108週目のデスループ悪役令嬢は、隠しコマンド『一生のお願い』に気付く ~残り回数:106回~

明治🍆サブ(SUB)🍆🍆🍆🍆🍆🍆🍆🍆🍆🍆

1「隠しコマンド『一生のお願い』」編

第1話「107回目の断頭台と、そして」

「これより、世紀の悪女にして祖国の裏切り者、毒姫どくひヘラの公開処刑を行う!」


 死を告げるラッパの音とともに、帝都の広場に公示人の声が響き渡る。


「「「悪女に死を! 毒女に死を!!」」」


 民衆たちの熱狂。


「「「反逆者! 魔女! 毒姫ヘラ!!」」」


 何も知らない民衆――皇太子派の情報戦プロパガンダに踊らされている愚かで可哀そうな平民たちが、断頭台に縛り付けられた私の顔に石を投げつけてくる。

 まぶたが腫れて、もう、前が見えないが……きっと民衆は憎悪の表情を浮かべているか、さもなくば晴れやかに笑っていることだろう。


「最期に、何か言い残すことはあるか?」


 耳元で、公示人の声。

 私はもごもごと口を動かす。が、歯という歯が折れてしまっていて、上手く喋れない。


「ないようだな。――では」


 ――バツンッ!!


 縄が断ち切られる音。


 ――シャァアーーーーッ!!


 何度も何度も何度も聞いた、刃が下りてくる音。

 刃が頸椎に入ってくる重い感触。

 ぶつり、という不吉な感触。


「ここに、処刑は完遂された!」


「「「悪女が死んだ! 反逆者が死んだ!!」」」


 髪をつかまれる感触。

 ――眩しい。

 腫れたまぶたの向こう側で、きっと太陽が光り輝いているのだろう。


 そこから先の記憶はない。





   ◆   ◇   ◆   ◇





「……――――はッ!?」


 飛び起きて、首に触れる。

 首はちゃんとくっついている。


「はぁ~……」


 続いて自身を見下ろし、私はため息をつく。

 安堵あんどのため息ではない。

 深い深い、苦悶くもんに満ちたため息だ。


 ベッドから降り、姿見の前に立つと、案の定、3年前の――15歳の私が映っていた。

 金色のドリル髪。

 気の強そうな二重まぶたの目に、真っ青な瞳。

 笑っていればさぞ美しいであろう顔はしかし、苦痛で醜く歪んでいる。


「これでッ、108回目ッ、ですかッ!」


 私は鏡に額を打ち付ける。


「神様ッ、仏様ッ、ゲームシステム様ッ!」


 何度も何度も。


「何度ッ、私をッ、殺せばッ、気がッ、済みッ、ますのッ!?」


 鏡にひびが入り、私の額から血が飛び散る。

 それから、私は天を仰いだ。


「もう、死ぬのは、嫌ですわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! ねぇ、神様だかゲームシステム様だか知りませんが、見ているんでしょう!? 一生のお願いですから、わたくしに生きる希望をくださいまし!!」





 ――ポロロン♪





 中世ヨーロッパ風の豪奢な寝室に不似合いな、陽気な電子音。


「え?」


 正面を向いた私は、目を疑った。


「これ……――――メニュー画面!?」


 生前、死の直前までプレイしていたVR乙女ゲー『アフロディーテ物語』のメニュー画面が、目の前に浮かんでいる!


「ロ、ログアウト! ログアウトは!?」


 震える手でメニュー画面を操作するも、ログアウトコマンドは見つからない。


「はぁ……いえ」


 仮にログアウトできたとして、私の体が無事なわけがない。

 なんたって私はもう、何百年も――。


「せめて、この地獄を抜け出すためのヒントはないかしら?」


 何しろ今まで107回もやり直してきて、こんなメニュー画面が出てきたのは初めて。

 調べる価値はある――そう期待して、メニュー画面をいじる。


『話す』

『調べる』

『アイテム』


「アイテム!? あー……今、身に着けている物が表示されてるだけですわね」


 無限収納箱アイテムボックス的なチートを期待したが、そう上手くはいかないらしい。

 メニュー画面を手繰っていくが、どれも日常動作的な、ありきたりなコマンドばかり。


「はぁ、神様仏様ゲームシステム様――ん?」





『一生のお願い(残り回数:106回)』





 見慣れぬコマンド。


「いえ、聞いたことがありますわ」


『アフロディーテ物語』は乙女ゲーの皮を被った鬼難易度戦略シミュレーションゲームで、あまりの難しさに全国の乙女たちが悲鳴を上げたので、アプデで救済措置として『1回だけ使える無敵コマンド』が導入されたのだったか。

 戦略ゲーが得意な私はお世話になったことはなかったけれど。


「でも、そのコマンドは文字通り『1回』しか使えなかったはず――――……あッ!?」


 気付いた。


「ふ、ふふふ……あはっ、あーっはっはっはっ!」


 気付いて、笑ってしまった。


「106回って、わたくしが死んだ回数のこと? 死んだ回数分、一生に一度のお願いが使えるってことですの!? でも、今世って確か108回目じゃ……神様だかゲームシステムだか何だかがたった今、わたくしの『一生のお願い』を聞いてくださったということですのね」


 だから、残り106回。


「ふ、ふふふ……今度こそ生き残ってやりますわよ!」

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