第16話 憑依経験

「オマエツヨイ…ツヨクナッタ。」


「何だと…?」


柄だけになった斧を投げ捨て一足で俺達から距離を取ったアステリオスの言葉に訝しげな顔を俺は向ける。


「アノヒ、ニゲルダケ、マモラレル、ダケノオマエトチガウ。」


「それは…まさか…お前が…」


「アノ、オンナノ、イッタ、トオリダッタ。ダカラ…コレツカウ。」


背中から姉さんの合体剣を抜いて構えるアステリオス。

大剣にも関わらずに片手で振り回してる。


「そうか……お前が姉さんを……その剣!!返してもらうぞっ!!」


「コイ、メイキュウノアルジ、アステリオスガ、アイテスル。ソコノオンナ、ジャマスルナ、テヲ、ダサナケレバナニモシナイ。」


地面を砕く程の踏み込みで一気に距離を詰めながら俺とアステリオスはぶつかり合った。


…………………………………………………………

SIDE 幸月


「やっぱりそうなんだ……」


柊羽くんの従姉妹のお姉さんの仇。


「お願い…捕らわれないで……」


「オラァァァ!!!」


灼断に炎を纏わせてアステリオスの持つ合体剣とぶつかり合う…ガキンッ!ギィンッ!ガィンッ!ギィンッ!ギャギン!とぶつかり合う音が響き渡る。


「タノシイ、モットモット、コンナモノジャナイダロウ?」


「嘘でしょ……柊羽くんの剣技と真面にやり合ってる…それどころか…」


互角にやりあってるどころか、押してる…?特殊個体だから可笑しくは無いけど…斧がメイン何じゃ無いの?


「でも…そうか!普段の内包が使えないのかも…」


お姉さんの剣が壊れるかも知れないから…それなら!私のイリュージョンクルーで援護も出来るかも…


「きっとチャンスはある…負けないで、柊羽くん。」


私は二人の戦いからチャンスを逃さない様に目を離す事は無かった。


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チッ!姉さんの剣を使いこなしてやがる!この巨体だからこそかも知れんが…それにこの剣筋!!!


「Possession Experience…ケンスジニ、オボエアルダロウ?」


「やっぱり…姉さんの!このぉ!」


ガガガ…ガキンッ!と連撃の音が響いた後…お互いに距離を取る。


「Possession Experience…憑依経験……姉さんの剣を使うだけじゃ飽き足りずに!!!灼断っ!!!」


一足で飛び掛かり横薙ぎで切り払う瞬間に焔を纏わせ斬撃と炎撃を同時に振るう。


「グヌガ!ムダ!!」


ギギギィンッ!と剣と剣がぶつかり合い俺の斬撃をいなす、アステリオス。


「シネ。」


上段からの斬り下ろし、それを灼断で確りと受け止める。


「くっそが!おもてぇな!!!」


ズドンッ!と音が響き、斬撃の重さで俺の足が地面にめり込む。

カチャンと音が鳴り、直ぐ様アステリオスは片手で合体剣から外した剣で俺は真っ二つに切り捨てようと横薙ぎに振るう。


「チッ!」


筋肉がミシミシと音を立てるのも構わず、受け止めている剣を弾き、後ろへと飛び回避。


「ソラ、イクゾ。」


2刀流になったアステリオスの猛攻を……避け、屈み、灼断で弾き、やり過ごす!

ガィィィンッ!!と音を鳴らしてアステリオスから距離を取った。


「お前…姉さんの言った通りと言って居たな?どう言う意味だ……」


「アノオンナ、イッテタ、オマエハ、ツヨクナル。ホントウニ、ツヨクナッテ、イマココニイル。」


姉さん……ありがとう……


「お前が、姉さんを殺したのか?」


「ツヨカッタ、トテモツヨカッタ。チカラモココロモ。」


「そうか…良く分かった。」


(認めろ、お前の中の焔を!)


「行くぞ。」


一瞬で距離をゼロにして再びお互いの剣がぶつかり合った。


ギィンッ!ガィィンッ!キンッ!キンキンッ!お互いの剣技がぶつかり合い、剣戟の音を響かせながら止まる事無くぶつかりあった……その中で……


(憎しみが溢れているのは気付いているだろう?見ぬふりはここまでだ。)


「うるせぇ……」


「ナンノコトダ?」


(認めろ、復讐で剣を振るっている事は変わらん、お前の中の復讐の焔を認めろ。)


「ドウシタ?コノテイドナラ、スグニコロシテヤル。アノオンナト、オノジトコロニイケ。」


バギャンッと音を鳴らし地面を割りながら迫るアステリオス…俺はその場から動かずに俯いたままで……


「柊羽くん!!!」


幸月の悲痛な声が聞こえる……


「スグニ、ソコノオンナモ、オクッテヤル。トモニシネ。」


頭上から振り下ろされた合体剣を灼断で切り払い勢いのまま弾き飛ばす。アステリオスの幸月をコロス……その言葉に俺の中で答えが出た。


「ナ、ナンダト……」


「灼断…認めるよ。俺の中には確かにこいつに対する憎しみも復讐心もある。」


だから……それすらも力に変えてやる。

憎しみの焔でこいつを倒す!!!


(良く見ておけ。これが使い方だ。)


「ナ、ナンダ?」


俺の身体が勝手にアステリオスから…ザッ…と少し距離を取る。


「ナニヲスルツモリダ?!」


身体が勝手に動く…灼断を両手で掴み振り上げる。


(さぁ…行くぞ?) 


