第15話 イリュージョンクルー

「テゴタエ…ナイ…ドコイッタ?」


キラキラと、振り抜かれた大斧の軌跡に沿って光る蝶が舞い消えて行く。


「マァイイ。マタキタラコロスダケ。」


他のミノタウロスとは違う見た目の巨人は静かに佇んでいた。


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何だ…?温かい…俺はどうしたんだっけ…?

身体を包む温かい光に意識が浮上する…暖かさに導かれる様に目を開ける。


「女神様…?」


薄い桃色と白の神衣みたいな衣装に身を包み、長い美しくブロンドの髪、エメラルドの様な瞳、神々しい蝶を思わせる光の羽根。


「気が付いた?」


この声は、幸月さん…?


「ギリギリで間に合ってセーフエリアまで転移したの、イリュージュンクルーの力を使って。」


「イリュージョンクルー?もしかして…」


「うん、私の神代としての力…ステップとは違って、半神の力を開放して自分と任意の存在の気配を消したり、幻影の蝶を任意の場所に設置しておいて短距離だけど転移が出来たり、それと…」


「俺の腕が繋がってるのも…?」



「うん。光の蝶を快癒の力に変換して組織の結合とか細胞分裂を促して傷を治すって言う治癒の力。」


イリュージョンクルー、完全に後方支援型の力か…気配を消したり転移したり、回復したりか…


「その、衣装は…?着替えたの?」


「こ、これは…そのぉ…私は観月と違って解放すると神衣みたいなこの服に変わっちゃって…これでも恥ずかしいんだから、余り直視しないでっ///」


「ご、ごめん…いやそのさ…凄く綺麗だし凄く色気が…どうしても目が…ね…?」


露出は少ないんだけど、何と言うか神秘的で目が惹かれるって言うか、目を離せなくなるって言うか…じゃない!!!!


「代償!?代償は?!完全開放して更に俺の腕まで繋げるって!!!そんな事したら!!」


「えっと…数年ってところかな~?多分…」


「数年って!!!大きな代償じゃんか!何で!?」


「大丈夫だよ。私の寿命も長いし今までここまでの解放をした事も少ないから寧ろ調整出来て良いの。それに…私達の恩人を助ける為なんだから何も後悔も無いんだよ?私は、柊羽くんを助けられて、今初めて…神代で良かったって思ってるの。」


そんなの…何でだよ…あの時、俺はあいつの姿を見ただけで身体が勝手に動いたから腕を飛ばされただけなのに……何でだよ……

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SIDE 優理


柊羽と幸月さんを置いて私達はポータルによってロビーに戻って来た。


「はぁ…何とか帰って来れたけど…柊羽君…幸月さん…」


茉奈も心配だよね、柊羽なんて片腕飛ばされてるし…


「茉奈さん!優理さん!ご無事でしたか!!幸月さんとシュウさんは?!」


「まだ中に居る。てかダンジョンが多分進化した!ミノタウロスとか出て来てたしそれに巨大な斧を持った2~3m位で普通に顔があってミノタウロスみたいな角もある奴が出て来てそいつの足止めしてる。」


「ぇ…?イレギュラーって事ですか…?てか進化って…?」


混乱するのは分かるけど、今はそれに時間をかけてられない。


「悪いけどこの人達をお願い。私と茉奈は直ぐに戻るから!柊羽も幸月さんも放ってはおけない!」


「だ、駄目ですよ?!そんな状況なのに入る許可何て出せません!!!てか、避難勧告出さないと!!!」


「うるさい!異常事態に入場禁止なのは知ってるけどそんなの知った事じゃない!私達は行くから!」


「駄目ですってば!資格だって剥奪になるかもですよ?!」


「だったら何?!柊羽を!幸月さんを!見捨てるくらいなら好きに剥奪でも何でもすれば良い!」


大切な友達を見捨てたら!私は!私は!


