第19話 岸本茉奈

とあるダンジョン内に俺と茉奈のぶつかり合う音が響き渡る。


「やぁぁぁぁ!!」


茉奈の特攻を片手で持った村正で受け止め、がら空きの胴体に蹴りを叩き込む。


「うぐっ……くぅ…まだまだぁー!!」


ダン!と強く踏み込んで二刀を複雑に操りながら連撃を打ち出して来るのを、避けて、弾いて、刀で滑らせながら流してやり過ごす。


「ッ!くぅぅ……」


「ここまでだな。」


隙を付き顔面に剣先を当たるギリギリで止め訓練の停止を告げた。


「ありがとうございました!」


「うん。早く戻ろう。セーフエリアの近くで囲まれても対応出来るレベルの場所とは言え、何が起こるか分からないし。」


鞘に刀を納めて茉奈と歩きながら帰りの準備を始めながら会話する。


「今日も泊まるのか……?怒られないか?」


「大丈夫ー!お母さん出張で居ないからね!柊羽のご飯のお世話もしないとだし!」


「とは言え……もうすぐ一週間だぞ?流石に心配してるんじゃないか?」


「んー……無いかなぁ……全く帰ってない訳じゃ無いしそもそも一か月会わないとかもあるし?出張してるし?」


とは言えなぁ……


「てかお父さんは?家で一人か?寂しがってるんじゃない?」


俺の言葉に茉奈は黙り込んだ。

俺、何かおかしい事言ったかな?


「うん。柊羽くんになら良いかな……早く帰ろっ!話す事あるからさ。」


「お?おう…?分かった。」


俺の前を歩く茉奈の後ろを俺は着いて行く。


「今日は~残り物でパパっとで良い?」


「え?あぁ、うん。作ってくれるだけで嬉しいし文句なんて言わないよ。」


「はーいっ!じゃーいそごっ!」


茉奈からの相談、それは自分を鍛えて欲しいと言う要望だった。

このままじゃ皆にも俺にも置いて行かれる、それは嫌だから遠慮無しに鍛えて欲しいと俺にお願いしてきた。

俺はそれを承諾したけど、まさかの泊まり込み……学校が終わったら一度、茉奈は家に帰り直ぐに俺と合流、ダンジョン内で真剣を使った鍛錬、一緒に俺の家に帰って、ご飯食べてお風呂に入って、そのまま泊まって学校行って……の繰り返しがこの一週間続いている。

そんな茉奈に俺は心配事を伝え気になる事を伝えたら……俺の前から隣に来て、俺と手を繋いで歩く茉奈の顔は何処か何かを覚悟してる顔だった。


…………………………………………………………

コトリと、俺の前にコーヒーの入ったマグカップが置かれ、俺の正面に茉奈が座る。


「えっと、それじゃ…私もね?簡単に言うと柊羽くんと同じなんだ。」


「同じ?」


「うん。私のお父さんはもう亡くなってるの。」


「ぇ……ごめん……知らなかったとは言え俺……」


「んーんっ。お父さんってね?すっごいヒーラーだったんだ。」


何処か懐かしむように茉奈は話し始めた。


「余り家には居なかったけど、私達の為に頑張ってくれて居て自慢のお父さんだった。」


静かに、口を挟まずに俺は茉奈の話を聞く。


「国からの依頼で発展途上国とか後進国とかに行って魔物の被害にあった人達を助けたり怪我を治したりして活躍していたの。」


「立派な人だな……」


「本当に自慢のお父さん。だけどさ……そう言う国って治安悪いじゃん?お父さんもそれは分かって居たんだけど、だからって全部防げる訳じゃ無い。何度も危険な目にあったりもしたんだって。」


盗まれるだけならまだ良いけど強盗、強姦、犯罪のオンパレード……


「でも、それは……そうしないと日々を生きていけ無い様な国が悪いだけで……」


「うん。でも、私はそんなお父さんが誇りで大好きだった。けどさ……治癒をしてた時に現地の子供がね?子供って言うのも語弊はあるかもだけど、兎に角、お父さんは襲われて殺された……」


現地あるあるだな。日本人に限らずだけど……


「その子供は?茉奈は恨んでるのか?」


「昔はね。今は何とも思ってないしもう居ないらしいからね。お父さんを襲った後に直ぐに殺されたんだって、その子の家族も全員ね。」


恨みたくても恨む対象が居ないか……


「そんな訳で私も柊羽くんと一緒って言うと語弊はあるけど片親なんだ。今なら分かるけど、お母さんも辛かったんだろうね。その頃から良く違う男の人がね……」


あぁ……それは……


「思春期迎えた子供にはきっついよね……だからさぁ、私はそんなお母さんと一緒にはなりたく無くて必死に努力して探索者になった。容姿も身体も他の人より優れてたし観月達と優理と一緒に行動していたら何時の間にか人気まで出て来て、沢山の人が寄って来る様になった。」


「まぁ……分からなくも無いけど。茉奈は可愛いし胸も大きいしで男は望まなくても寄って来るだろうなぁ。」


「そうそう……せめて顔見て話せ!って言いたくなるくらい殆ど私のおっぱい見て話して来るし……」


「あ、あはは……それはまぁ……」


男なんてどうしても……ねぇ……?