地面に向けて、灼断を振り下ろしながら突き刺す。


「「焼き尽くせ!我が憤怒!憎悪の咆哮をその身に受けろ!」」


灼断の声と重ねて俺の口からも発動の言葉が紡がれる。

言葉の後…地面に刺した刀身から焔が走り、アステリオスの元に辿り着くのと同時に漆黒の炎がアステリオスを飲み込んだ。


「ガアアアアアァァァァァァァ!!!!!」


俺はそのまま、全身を焼き尽くす焔に苦しみの叫びを上げながら膝を付くのを見届けた。


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SIDE 幸月


勝った!!柊羽くんが勝った!!!剣との会話だとは思うけど、話しながら戦っていると思ったら、灼断の大技、真っ黒な炎が刀身から走りそのままアステリオスを飲み込んだ。


「憎しみ、怒りの炎…怖い…でも、何故か綺麗だと感じてしまう……」


それはきっと、柊羽くんが自分でも認めた想いから放たれたものだから…だからこそ……


「強いなぁ……柊羽くんは本当に強いよ……」


自分の中の悪感情を認める事はとても難しいと私は思う。


怒り、憎しみ、妬み、嫉み、他者に対する悪感情はとても強くて醜い感情だと、私は思う。

其れ等を認め、自分の力にする……飲まれずに自分の力にする事が出来る人は本当に強いと思う。


「眩しいよ…柊羽くん。」


…………………………………………………………

SIDE 優理


流石!でも、何か嫌な予感がする……

私の側に突き刺さった大剣の柄を無意識に手に取った。

これは多分、あいつが持っていた剣だと思う。


「優理…?」


茉奈が不思議そうな顔をしながら私を見る。

私はそれには答えず…剣を構えた……


「ちょっ?!何したの?!」


残心が終わって幸月さんの所に戻ろうと背を向けた柊羽の背中に向かって音も無く立ち上がる特殊個体。


「させないよ。柊羽ちゃん……」


「優理…?」


私の口から勝手に言葉が出る。

柊羽をちゃん付けして呼んだ事なんて無いのに、勝手に出てきた。


「ごめんね。少しだけ身体借りるね。」


またしても私の考えとは違う言葉が勝手に溢れる。


「ゆ、優理……?」


「ふっっっ!!!」


ドンッ!と音を鳴らして地面を踏みしめ……柊羽と特殊個体の間に身体を滑り込ませ……勢いのまま柊羽を掴もうと振り上げていた腕を……


「救世主参上っ!!……なんちゃって!!」


普段の私なら絶対に言わない言葉を発しながら、切り飛ばす!!!


「強くなったね!柊羽ちゃん!!でも!消える前に背中を向けるのはミスポイントだぞっ!!」


「ぁっ…ぇぇ…?優理だよな…?」


「優理ちゃんって言うんだねっ!こんな可愛い子を側に置いて更にあっちの子と後ろの子って!将来はモテるだろうなぁ〜とは思ってたけど、ここまでなのは予想超えてるっ!」


「え……姉さん…?」


「うんっ!今は優理ちゃんの身体を借りてるだけっ!って、訳で……」


「先ずはアステリオスを倒す!茉奈!!幸月を頼む!!」


《ごめんね!少しだけ身体を貸して?代わりにこの剣の使い方を教えてあげるからねっ。》


「もうっ!後でちゃんと教えてくださいよ!!」


《はーいっ!それじゃ…剣姫と歌われた私のダンスを篤とご覧あれ!!》


…………………………………………………………

「ハヤク、コロセ。ショウブツイタ。ココカラ、ジガ、キエル。オレ、バケモノイヤダ。」


「柊羽ちゃん…私の踊り覚えてる?」


「勿論。忘れる訳無い。何時でも良いよ。早く、眠らせてやりたい。」


コクリと優理の見た目の姉さんが頷いて先に飛び出した。

俺も追随して…アステリオスを通り抜けた優理姉さんが、剣の一本を外して俺に向けて投げる。

俺は飛んできた剣を勢いのまま受け取って、俺と優理姉さんで前後から斬りつける。


「ガアアアアア!!」


「悪いけど、斬り刻むぜ!!」


アステリオスの身体に前後から左右に袈裟斬りに切り口が出来る。

そのまま、お互いに飛び上がるのと同時に入れ替わり、更に外した一本を俺は受け取る。

優理姉さんも更に外してお互いに二刀流で左右からクロス斬りで斬りつけ二人で踊る様に斬り裂きまくる。


「「ハァァァァ!!これでっ!!」」


受け取っていた剣を投げ付けアステリオスの身体に突き刺さる。

優理姉さんが剣を抜きながら斬り裂き、全ての剣を合わせて一本に戻した後、振り下ろしバッサリと斬った後に、距離を取った。


「柊羽ちゃん!!!」


「灼き尽くせ!灼断!!」


優理姉さんの合図に合わせて灼断を投擲、確りと身体の中心に突き刺したの確認後、俺の声を合図に灼熱の焔に姿を変えた灼断がアステリオスを焼き尽くした。


「終わったねっ!柊羽ちゃん!」


焼け落ちて崩れて行く姿を見ていた、そんな俺に近づいて来た優理姉さんの姿を確認し、主の居なくなった事で、形作られていた迷宮が崩れて行くのを、最後まで見届けた。


そして………俺は優理の身体を使っている姉さんに向き直った。

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