第31話美味しいご飯は誰?
「そうだ、カズ。熟したシィクの実食べてみようよ!」
突然のボス戦ですっかり忘れていたがセーフティゾーンに入ったら食べようと思ってたんだよね。
「ドロップしたのは一つだけか半分ずつにだな。」
「そうだね!」
早速熟したシィクの実を半分にわり、片方をカズに渡す。
「わ!説明の通り柑橘系のいい匂いだね。みかん味とかなのかな?」
「酸味が強いって説明だったからレモンに似てるんじゃないか?…まぁ食べてみないとわからないか。」
熟したシィクの実からは柑橘系のいい匂いがする。
このゲームではリンゴやミカンのように現実にある果物がそのままあるが、それ以外にもゲーム特有の架空の果物もある。
熟したシィクの実もそれの一つだ。
架空の果物と言っても大体は既存の果物の味なので、見た目青いイチゴだけど味はパイナップルなんてこともあり得るのだ。
「いただきます!………?!?!!」
「いただきます、……うっ」
だ、だめだ、コレ!
レモンなんて比じゃないくらいの酸っぱさ、今まで食べたものの中で1番酸っぱいかもしれない…。
「…カズこれだめだ。食べ物じゃないよ…。」
酸っぱさのせいで顔がシワシワになりながらもカズに話しかける。
話しかけて気を紛らわせないと我慢できそうにない。
「だな…。うへぇ、酸っぱすぎて口の中がいてーよ。はじめての経験だわ。」
「ね、僕も顔のシワシワがなかなか元に戻せないよ…。」
いつもならこんなシワシワな顔をしていると笑ってくるカズも同じくシワシワの顔をしている。それだけ酸っぱい実だった。
熟してもこんなに酸っぱいなら未熟なときはどれだけ酸っぱいんだろう…もうここまで来ると毒なのではないかと思ってきた。
「ふー、休憩の最後にとんでもない爆弾だったな。まぁ疲れ自体は取れたしそろそろ3階層を覗きに行くか。」
「そうだね!モンスターが手強そうだったら階段から除くだけとかでもいいよね。」
そう言ってセーフティゾーンを出て次の階を目指す。
3階層への階段はセーフティゾーンの近くで見つかった。
「そういえばこの階ではまだ一つしか宝箱を見つけてないけど次の階に行ってもいいのかな?戻る?」
「うーん、3階層をのぞいた後にまた戻ってくるしその時でもいい。ダンジョンって基本は宝箱のリセットは外に出てからなんだよ。
しかも帰る時は歩いて戻らなきゃなんだよなー。
10階層には地上に戻る転移ポータルがあるらしいけど今回は3階層だからな。」
だから2階層の宝箱は帰りに探せばいいというカズの言葉に頷きながら3階層の階段を進んでいく。
1階層はスタンダードな迷宮スタイル、2階層は森林フィールドだったギルドダンジョンだけど3階層はどうな景色なんだろう。
海の中とか…?でも息ができなくなっちゃうか…。
「ケイ、3階層が見えたぞ。」
考え事をしている間に3階層についていたらしい、長い階段を降りた先に見えたのはとても大きな湖だった。
「大きな湖だね!綺麗…。」
「すごいな、これがダンジョンの中か…。」
湖の上を渡る術を僕たちは持っていないので湖畔をぐるっとまわっていくことになるだろう。
湖畔は草原に木がまばらに植わっているようなつくりなので森林フィールドだった2階層よりは視界が開けている。
「どっち周りで回っていく?」
「事前情報を何も調べてきてないから、どちらからでもいいけど…。よし!この木が倒れた方から回っていこうぜ!」
「うん、名案だね!」
冒険っぽい!
小さい頃にも同じことを2人で学校帰りにして、迷ったのは内緒だ。
今回は湖沿いに回るだけなので迷うことはないだろうから安心だしね。
「方向は右だね。」
「じゃあこっちだな。」
木の棒が指したのは右回り、これが近道になるのか遠回りになるのかはわからない。
「そういえばここのモンスターはなんだろうね。」
「そういえばまだモンスターを見てないな。湖があるから水棲のモンスターとかか?」
「水棲の生き物でモンスターになりそうなのは…ワニとか?」
「ワニか…ゲームってわかっててもワニが目の前にいると怖そうだな。水棲で言うと、あとは魚とかもありえるな。」
「魚!こんなに大きい湖だといそうだよね。この湖で泳いだら魚の魔物に襲われる、なんでありそう。」
「水上を進む手段もないし魚の魔物がいてもあんまり害はないかもな。」
「うんうん、釣りしたら魔物か釣れるってのもありそうだね。またこのダンジョンに来たら釣り竿を持ってきたいな〜。」
初心者の森手前のセーフティゾーンにも川があったので釣りができるかもしれない。
でも、ウサギ1匹いないところだったけど魚はいるのかな?
