第17話 受け継がれるモノ
戦いが終わった…それに応じて展開されて居た迷宮がゆっくりと消えていく。
「柊羽ちゃんっ。お久しぶり。やっぱり凄く格好良くて強くなったねっ。」
「姉さん…」
幸月と茉奈は気を使って居るのか少し離れてこちらを見てる。
とは言え…力の解放を解除してしゃがみ込んだ幸月を介抱するのと一緒にだけど。
「優理は無事なのか?意識はある?」
「それは大丈夫だよ。意識もあるから今も見てる。えっと…何処から話そうかな……」
「姉さんは、生きてるのか…?」
俺の質問にフルフルと左右に顔を振る…分かっては居たけどやっぱりキツい。
「先ずは優理ちゃんの事だけど、元々憑依体質なの。でも、優理ちゃん自身の魂が強いから今までもナニカに取り憑かれても打ちのめして追い出していた。」
「更に、探索者としての才もあったと…」
「そうそう!それで、今回は無意識だったみたいだけど私の剣を掴んだから、私からコンタクトを取って、身体を貸して貰う事にしたって訳。剣の使い方を教えるのを条件にね。」
「それって……その剣は優理に使わせるつもりですか?」
「茉奈……?」
「剣だけなら構わないとは思います。柊羽クンが良ければだけど……でも…」
「大丈夫。今だけだから、今の私は最後に剣に残った意識と言うだけ……死ぬ間際に自分の意識を剣に移したの……アステリオスがね……話したい事があるからそうしろとね…でも、それで助かった部分もある、柊羽ちゃんに伝える事が出来たから。」
「伝える事?」
「うん。アステリオスを恨まないであげて。」
「それはどう言う?」
「あの日、アステリオスを筆頭に氾濫した高位の魔物は自分の意思では無かったの。」
「どういう事ですか?他に要因があったと言うんですか?」
解放を解いた幸月が姉さんに質問を投げかける。
「この世界にダンジョンを齎した者、二つの世界を壊そうとする者の仕業。何だけど…アステリオスにもそれを口に出す事を許されて居ないらしく最後まで分からなかったの。」
つまり……今までの氾濫はこちら側の世界を壊そうとして居た者が仕向けた事って訳か……ん?二つの世界を?
「二つの世界って何ですか?いやまぁ…言葉の意味は分かるんですけど、元々ダンジョンがあった世界と繋がってるって事ですか?」
「多分ね…そこまで詳しくは私も分からないんだけど、最低でも分かる事は世界は複数あって、その中には私達の世界よりも文明が進んでいる世界、1000年は昔って位の文明の世界、ファンタジーとしか見えない世界と沢山の世界があるの。そしてその中の世界の一つが此方側と繋げた結果が………」
「今の世界の状況か…中心は何処なんだ?分かる?姉さん。」
「それも分からない……でもね?最初に現れたダンジョンに繋がる何かがあるかも?」
「最初系かぁ……今は日本のも入れないもんね。各国にもあるし……入れない条件が何かも分かってないし……ってそれは兎も角、お姉さんはどうしてそこまで分かるんです?」
「アステリオスが分かる部分だけだけどね。この事を伝える為に私は剣に意識を残したの。だから……」
別れか…分かってるけど……
「時間かな……これ以上は優理ちゃんの身体が持たないかな。柊羽ちゃん、この剣は優理ちゃんに使って貰っても良い?」
「あぁ…うん…その方が剣も喜ぶと思う……俺には使いこなせないし…だから…その…」
駄目だな…涙が零れそうだ……そんな俺を姉さんはふわりと抱きしめてくる。
「姉さん…?」
「ふふっ。幾つになっても泣き虫さんだね。こんなに格好良く強くなったのに、根っこの部分は変わらないんだからっ。」
「ごめん…あの時、俺がもっともっと強ければ姉さんが死ぬ事も無かったのに……」
「もうっ。10歳の子供だったんだから仕方無いでしょ?私は柊羽ちゃんを守れただけでも満足だよ?それよりもごめんね?辛い思いさせて悲しませて…ごめんね……」
違う!俺が!俺がもっと強ければ!あの時だって!姉さんも母さんも父さんも!