「彩花!!!」


「信志くん!」


あぁ……この人が柊羽の兄貴分かぁ……


「良かった…無事で良かった…柊羽は…?」


「シュウくんは……シュウくんは……」


「おい!?まさか……違うよな!?無事だよな……?」


「それがその…私達を庇って…片腕を…そのまま足止めを…」


「片腕を…冷静なアイツが…?全員で逃げないで足止め…?」


「あの…柊羽の兄貴分の方で信志さんですよね?」


「えっと…?GodDessの優理?」


「はい。ギルドから依頼受けて救出に向かう時に柊羽と一緒になったんです。それで…」


「それで?柊羽はどうした?」


「足止めをしてくれてその間に私達が皆さんを連れて脱出しました。それで何ですけど、あの時の柊羽は何処かおかしくて特殊な形?のミノタウロス?が出て来てそいつが背負ってた大剣を見たら感情を爆発させて…」


「特殊なミノタウロス…大剣……まさか……」


「何か知ってるんですか?!柊羽くんの事!」


「今度はGodDessの茉奈…っとそれは兎も角だけど多分そいつは…アイツの…聞いてるか分からないから俺からは言えないけど、柊羽の従妹のお姉さんも探索者で大剣を使ってたんだ…」


それって…アイツが持ってた大剣は柊羽を庇って亡くなった人のって事…?

それが分かった瞬間、私と茉奈は同時に走り出した。

後ろから私達を引き留める声が聞こえて来るけど完全に無視だ、もしも本当に仇なのだとしたら!!

片腕を失った今の柊羽じゃ!


「優理!一気に行くよ!邪魔する奴は相手が誰でもぶっ飛ばしてでも!!!」


「当然!足手纏いかも知れない!それでも!!!」


私と茉奈はゲートを一気に抜けて柊羽達の居る所まで一気に走り抜けた。


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「もう……泣かないで?でも、ありがとうね。私の為に泣いてくれて。それと、悲しませてごめんね。」


