第6話「超展開」
「これより、世紀の悪女にして祖国の裏切り者、
死を告げるラッパの音とともに、帝都の広場に公示人の声が響き渡る。
「「「悪女に死を! 毒女に死を!!」」」
民衆たちの熱狂。
「「「反逆者! 魔女! 毒姫ヘラ!!」」」
◇ ◆ ◇ ◆
「今この瞬間、
「悪女ヘラ! 教会は貴女に破門を言い渡します!」
「我がフランシス共和国は貴家との相互不可侵条約を終了させていただく」
「テュルク帝国は貴領に対して宣戦を布告する!」
「グランド連合王国並びに東ヒンディー会社は、通商の要衝・アイゼンベルクの『保護』をここに宣言する。貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」
…………誰もが。
誰もが私を殺そうとする。
私をこの世界から排斥しようとする。
何で?
私、そんなにみんなから恨まれるようなこと、した?
わいろで私腹を肥やしたりだとか、
使用人をいびり倒したりだとか、
重税で領民を苦しめたりとか、
『パンがないならケーキを食べればいい』と言って貧乏人を笑ったりだとか。
そういう分かりやすい悪事を働いたこと、あった?
……ない。
私は、悪役令嬢ヘラ・フォン・アイゼンベルクは、悪役令嬢だからこそ、無用な誹りを受けないように、常に清廉潔白であり続けてきた。
なのに、誰もが私を非難する。
なのに、誰もが私を殺そうとする。
もう嫌だ!
誰か、誰か一人だけでいい。
私を、認めて。
私を受け入れて!
一生のお願いだから、私を愛して!!
「いいだろう」
「…………え?」
目を開くと、私はアブデュル殿下に抱きしめられていた。
「その願いを俺が叶えてやろう」
「え? え? え? 何の話ですか!?」
「だから、愛してほしいと言ったではないか。正直に言うと、一目惚れだったのだ。その長く美しい金髪も、庇護欲をそそる碧い瞳も、全てが愛おしい」
脳が急速に覚醒していく。
ここは、船の中?
あの後、無事撤退に成功して、ポスボラス海峡を渡っている最中ということか。
いや、そんなことよりも。
この人、今、何って言った?
一目惚れ!?
この褐色超美形王子様が、私――わたくしに!?
だからあんなにもグイグイ来てたというわけですの?
「俺がお前の、一生のお願いを聞き届けてやる」
狭い船室のベッドで、再び強く抱きしめられるわたくし。
って、『一生のお願い』!?
そういえばさっき、寝ぼけながらそんなことを口走ったかもしれませんわ~!
「…………メニュー」
小声でメニュー画面を表示させ、アブデュル殿下の背後で『一生のお願い』を確認します。
……か、回数が減っておりますわ。
つまりわたくしは今、敵国の王子様に求婚しちゃったって……こと!?
あわ、あわわわわ、なんてこったい、ですわ~!!
「俺がお前を幸せにする。ヘラ。ヘラ・フォン・アイゼンベルク」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?
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