「皆も、ここには居ない子達も柊羽ちゃんの事をお願いね?自分の事は勘定に入れないで動いちゃう子だから、皆で支えてあげてね?」
俺を抱きしめたまま背中をぽんぽんしたり身長差もあるのに頭を撫でたりしながら幸月と茉奈にそんな事を伝えてる。
「はい、私達に任せてください。神代としてでは無く唯の幸月として、観月も紗月も柊羽君を支えます。それが私達の恩返しです。」
「私も……きっと優理も変わらずに支えますから、だから安心してください。」
何だよ……何なんだよ……俺だって皆を支えるし助けるって、だって俺の経験した思いを他の人に経験させない為に強くなったんだから……
「柊羽ちゃん、元気でね?もし、早くこっちに来たりしたらぶん殴ってでも戻って貰うからね?それと、幸月ちゃん達をちゃんと頼る事、茉奈ちゃんも優理ちゃんも居るんだから……それと、守ってあげて、柊羽ちゃんと皆が繋がった事にもちゃんと理由がある筈だからね。」
「分かってる……俺が皆を守る。俺が経験した思いを皆に経験させたりしないから。だから……姉さんもっ!」
キラキラと優理の身体から光が上がる。
「それじゃ…バイバイっ。元気でね?」
「姉さんっ!俺っ!俺っ!」
「うんっ。大丈夫だから。会えて嬉しかったよ。」
フッと優理の身体から光が消えるのと同時に力が抜けて俺に寄りかかって来た。
それを確りと抱きとめた。
「くぅっ……うぅぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
優理を抱きしめたまま俺は子供の様に大声で暫くの間、泣き続けるのだった。
…………………………………………………………
SIDE 茉奈
その後、柊羽クンが落ち着くのを待って、私達は気を失ったままの優理と受け継がれた大剣を持ってポータルから脱出した。
優理の事は柊羽クンが、大剣は私が持って疲労困憊の幸月さんを支えながらの脱出だから少し大変だった。
「ふぅぅぅ…大変な経験だったけど無事に戻ってくれて良かったね。」
私の言葉に幸月さんも柊羽クンも頷くだけで言葉を発しない。
大変だったからねぇ……混乱もしてるしね……幸月さんも直ぐにロビーの椅子に座り込んだし、柊羽クンも気を失ったままの優理を優しく寝かせてジャケットをかけてる。
「柊羽!!!無事か?!」
「信志……うん、無事だよ。」
「そうか…良かった……ってその剣って確か……?」
信志さんが私の持つ大剣を見ながら驚いた顔をしてるけど、知ってるの?
「うん、姉さんの剣。アステリオスが持って居た。美奈姉さんが、優理に使って欲しいって言ってた。」
「美奈さんが?どう言う事だ?いや!それは後日で良い!今は確りと休め、死にそうな顔してるぞ。こっち来い!」
「ちょ?!信志?!」
ギルドのロビーにある椅子に寝かせて居る優理を気にしながらも柊羽クンを引っ張って行く信志さん。
「GodDessの皆には悪いけど柊羽は連れて行くよ。今直ぐに休ませたいからな!詳しい話は後日にしてくれ!それとギルドへの説明も適当に頼む!」
そう言った信志さんは柊羽クンを連れて離れて行った。
まぁ、仕方ないか……柊羽クンには辛い事あったしね。
「すいません。どうなったのか、説明していただけますか?」
職員さんが私達に遠慮がちに聞いてくる。
「えっと…ダンジョンは元に戻りました。特殊個体……アステリオスの討伐は完了。その後、アステリオスの展開していた迷宮も解除されたのでもう大丈夫だと思います。」
「そうですか、皆さんの状態の方は?」
「私は特に何も、幸月さんが疲労位ですか?」
開放の事を言う必要は無いしね。
「東原さんは?気を失っていますが……」
「病院の手配だけお願いします。優理も疲労の限界とは思いますけど念の為、検査の手配も。」
「分かりました。これ以上の事はまた後日と言う事で…本日はお疲れ様でした、ゆっくり休んでください。」
「うんっ。ありがとうっ!」
私達から離れて行った職員さんの背中を眺めていたら幸月さんが話しかけて来た。
「優理は大丈夫かな?目を覚まさないけど……」
「ここまでの事は今までも無かったから分からない……でも大丈夫じゃないかな?」
「どうして?」
不思議そうな顔で聞いてくるのを私は笑顔で返す。
「だって!柊羽クンのお姉さんが身体を借りていたんだもん。柊羽クンが悲しむ結果になる様な事はしないでしょ!」
「ふふっ。それもそうね……それを言われたら納得しか出来ないねっ。」
私達は笑いあいながら駆け付けた救急の人達に支えられ、担架で運ばれる……優理も新しく力を手に入れた。
幸月さんは半神化とも言える力がある。
観月も、柊羽クンと兄妹とも言える武装を手に入れた。
紗月も神代の力がある……私だけ、私だけ何も無い。
このままじゃ置いて行かれちゃう。
それだけは、嫌だなって心から思った。
…………………………………………………………
SIDE 優理の精神世界
「フッ!ハァッ!」
キンッ!キンッ!ガギィンッ!と剣と剣のぶつかり合う音が響く。
「うんうんっ!良い感じ!良い感じ!もう一段階上げていくねー!」
「えっ……ぁっ。」
ポトリ…コロコロ…コロン…と、私の頭が地面に落ちた。
これで何度目だろう……柊羽との別れを見届けた後、美奈さんの意識は私の中にまだ残っていた。
その理由は、私が受け継ぐ大剣を使いこなす為の訓練。
でも、その方法が!方法が!!