「違う!俺が!俺が感情を抑えられなかったからで!俺のせいで!!」


「でもそうじゃ無かったら間に合わなかった……でしょ?里香さんか、沙羅さんのどちらか……もしくは両方が殺されていた。でしょ?」


それは、そうだと思う…でも…俺が…


「柊羽くん、教えて貰っても良い?何であんなに激昂したの?」


「それは…あいつの持って居た大剣がさ……」


「うん、返せって言ってたよね?」


「あれは…俺を最後まで守ってくれた従妹の姉さんが使って居た大剣なんだ…」


「それって…あいつがお姉さんを殺したって事?それに大剣なんて同じの沢山あるんじゃない?」


「普通の剣ならね…あの剣は仕掛けがあるんだ。あの大剣…いや、合体剣。」


「合体剣?どう言う事?」


「一本の剣に見えたかも知れないけど、あの剣は複数の剣が組み合わさってるんだ。だから見る人が見れば分かるって訳。」


「そうなんだ。柊羽くんが言うなら間違いないよねきっと。仇って訳か…」


「分からない…あの日、最後まで姉さんが俺を守ってくれたのは間違いないんだけど…姉さんを殺したのがアイツなのかは記憶には無い…」


最後まで俺を守ってくれたのは姉さんだけど、姉さんを殺したのがアイツなのかは分からないと言うより記憶に無い。


「柊羽くん……私には柊羽くんの辛さも悲しさも理解は出来ない。でも…これくらいは出来るよ?」


ぎゅぅぅと自分の胸に俺を抱きしめて、子供をあやすみたいに頭を撫でてくれる。何て言うか、慈愛に満ちてると言うか凄く落ち着く…


「幸月さん…ありがとう…絶対に倒して脱出する。幸月さんを助ける。」


「呼び捨てで良いよ。柊羽くんが私を助けてくれるなら、私も柊羽くんを助ける。神代の力でも何でも使ってね。だから、絶対に倒して取り戻そうね?」


「ありがとう…頼りにしてる。幸月さ「幸月。」…幸月。」


俺達の間に場所さえ抜けばとても静かな時間が流れた。


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「ナニコレ…」


逸れた階層に着くと、私達の眼の前にはない迷宮?迷路?が広がっていた。


「えっと…?迷路?何で……」


「もしかしてあの特殊なやつの力とか?」


「茉奈……ミノタウロスの神話って覚えてる?」


「えぇぇと…迷宮の主とかその程度しか知らないよ。」


だよね……こんな事ならもっと調べておけば良かった。


「兎に角、進まないとね。」


「先ずは柊羽くんと幸月さんに合流しないと。」


私達は、片手を壁に付けながら迷路に足を踏み入れる、茉奈は片手で何時でも自分の武器を抜けるようしながら、私は大剣だから茉奈の少し後ろを歩きながら進んだ。

どうしても一歩遅れてしまうから……


暫く進んでいると、ガィィンッ!キンッ!キンッ!と、剣戟の音が聞こえてくる。

その音を聞いて直ぐ私と茉奈はお互いに顔を見合わせて頷いた後に音の方へ走り出した。


「優理!あそこ!」


「柊羽っ!幸月さん!」


ガキンッ!と大剣を弾き飛ばしその勢いのまま…スガンッ!!と相手を蹴り飛ばした後、柊羽は、灼断を地面に突き刺し……「焼き尽くせ!我が憤怒!憎悪の咆哮をその身に受けろ!」と、言葉の後に焔が地面を走り特殊個体に辿り着くのと同時に全てを焼き尽くすかの様な漆黒の炎が立ち上がった。

その光景を私達は、何故か悲しくなりながら眺め…柊羽が最初に弾き飛ばして、私の直ぐ横に突き刺さった大剣の柄を私は無意識に掴んだ。


…………………………………………………………

「えっと…その、ごめん……」


「落ち着いた?抱きしめたのは私何だから気にしないでっ。」


「ありがとう…さてと…」


「うん。そろそろ倒しに行く?あのミノタウロス?ミノタウロスって言って良いのか分からないけど。」


「ミノタウロスってのは総称だよ。正確にはアステリオスだ。」


「そうなの?」


「あぁ。暴れん坊で手の付けられないアステリオスを迷宮に閉じ込めたのが始まりで、何時の間にかミノタウロスと呼ばれる様になってそれが伝わった結果だよ。」


「迷宮の王みたいな感じかな?強そう……」


「うん。でも、姉さんの剣だけでも取り戻したい。」


「分かった。でも、一つだけ約束して欲しいな。」


「約束?」


「もしも…もしもね?アステリオスが、本当に仇だったとしても……」


「だったとしても?」


「憎しみに囚われないで…否定しないで欲しい。その気持ちも間違えてないんだから、自分の想いを受け止めて欲しいの。」


「受け止める…認める…灼断との試練で言われたんだ、俺が戦うのは復讐の為だと、その為に戦って居るんだと…」


あの後からずっと燻ってる…言われるまで目を背けていたけど、確かにそう言う部分もあるんじゃ無いかって……


「そっか……私には分からないけど、でも一緒に支える事は出来るよ?だからね?柊羽くんが憎しみに捕らわれたら私が止める。私の命を使ってでも柊羽くんを元の道に戻して見せるから、復讐心だったとしても、受け止めて。」


「分かった……幸月の命がかかってるんじゃ受け止めない訳には行かないなぁ……」


とは言え、まだ分からないからこれからだな。


「よろしいっ!それじゃぁ…行きましょうか!迷宮の主の退治に!!!」


俺の手を引いて立ち上がらせて、セーフエリアから出て、共に歩く…灼断を片手にもったまま、幸月は解放した姿のまま……


「お願いね、イリュージョンクルー……」


光の蝶になった俺達は一瞬で脱出ポータルの近くへと転送されるのと同時に……


「ガァァァァァァ!!!!」と、叫び声と共に斧が振り下ろされる!!!


「リターンマッチだ!今回はさっきの様には行かねーぞ!アステリオス!!!」


俺は……ガイィィンッ!と音を鳴らしながら灼断で大斧を受け止め……斬ッ!と、受け止めた灼断の勢いのまま、大斧を両断した。


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