がッ、済みッ、ますのッ!?」
鏡にひびが入り、私の額から血が飛び散る。
それから、私は天を仰いだ。
「もう、死ぬのは、嫌ですわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! ねぇ、神様だかゲームシステム様だか知りませんが、見ているんでしょう!? 一生のお願いですから、わたくしに生きる希望をくださいまし!!」
――ポロロン♪
中世ヨーロッパ風の豪奢な寝室に不似合いな、陽気な電子音。
「え?」
正面を向いた私は、目を疑った。
「これ……――――メニュー画面!?」
生前、死の直前までプレイしていたVR乙女ゲー『アフロディーテ物語』のメニュー画面が、目の前に浮かんでいる!
「ロ、ログアウト! ログアウトは!?」
震える手でメニュー画面を操作するも、ログアウトコマンドは見つからない。
「はぁ……いえ」
仮にログアウトできたとして、私の体が無事なわけがない。
なんたって私はもう、何百年も――。
「せめて、この地獄を抜け出すためのヒントはないかしら?」
何しろ今まで107回もやり直してきて、こんなメニュー画面が出てきたのは初めて。
調べる価値はある――そう期待して、メニュー画面をいじる。
『話す』
『調べる』
『アイテム』
「アイテム!? あー……今、身に着けている物が表示されてるだけですわね」
メニュー画面を手繰っていくが、どれも日常動作的な、ありきたりなコマンドばかり。
「はぁ、神様仏様ゲームシステム様――ん?」
『一生のお願い(残り回数:106回)』
見慣れぬコマンド。
「いえ、聞いたことがありますわ」
『アフロディーテ物語』は乙女ゲーの皮を被った鬼難易度戦略シミュレーションゲームで、あまりの難しさに全国の乙女たちが悲鳴を上げたので、アプデで救済措置として『1回だけ使える無敵コマンド』が導入されたのだったか。
戦略ゲーが得意な私はお世話になったことはなかったけれど。
「でも、そのコマンドは文字通り『1回』しか使えなかったはず――――……あッ!?」
気付いた。
「ふ、ふふふ……あはっ、あーっはっはっはっ!」
気付いて、笑ってしまった。
「106回って、わたくしが死んだ回数のこと? 死んだ回数分、一生に一度のお願いが使えるってことですの!? でも、今世って確か108回目じゃ……神様だかゲームシステムだか何だかがたった今、わたくしの『一生のお願い』を聞いてくださったということですのね」
だから、残り106回。
「ふ、ふふふ……今度こそ生き残ってやりますわよ!」
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