第2話「ループ初日から詰んでますわぁ~」
「今度こそ生き残ってやりますわよ!」
中世ヨーロッパ風のお城の一室でガッツポーズをキメるわたくしは、ヘラ・フォン・アイゼンベルク15歳+23歳+321歳。
ビザンティヌス帝国の最辺境にして最大都市・アイゼンベルクを治めるアイゼンベルク辺境伯家の長女にして、よくあるデスループ悪役令嬢モノのヒロイン。
そう、皆様お気付きのとおり、『日本人が乙女ゲームの悪役令嬢に憑依しちゃった系ヒロイン』というヤツですわぁ~。
元の名前? さぁ?
何しろもう321年も前のことですもの。
すっかり忘れてしまいましたわ。
わたくしは15歳の今日に始まり3年後の断頭台で人生を終えるまでの3年間を、もう107回も繰り返しました。
これが記念すべき108回目。
除夜の鐘もびっくりですわよね。
ここは、わたくしが前世でドハマりしていた乙女ゲー風戦略シミュレーションゲーム『アフロディーテ物語』の世界。
『アフロディーテ物語』は、ビザンティヌス帝国の東端に位置する辺境の貧乏男爵家令嬢として生まれたヒロイン・アフロディーテが、領の兵力と己の美貌を総動員して生き延びようとするサバイバルゲーム。
男子が生まれず没落寸前の実家を立て直すのが目的ですわ。
生き延びるためなら何でもありのマルチエンディングゲーで、東の敵国・テュルク帝国からの軍事侵攻を退けて功績を上げ、女だてらに子爵になる王道エンドもあれば、逆にテュルクと手を結んでアイゼンベルク辺境伯領(つまりわたくしの家)を攻め落とし、テュルク帝国の貴族家になる反逆エンドまであるぶっ飛びっぷりが人気を博しましたの。
中でも人気のルートが、乙女ゲーらしく自国の皇太子と結婚して、めでたしめでたしというもの。
皇太子には意地の悪い婚約者・悪役令嬢がいて、二人がくっつくのをあの手この手で妨害してきますの。
けれどアフロディーテは悪役令嬢の悪意をはねのけ、逆に悪役令嬢の不正の数々を暴き、アフロディーテの
余談ながら悪役令嬢の家では圧政が原因で反乱(アフロディーテの家が反乱軍の中核)が起き、令嬢は家族もろとも断頭台送りとなりましたわ。
勧・善・懲・悪。
いい話ですわよね。泣けますわよね。
ちなみに、その、皇太子――バッカス・フォン・ビザンティヌスの婚約者というのが、このわたくし。
そして、アフロディーテの家・アイゼンリッター騎士爵家はアイゼンベルク辺境伯の
つまりアフロディーテは、社長の娘から婚約者を奪った挙句、会社を倒産させて娘の首をくくらせたサイコパスなのですわ。
ついでに言えば、皇太子に誤射されるところからしてアフロディーテの仕込み。
……殺意が高すぎますわよね。
――コンコン、コン
「失礼いたします、お嬢様――って、えええええっ!?」
お側付きメイドのセレネが、入ってくるや否やの大仰天。
「お、おおおお嬢様!? お顔! その額の傷はいったい!?」
「あぁ、コレ? いろいろありましたのよ」
「いろいろって……あぁもぅ! 今日は大事な大事なデビュタントの日なんですよ!? うわぁ、すっごい血が出てる! 急いで止血しないと。傷は前髪で隠すとして、でもそうしたらティアラがお付けできない! あわわ、どうすれば」
今日は、わたくしのデビュタント。
ついでに、わたくしと同年代の娘たちのデビュタントでもある――つまり、アフロディーテの。
そう。
つまり、今日の夕方から開かれるダンスパーティーこそが、ヒロイン・アフロディーテにとってのグランドフィナーレ。
そしてわたくしの、没落人生の始まりなのですわ。
ループ開始日が、人生終了の始まりの日。
これが、これこそが、107回やっても断頭台を回避できなかった最大最悪の理由その1なのですわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます