第18話 情報からの考察
ぐいぐいと俺を引っ張って歩いて行く信志。
俺も抵抗はしないで流されるまま着いていく。
「信志くん!柊羽くん!」
「彩花!帰るぞ!柊羽を休ませないと!」
「えっ!?わ、分かった!車回してくるから待ってて!!」
直ぐに出て行く彩花さんの背中を見ながら俺と信志もゆっくりではあるけど追いかけて行く。
「信志…大丈夫だってば……」
「うるせぇ!死にそうな顔して、出会った頃みたいな顔してるお前の大丈夫なんて信じられっかよ!」
出会った頃って……俺の顔はそこまで酷いのか?
少しして彩花さんが回してくれた車が俺達の目の前に到着して、直ぐに乗り込む。
「お待たせ!早く乗って!」
「すいません……世話掛けます……」
「ほら!先ずは横になってろ!詳しい話は帰ってからだ!」
後ろに揃って乗って、信志が俺の身体を倒す。
「おい……信志……!」
「良いから!彩花!出してくれ!取り敢えずは俺の家に……」
「う、うん!少しの間だけ我慢してね?柊羽くん。」
信志に横にさせられて、車に揺られてる内に俺の意識は落ちていく……自分で思うよりダメージ大きかったみたいだ……てか、横になるなら女の子の膝が良かった……そんな事を考えながら眠りに落ちた。
………………………………………………………
SIDE 信志
「寝たか……無理ばかりしやがって……」
自然とそんな呟きが溢れた。
昔ならいざ知らず今はこいつの方が遙かに強い、それこそ一歩も動かずに殺されるレベルで差がある。
でも、こいつは……柊羽は、昔と変わらずに俺を兄と慕ってくれて、頼ってくれてる。
だからこそ、俺に出来る事で、柊羽の力になると決めている。
「起きたら文句言われるんだろうなぁ〜……男の膝枕とか最悪だわ!って。」
「何となくだけど…言いそうな気はするけど、照れ隠しでしょ?」
彩花が、運転しながら俺の言葉にそんな事を返してくる。
「そうかもな……俺は兄貴だからな。世話の掛かる弟が可愛くて仕方無いんだ。それに、そん位の憎まれ口叩く方が俺も安心するわ。」
「そっか。」
そう言った後、彩花は無言で車を走らせた。
でも、その横顔はとてもやさしい顔をしていて、俺は少し気恥しくなった。
…………………………………………………………
「んぅ……あれ?俺……」
ベッドから起き上がると何処かの部屋に寝かされて居た。
「ここは……あぁ、そうか……」
信志の部屋か。
俺は起き上がって部屋を後にしてリビングへのドアを開ける。
「お?起きたか?柊羽。」
「おはよっ。改めて助けてくれてありがとうねっ!」
「ごめん、迷惑かけた。それと、彩花さん?は無事で良かったです。」
「ほら、そんな所に立って無いでこっち来い。」
ぼーっとしてる俺を手招きしてる信志に誘われるまま俺は空いてるソファーに腰かける。
「柊羽くんは何が良い?コーヒー?お茶?ジュース?」
「お茶で良いです。」
「はーい。待っててねー。」
彩花さんがキッチンに歩いて行って飲み物の準備をしてくれてる。
「少しは落ち着いたか?」
「うん……なぁ……そんなに酷い顔してたか?俺。」
「あぁ……うん。少しは良くなったか。それで中で何があったんだ?あっと…彩花に聞かれたくないなら席は外してもらうぞ?」
俺を心配そうに見てくる信志とお茶を持って来て俺の前に置いて信志の隣に座った彩花さんを見ながらぽつぽつと俺は言葉を零す。
「大丈夫。彩花さん達を逃がした後、アステリオスとの戦闘になって……」
何があったのかを俺は話す。あの場所であった事、起こった事、姉さんが何故現れたのかを……
「剣への意識の転移……そんな事出来るの?」
彩花さんが驚いた顔をして俺に聞いてくる。
「姉さんの力は、力の本質は、剣姫と言われた実力でも、合体剣をまるで手足の様に自在に操る事でもあらゆる属性を自在に操る事でも無い。」
俺の言葉の続きを待つ様に見つめる彩花さん。
俺が何を言うのか静かに待って居る信志。
「姉さんの力の本質は憑依経験だ。」
「憑依経験って何?」
「簡単に言えば武器を選ばず使い手の経験をその身に宿す事が出来てそれとは別に自分の経験を自分の武器に宿す事が出来た。」
「それじゃ……」
何をしたのか分かったのか彩花さんは口を手で覆った。
