第2話「奇策」

 風呂 み子

 お風呂に入らないことで有名な、フリーのゲームクリエイター。

『アフロディーテ物語』の作者だ。


『アフロディーテ物語』はもともと、ツクールやSteamを活動母体として数々のヒットゲームを生み出してきた風呂氏が、その集大成として開発し始めた中世ヨーロッパシミュレーション乙女ゲー。

 ツクールや既存エンジン上での実現では満足できず、独自エンジン開発からスタートしたため、資金が入用に。

 クラウドファンディングをしたところ、風呂氏の熱烈なファンたちが集まり、あっという間に数百万円になり、数千万円になった。


 何なら私も、クラウドファンディングに参加した。

 1万円程度だったけど。


 そうして、満を持して世に出された『アフロディーテ物語』は大ヒット。

 乙女ゲーでありながらもcivやhoiのような極めて精緻な戦略シミュレーションゲーとしての側面を高く評価され、100万本という異例の販売数を叩き出し、社会現象にもなった。

 #アフロディーテ と #お風呂ディーテ は一時、トレンドを席巻した。


 一番最初に実績コンプを果たしたユーザーが『アフロ・デ・アフロディーテ』スキンをTwitterに公開したときの興奮は、今でも忘れられない。

 かく言う私もアフロ持ち。

 だからこそ、どれだけ酷い目に遭わされても、アフロディーテのことが嫌いになりきれないのよね。


 …………夫と子供を殺されてすら、


『ごめんなさい』


 の言葉一つでほだされてしまうほどに。





   ◇   ◆   ◇   ◆





「戻ってる……これは、どういうこと?」


 アフロディーテの死もまた、巻き戻りの条件なのだろうか。

 そういえば私、今までさんざんアイツに殺されてきたけれど、殺したのは今回が初めてだった。


「いや、それよりも」


 アイツは『ループ』と言ったのだ。

 アイツは何かを知っている。

 重要な何かを。


 それにアイツは、『ごめんなさい』とも言った。

 謝罪するということは、罪悪感があるということだ。

 恐らく、私のことを殺したくて殺しているわけではない、ということだ。

 何か事情があるのだ。


 何とかして、アフロディーテと対話しなければならない。


 ――コンコン、コン


「おはようございます、お嬢様」


 侍女のセレネが部屋に入ってきた。


「セレネ、さっそく着替えるわ」


「はい、それはもう! しっかり着飾りませんと!」


「そうじゃないの」


「はい?」





   ◇   ◆   ◇   ◆





 家格差を意識させないように、気子爵家令嬢のアフロディーテを刺激しないように、あえて地味目のドレスを選んだ。


 ――コンコン、コン


 彼女が滞在しているゲストルームのドアをノックすると、


「……はい」


 アフロディーテが出てきた。

 私と目が合った瞬間、ぎょっとする。

 私はすかさず、アフロディーテの手を両手で包み込んだ。


「『一生のお願い』です!」


「――――ッ!?」


 アフロディーテが口を開きかけたが、私の方が、早かった。


「アフロディーテ令嬢、わたくしの親友になってくださいまし!!」


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」

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