「ドルに注文しとくか。
釣竿にも付与効果をつけられるらしいぜ。
釣り好きの中には釣竿で戦う奴もいるらしいしな。」
「釣竿で?!」
釣竿で戦うと案外遠距離攻撃も近距離攻撃もできるのかもしれない。
戦う釣りスキルもあるのかな?
いつか釣りでモンスターを倒してみよう、と心のメモに書いておこ!
散歩気分で湖畔を歩いていてもモンスターは出てこずのんびりとした時間が流れる。
「モンスターいねぇなー。」
「ね、このままだと4階層までいっちゃいそうだね。しかも宝箱もないよ。」
湖のほとりでのどかに散歩もいいものだが、今回の目的は宝箱の中身だ。
モンスターがいない代わりに宝箱もないというのはね…。
「ん?奥に沼っぽいのがあるぞ。モンスターがいそうだな。」
たしかに奥に沼地が広がっている。
ケイと同じくらいの高さの葦が沢山生えておりモンスターがいても見えそうにない。
カズが先に立ち慎重に沼に近づいていく。
「コポコポって音が聞こえるね…モンスターがいるみたい。」
「あぁ、あれは…カエルか?」
葦と葦の間に見えるのはカエル型のモンスターだ。
しかし普段よく見るウシガエルやアマガエルとも違う平たいカエルが奥に見える。
・フラットフロッグlevel13〜15
【鑑定】結果、名前は見た目のままのようだ。
はじめて遭遇するモンスターだから、いつも以上に警戒しないとね。
舌が2本もあるなんて、どんな攻撃をしてくるかわからない。
「足元が悪いな、バランスを崩すとその隙に襲われそうだ。」
「踏ん張りすぎると足がはまって抜けなくなっちゃうかも…。」
とりあえずいつも通りカズが最初に攻撃を加える。
「どんな攻撃を仕掛けてくるだろう、、ライトアロー!」
少し離れた位置から攻撃をする。
とりあえずは魔法で攻撃、気がなさそうだったら物理攻撃にかえよう。
「魔法が効いてるな!ケイその調子で頼む!」
「任せて!」
ヘイトを取らないよう間隔をあけてライトアローを打ち続ける。
その間にもカズはフラットフロッグの攻撃を受け流しつつ避けている。
沼地であるせいで足場が悪くいつもより動きにくそう。
「あっっ!」
「か、カズ?!」
泥に足を取られカズがフラットフロッグから一撃を受けてしまった。
実はカズがダメージを受けているのを初めて見るかもしれない…いや世界樹から飛び降りた時見たか。
「え、ちょっ、やべえ!!」
カズ一度耐性を崩すとフラットフロッグがその隙に激しく舌で攻撃を繰り出す。
舌が粘着質なようで一本の舌がカズの体に巻き付いている。
「ライトアロー、ライトアロー!」
一旦僕にヘイトを向けた方がいいかもしれない!と思い必死に魔法を繰り出すが…。
「泥のせいで踏ん張れねぇ、すまんケイ…お前との旅…楽しかったぜ。お別れだ…。」
「か、カズーーーー!!!」
そう言ってカズはフラットフロッグの口の中に消えていった。
フラットフロッグはとっても口が大きいらしい。
「うわぁー、カズ!ライトアロー!」
やけくそで放ったライトアローがフラットフロッグにささり、フラットフロッグはポリゴンと化した。
それなりにダメージは与えられていたようだ、カズを犠牲にして…。
「だ、大丈夫?」
「ダメだ…。」
カズの心に新たな傷ができてしまったようだ…悲しい事件だった。
しかもフラットフロッグに咀嚼された時についた粘液はフラットフロッグを倒した後も残っていてなんとなく生臭い。
なんとも意地悪な仕様だ、僕は食べられないようにしよう…。
「カズ、ここで引き返そうか!」
「うん…。」
虚な表情のカズを手をひきドロップも確認せずただちに沼地エリアを脱出する。
「湖の水で粘液が流せるかもね。」
「粘液、流す。」
粘液を流したら荒んだカズの心も少しはましになるだろう。
湖に近寄りカズについた粘液が落ちるようおけで水をかける。
「だいぶ綺麗になった!カズ綺麗だよ生臭いのもちょっとだよ!」
「え?やっぱりまだ生臭い?」
嘘だろ…と呟くカズには悪いがまだ生臭いのだ。
粘液自体は水で流れたようで綺麗さっぱりとしている。
「くそー!街に戻ったら消臭剤を探さないとな。生臭いままだと匂いでモンスターを呼び寄せそうだしな。」
「うんうん!それがいいよね。匂いでつられるモンスターがいたら大変だもんね。」
早く帰ろうと声を揃えて帰路を急ごうとした瞬間、背後の湖がバシャッという音を放つ。
「…えっ?……ワニだ!!うわあぁぁぁ!!」
「うわあぁぁ?!やっぱり今のフラグだったかーー!」
なんて叫びながら2人揃って湖から出てきたワニ型モンスターにペロリと平らげられ、仲良く死に戻りをしたのだった。
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