「ここからはアステリオスの話と俺の予測になるが、あの日、俺を庇って姉さんが死んだ日……ギリギリの所で意識を残していたアステリオスが姉さんに提案したんだろうと思う。」
姉さんから聞いた、アステリオスが言って居た話、他世界と繋げた存在が居る事。
ダンジョンは何かの計画の為にこちらの世界に顕現させた事。
その存在を語ることは許されて居なかった事。
だが……確実にそんな存在が居るという事。
「嘘……つまり他の世界とこの世界を繋げた存在が居て何かの目的の為にダンジョン何て物を……あれ……?私達の力の事は?こんなものまで私達に与えないで黙って侵略してれば良かったんじゃないの?」
「そこが分からないんです。それで考えたんですけど…此方側の抵抗なのでは?と思ったんです。」
「どう言う事だ?」
「言い方はアレだけど世界と世界の喧嘩みたいなものだろ?」
「世界と世界の喧嘩……世界の意思みたいなのがあってそれが抵抗する為に此方側の人間に力をって事?」
「はい、正しいかは分かりませんけど、神代家みたいなのがありますし、神の直結の子孫の家もある事ですし、神が居るのだけは間違いないでしょう?それを考えたら、世界に意志があっても可怪しくは無いかなと思いました。」
「神の存在と世界の意志か……だとしても何で今更?まるで柊羽と神代が関わるのを待っていたかの様に……」
「そうだよね……私達よりも前の世代の人達にだって力の強い人、戦いの上手い人は沢山居た筈なのに、何で今なんだろう?それこそ柊羽くんのお姉さんの様な人も居た訳だし……」
「姉さんは確かにオールマイティーって感じの人だった。対して俺は物理一辺倒だし。」
お陰で深淵なんかも行けるには行けるけど属性系のは相性が悪いってか超えられないのが多い……観月と一緒であのバフがあったから火の場所は超えられたけど……
「あ……灼断と灼絶……?」
「ん?二人が手に入れた力がどうかしたのか?」
「いや……物理一辺倒の俺とバッファーの観月とお互いに属性を手に入れたけどもしもこれが、他の所でも存在するとしたら?それぞれが何処かにあったとしたら?属性系だから俺とは相性悪くて深淵まで行けてない場所もあるし……」
「もしも同じようなのがあったとしたら水、土、風ってある訳か……その力を柊羽が手に入れたら美奈さんに追いつくんじゃないか?」
「そうだよね!光とか闇は無いのかな?氷とか雷とかもそうだけどさ。」
「どうでしょうね?氷とか雷とかは水と風の上位って感じで使える様になるかも?とは言え分からないですけどね。他にあるかもハッキリとはしないし。」
「でも、可能性はあるよね?それと、来週末の金曜日から目赤の深淵に挑むってパーティーあったよ。配信もしながらやるって言ってた。」
そうか……まぁ、別に先に行くのは構わないけど……無理な気がする。
「あぁ、俺もそれは見たけど、正直無理じゃないか?どの人も柊羽以下って言うか神代3姉妹以下だろ?それに東原と岸本の二人以下だしあの巨人を倒すので精一杯じゃないかな?むしろ倒せないで終わる気がする。柊羽だって途中で弱点見抜いたのと神代のバフがあってやっとだったんだし。」
「まぁねぇ……一応水属性が強い人で固めてるらしいけど、水だけ強くてもねぇ?とは思ってる。」
「俺も見てみるか……深淵に入るなら今の内に行けば良いのに、まだリポップはしてない筈だしさ。」
「灼断と灼絶狙いなんだろさ。出ないと思うけどなぁ。」
「うん、あれは柊羽くんと観月ちゃんの二人だったから出た気がする。それにさっきの話じゃ無いけど資格が要る気がするんだよねぇ。何て言うか世界の意思?ってのが本当にあったとして柊羽くんと観月ちゃんに武装が出た様に他の属性は他のGodDessの子達にしか使えない気がするなぁ。」
「それはありそうだな。神なんてのも実在するのは間違い無いしスサノオ神の子孫とかも居るしなぁ……」
「こうやって考えると日本って凄いよね?神様の直血が居るし神話の武器とかも残ってたりするしさ、幸月ちゃんの持ってたのだってそうでしょ?」
「神話の剣、布津御霊の剣何て現存してるなんて俺も思わなかったです。」
「そうかもだけど!神秘は神秘でしょ?それに私でも知ってるのだと……パンドラの箱?は武装じゃ無いか。ロンギヌスの槍?とかさ!」
んー……勘違いしてるかな?