「さぁ!がんばれぇー!もっともっと行くよー!」
「鬼ぃぃ!悪魔ぁぁ!!人でなしぃぃぃ!」
柊羽のお姉さんは悪魔だ!使いこなす為に何度も何度も少しずつ強さを上げて行って何度も首を刎ねられた……
「もういやぁぁぁぁ!壊れちゃう!私壊れちゃうぅぅぅ!!」
「大丈夫!優理ちゃんの魂が強いからこの程度じゃ壊れないからっ!良いよね!この世界!何度死んでも死なないしちゃんとフィードバックするしね!」
「いやぁぁぁぁ!後、何回死ねば良いのこれ?!」
「この感じだと……あと100回位……?」
いやいやいや!後100個も私の顔が並んだらトラウマになる!
唯でさえすでに50個は自分の顔が並んでるんだもん!!!
「どんどん行くよー!対応出来る様になったしまた上げていくね!!」
「鬼畜ぅぅぅぅぅ!!!………ぁっ。」
そしてまた更に私の首が転がった……
「む、無理……もう動けない……」
「んっ。もう十分かなぁ……お疲れさまでした。フィードバックはあると思うけど、あとは実際に訓練して使いこなしてね?」
「は、はい……ねぇ…あのさ…このまま居られないの?」
「流石にそれは無理かな。優理ちゃんの身体も危ないし私も唯の残留思念だしね……」
そっか……それじゃ無理かぁ……
「あのさ、一つだけお願いしても良いかな?」
「お願いですか?」
「柊羽ちゃんの事、よろしくね?仲良くしてあげて欲しいなぁって……」
「それは勿論!柊羽の事は好きだし、私ももっと仲良くなりたいし……それに何より、お姉さんの力のお陰で私はまた強くなれた……」
裸の世界、精神世界で隠し事なんて意味無いもんね。
「幸月さん、観月に紗月……特別な血でもある神代家。観月に至っては柊羽と兄妹って言っても良い武装まで手に入れた。だから今のままじゃ駄目だって、置いて行かれるって思ってた。だからこそ……私はお姉さんの剣を受け継ぐ、強さも受け継ぐ。そうして、柊羽を助ける。柊羽の力になるんだ。」
「うんっ!よろしくねっ!それにしても、誰が柊羽ちゃんの心を手に入れるのか楽しみだなぁ!さってと……私は先にあっちに行ってるから元気でね?あんまりにも早く来たらぶん殴ってでも送り返すからっ!じゃねぇっ!!!」
キラキラと光を残して消えて行った、柊羽のお姉さん。
「最後まで物騒なんだから……でも、ありがとうございました!!」
そうして私の意識も自分の世界から現実へと戻る。
そんな私に待って居たのは……肉体へのフィードバックによる全身筋肉痛……しかも一週間も続いて、その間は碌に動けなかった。
でも、そんな私を心配して、柊羽がお見舞いに来てくれて甲斐甲斐しくお世話をしてくれたのは、凄く嬉しかったし、お母さんも柊羽に会えてテンション爆上がりになっていた。
そんな中、私の話を聞いた柊羽が、「姉さんが……その……ごめん……」と…凄く申し訳無さそうな顔で私に言って来たのは凄く笑っちゃいました。
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何故か、完成版では無く未完成版が投稿されてしまっていたので作り直しました。
申し訳ありませんでした。
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