4「アブドゥル」編
第1話「パパ上 VS わたくし」
「ダメだ」
筋肉に阻まれました。
歩く筋肉こと
「アレは仮想敵国だぞ? 辺境伯家の娘がのこのこと出ていったら、あっという間に『不慮の事故』に巻き込まれて『保護』されるわ!」
そして、外交カード化するわけですか。
「でも! でもでもでも! いきたいの! アブドゥルでんかにあいたいの!」
3歳の所為で舌っ足らずな私は、全身全霊で駄々をこねます。
「あわなきゃいけないの!」
「アブデュル……? トゥルク帝国の第一子のことか。どうしてお前が、そんな人物の名を知っているのだ?」
「おつげできいたの!」
「お告げ?」
「うん! わたしがアブデュルでんかにみそめられるって! ふたりがけっこんして、ふたつのていこくがすえながくへいわになるって!」
「……そのお告げは、今朝聴いたのか?」
「うん」
「いや、しかし……我が筋肉は、特異な魔力反応を感知しておらんしな」
いや、どんな筋肉してんだよ、ですわ~。
「む? 信じておらんのか? これは【
「――ライフリング銃」
「む?」
「銃身の内側に施条を入れることで、発射される弾丸に旋回運動を与え、弾道を安定させ、射程を伸ばす先進技術」
私は舌足らずな舌を精いっぱい動かします。
あたかも神に操られているかのように喋るのです。
「グランド連合王国で、極秘裏に開発中。名をフィンエールド銃という」
「!?」
ガタガタッと立ち上がる
私をじっと見つめたまま念話機に手を伸ばし、
「私だ。大至急、グランド連合王国内の
◇ ◆ ◇ ◆
その後も、舌足らずな喋り方と神っぽい喋り方を駆使し、神降臨中のヘラと3歳児のヘラを交互に演じ続けること数日。
「どうやら本当に、神からのお告げを受けたようだな」
ついに
フィンエールド銃の情報を
「お前がトゥルク皇太子に嫁ぎ、両国が平和に――か。悪くない。実現できるなら、実に素晴らしい手だ」
「懸念するのは我が家の影響力低下だが、なぁに、通商が強化されるのなら、交易と海上保安で存在感を示せばよい。元より我が家はポスボラス海峡の海賊の出なのだから」
そう。
『実力行使以外で平和になってしまったら、軍務閥であるアイゼンベルク家の影響力が低下する』
なんてつまらないことは、
国境が平和になったなら、今度は商人たちを守るボディガード業で儲ければ良いだけの話なのですから。
「いいだろう。お前の言葉を信じるぞ、ヘラ」
「ありがとうございます、ですわ!」
「あーっはっはっ! 我が娘は小さな天使だな! だが――」
一転、
「それでもやはり、ヘラをトゥルクに向かわせるのはあまりにも危険だ」
「そんなっ」
「まぁ待て、話は最後まで聞け。2年後、お前が5歳になるころに、アイゼンベルク家100年祭をやる。盛大な祭りになるから、トゥルクからも客が来るだろう。トゥルクは仮想敵国だが、表上では大事な大事な貿易相手だからな。そこに、アブデュル殿下を招待するのだ」
「おおおおお!」
「それに」
ニヤリと笑う
「今のお前はまだまだ礼儀も知らぬガキんちょだ。床に寝そべって駄々をこねるような子供に、アブデュル殿下が惚れ込むと思うか?」
言葉もございませんでしたわ~。
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