「彩花さん。パンドラの箱の名前知ってます?それとロンギヌスって槍は存在しないって知ってました?」
「え?!そうなの?!だってお話も名前も残ってるのに?!」
信志は苦笑い……これ結構勘違いしてる人多いんだよなぁ
「そうです。パンドラの箱は正式にはピトスと言います。パンドラは所持者です。」
「そうなの?!あれ?!じゃぁ!ロンギヌスも人の名前?!」
「そうです。磔にされたキリストを貫いたのがロンギヌスって言う人で、その人の使った鉄槍がデミゴットの血を浴びた事で聖遺物になったってだけです。」
「結構な人が勘違いしてるけど何々のってなってる神話の武器とかって大体所持者とかなんだよ、彩花。」
「ぇぇぇ……それじゃーそう言うのって存在しないの?」
「存在しないとは言えないかな。それと干将莫耶みたいに製作者と奥さんの名前が付いてたりもあるし。」
「日本の物は?何かあったよね!天叢雲とか!後々!雷を切った刀とか!」
「えっと……天叢雲は八岐大蛇から出てきた剣でその時の退治に使ったのが
すげぇーもの貰ったよなぁ……使いこなす訓練しないとなぁ……灼断もだけど。
「神代家こえぇ……まぁでも、柊羽に力を貸して後ろ盾になってくれてるならまぁ良いか。」
後ろ盾ねぇ……確かにそれは助かるけども。
考え事をしてる俺を尻目に彩花さんが唐突に胸の前でパンと音を鳴らして手を合わせる。
「うん!難しい事はここまで!ダンジョンの事とか世界の意思がどうのとか今はまだ何も分からないのは変わらないしね!って事で!柊羽くん!ご飯食べて行ってね!準備しちゃうから!何なら泊まっていきなさい!」
話し飛びすぎぃ……
「いや、夕飯はまぁ、ご馳走になりますけど泊まらずに帰りますよ?二人の時間の邪魔はしたくないし俺が居たら色々と出来ないでしょ?」
「おまっ///色々ってなんだよ!///色々ってさ!!!///」
「赤くなってるんだから分かってるだろうに。彩花さんが無事だったんだから二人で愛を確かめあってくださいー。弟分は気を利かせて帰りますー!」
「よ、よよ、余計な気を回すなっての!!!」
俺と信志のやり取りを笑いながら見てる彩花さんを見て思う。
本当に助けられて良かった…兄貴の悲しむ顔見ないで済んだしね。
…………………………………………………………
「遅くなってしまったな。」
夕飯をご馳走になった後、彩花さんに惜しまれながら俺は信志の家を後にしてすっかりと夜になってる家路を歩く。
「まぁでも……信志のお陰で気は紛れたし嬉しかった。」
無理矢理ではあったけど連れて帰ってくれたのは正解だったのかもな。
そんな事を考えながら俺は何時の間にかたどり着いて居た自宅の玄関前に着く。
そこには……
「茉奈?何してるんだ?そんな荷物まで持って……」
「あっ!おかえりぃー!待ってたよ!」
「待ってたって何時から……少し身体も震えてるじゃん!連絡くれたら良かったのに!」
「たはは…忘れてた……今から良いかな?相談があるんだ。大変な事もあったし今の柊羽くんは……お姉さんの事でキツイかもだから無理にとは言わないけどさ……」
「兎に角!中に入ろう!風呂は時間かかるから良かったらシャワーだけでも浴びて身体温めて、幾ら何でも風邪ひいちまうって。」
「えっちっ///シャワー浴びろとかっ。」
「ばっ!馬鹿か!変な意味じゃねーよ!!!」
「へへっ///冗談だよぉー。まぁ……冗談じゃ無くても良いけどね……」
後半は良く聞こえなかったけど……兎に角!俺を待ってたせいで風邪ひいたとか洒落にならん!
「ほら!入った!入った!」
「うんっ!お邪魔しますーっ!」
何故か結構な荷物を持った茉奈を家の中に招き入れて直ぐにシャワーを浴びて貰って、その間に夕飯がまだと言って居た茉奈の為に簡単に夕飯を用意してとちょっと忙しい帰宅になったのだった。
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遅くなりまして申し訳ありません。
色々と立て込みまして書いてる余裕がありませんでした。
何とか形に出来ましたので楽しんで貰えれば幸いです。
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