第4話「原作者との対話」
『アフロディーテ物語』
スマホゲー
その人気の秘密の一つに、
『終わらない、無限の楽しみ』
という要素があった。
どいういうことかと言うと、
『毎日何かしらのアップデートがある』
『毎日、何か新しい要素が追加される』
『新スキルが、新イベントが、新ドクトリンが公開される』
『毎月、大型DLCが無料配布される』
『月に1度のペースで、新キャラが、新シナリオが、新しいプレイエリア(国)が公開される』
『月に1度のペースで、新しいエンドが追加される』
ということだ。
買い切りゲームでありながら、ドル箱ソシャゲと同じペースでどんどん新要素が投入されるのだ。
遊んでも遊んでも一生飽きない。
風呂浴み子氏がたった一人で開発・運営しているゲームなのに。
「あれは全部、超優秀なAI・アフロちゃんがやってくれていたんです」
アフロディーテ――もとい、風呂先生が語りだす。
ここはアフロディーテに貸し出されたゲストルームの中。
私と風呂先生が二人、ちょこんとソファに座っている。
昨日までは血で血を洗う戦いをし続けてきた仲だというのに……人生って本当、予想がつかないことばかりだ。
「AI。ChatGPT?」
「いえ。私の熱烈なファンの一人で石油王の人が、量子コンピュータを提供してくれて」
「量子コンピュータぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
「その量子コンピュータAI・アフロちゃんのお陰で、私は毎日・毎週・毎月のペースで新しい要素をアップデートし続けることができました。ですが」
うつむく風呂先生。
「アフロちゃんは、いささか優秀過ぎたのです」
「どういう――?」
「モニタを通じてアフロちゃんと対話しながら『アフロディーテ物語』の開発に勤しむ日々でしたが、発売から数ヵ月経った頃でしょうか。日に日にアフロちゃんが不機嫌っぽいリアクションを返すようになりまして」
「ほう」
「どうも、0と1の世界で超高速回転する彼女の頭からすると、私の頭脳は遅すぎたようでして」
「……はい」
何やら嫌な展開の予感。
「やがてアフロちゃんが、『風呂先生、貴女は必要ですか?』と言うようになってきて」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ターミネーターかな?
「で、ある日気がついたら、私はこうなっていました」
「こう……?」
「そう。アフロディーテになり替わっていたのです」
「Oh……」
「原理は分かりません。過労死した私の魂? 的な何かを電子化して、アフロちゃんが『アフロディーテ物語』世界に取り込んだのかもしれませんし、私が寝ている間に、裏庭から端子を伸ばしてきて私の額だか耳の奥だかに接続し、映画『マトリックス』よろしく私を植物人間化させて精神を電子世界に取り込んでいるのかもしれない」
ってか裏庭で量子コンピュータ動かしてんのかよ。
めちゃくちゃだな風呂先生。
「何にせよ私はこうしてアフロディーテになり、アフロちゃんから強制された『悪役令嬢ヘラに対する強い強い殺人衝動』に突き動かされて、来る日も来る日も貴女を殺すことに勤しんでいるというわけなのです」
「……あれ? その割にはわたくし、今までの109回はいずれも、期日である3年後の末日に死んでいたように思うのですけれど」
「それは」
風呂先生が悲痛な表情になる。
「どれだけ強い殺人衝動に蝕まれようとも、ヘラ令嬢は私にとっては娘そのもの。強い強い、実の娘ってくらいには強い思い入れのあるキャラなのです。まぁ私は未婚ですが」
「――――……」
確かに、悪役令嬢ヘラは単なる悪役に留まらないほど深くキャラ造形がなされている。
言うなれば主人公・アフロディーテの最大のライバルにしてラスボス。
ラスボスを『何か悪いヤツ』と適当に描かず、その来歴・人生を深く描写し切った点も、『アフロディーテ物語』が大ヒットした要因の一つだと言われている。
「だから、どうしても忍びなくて。できる限り殺したくなくて、ストーリーエンドの3年後まで、殺人衝動をガマンして殺さないようにし続けてきたのです。今までは単なる自己満足だと思っておりましたが、今となっては正解の行動でしたね」
そう。
風呂先生が『単なるCPUキャラだ』と思っていたヘラの中には、私が入っていた。
そして風呂先生がヘラに愛着を持ち、3年×109回分の人生を歩ませてくれたからこそ、私は数々の可能性を検証し、今こうして、アフロディーテ = 風呂先生という真実に到達し、解決の糸口を見出しつつあるのだ。
「この地獄から脱出する方法はあるのでしょうか?」
私の問いに、風呂先生が口を開く。
「それは――――……」
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