「そんな中で私は柊羽くんに出会った。柊羽くんって不思議だよね?」


「だよね?って言われてもな……」


「不思議だよ。私達を助けたのにお礼も求めない、この一週間も手を出して来ない。」


「いやそれは……」


「私ね?柊羽くんの事好きだよ。手を出してくれて良かったし、期待もしてたのにさ。そんなに私って魅力無い?」


「そんな訳無いだろう。茉奈は魅力しか無いよ。それに俺を好きってのも唯のつり橋効果だっての。」


茉奈みたいな可愛くて綺麗な子に好きだと言われたら流石に俺も照れるし、顔が赤くなる。


「最初は、切っ掛けはつり橋効果だったかも知れないけどもう違うよ。一緒に過ごして行く内に私は柊羽くんに惹かれて恋をした。だからこの気持ちに嘘は無い。」


茉奈が俺に近づいて、俺の首に手を回し俺の上に座りながら抱き着いてくる。


「しよ?私が居るから柊羽くんも自分でしてないでしょ?」


真っ赤な顔で俺を見詰める茉奈を俺はしっかりと見詰めながらどうすれば良いのか……受け入れても拒否しても茉奈を傷付ける気がする。


「そんなに考えなくて大丈夫だよ?私は私を好きになって貰う為に頑張るだけだし、今は抜け駆けしてる様なものだから彼女にしてなんて言わないよ?」


「いや……このまま茉奈を抱いて付き合わないって訳には行かないだろう……流石にそれは不誠実だ。」


「うん。そう言ってくれるだけで私は嬉しいよ。柊羽くんが誰を選ぶのか、私達の誰も選ばないのかそれは分からないけど私は、自分が出来る事で柊羽くんを落としにかかるんですっ。」


茉奈を優しく抱きしめる……そのまま俺は……


「茉奈の気持ちは分かった……でも、抱くのは流石に……経験も……無いしな……」


「ふふっ。大丈夫!私も無い!初めて同士がんばろ?」


「がんばろ?じゃ無いだろう……でも、俺で良いのか?茉奈も初めてなんだろ?」


「柊羽くんが良い……柊羽くんじゃ無きゃやだっ……ね?」


震えてる……茉奈も初めてが怖くて震えてるのに俺を求めてくれてる。

そんなに勇気を出してるんだから俺も……答えないとだよな?


「茉奈……ありがとう。今は茉奈を沢山見せてくれ。」


茉奈の唇にキスをして俺と、茉奈はお互いの存在を確かめる様に……お互いの温もりを確かめ合った。


…………………………………………………………

「えへへっ。温かいねぇ~。」


俺の前、股の間に座った茉奈が俺にそんな事を言ってくる。

色々と終わった後に俺と茉奈は一緒にお風呂に入って湯船でくっ付いてる。


「うん……その……なんだ……おっぱいって本当に浮くんだな……」


「そこ?!さっきまで一杯触ってたじゃんー。てか柊羽くんって凄いエッチでこっちも強いんだねぇ。」


「う、うるさいな。茉奈だってそこまで?!って位求めてきたじゃん!」


「うっ///だって……本当に好きな人に抱かれるが嬉しくて幸せだったからっ///」


「お母さんもきっとさ、寂しいのも勿論あったんだろうけどちゃんと恋愛してたんじゃないかな?」


「どうだろねぇ~……でも、好きな人とって気持ちは理解出来たかな。男の人の力なんて借りなくても良い様にって思っていたんだけど、柊羽くんに会って変えられちゃった。」


良い変化なのかなぁ……俺がちゃんと茉奈だけに答えられたらもっと良かったんだけど、でも……身体を重ねたからか前よりも茉奈が愛しいと思う気持ちだけは間違いは無いかな。


「なぁ……茉奈。今直ぐじゃ無くて良いけどちゃんとお母さんと話した方が良いと思う。俺だからこそ言えるけど伝えられる内に伝えないと後悔する事って沢山あるんだ。」


「……うん。分かるよ、柊羽くんに言われたら納得しか出来ないよ。でも……怖いかな、感情のままに酷い事も言いそうだもん……」


「俺が一緒に行くよ。その時は俺が一緒に行って茉奈の隣に立ってやる。」


「柊羽くん……うんっ!ありがとうっ!」


俺の方を向いて綺麗な笑顔で俺にキスしてくる。

裸でお風呂でそんな事されたらさ……


「あっ///えっちっ///まだ足りないの?」


「こんな状況でキスなんてするから……茉奈にそんな事されたら元気にもなるって……」


「私のせいかぁ~……じゃ~、責任取らないと……ね?///」


俺のを掴んで自分で自分のに……まだまだ沢山の汗をかきそうだ……


…………………………………………………………

「はぁぁぁ!気持ちよかったぁぁぁ!」


俺は少し……いや、大分疲れたんだが……痩せたか?もしかして……あ、そうだ……


「茉奈~、ちょっと着いて来てくれないかな?」


「あ、うん!良いけどどうしたの?」


俺は不思議そうな顔をして居る茉奈を連れて仏間へと行く。

仏壇の中、隠し棚から俺は二振りの剣を取り出した。


「その剣は……?凄い綺麗……」


「この剣は、親父の形見なんだ。」


茉奈は俺の手の中の剣に見惚れている、一本は海の様な蒼い剣、一本はマグマの様な深紅の剣。


「この一週間で茉奈は凄く強くなったと感じてるし茉奈の持ってる剣もそろそろ限界になって来てると思う。」


「う、うん……そろそろ変え時かなっては思ってるけど?」


「茉奈、今すぐに俺は茉奈の気持ちに答える事は出来ないけど、前よりも茉奈を愛しいと思う気持ちは間違いなくあるんだ。茉奈を抱いたからとかは抜きにしてな。あんまり説得力無いけど……」


「大丈夫。柊羽くんの気持ちは分かってるからっ。」


「ありがとう。だからさ、代わりと言う訳じゃ無いけど、茉奈にこの剣を使って欲しい。」


「え?!いやいやいや!流石にそれは無理だって!柊羽くんのお父さんの形見なんでしょ?!受け取れないよ!!!」


「この剣の銘は紅月あかつき蒼月あおつきって言う。俺には出来ないけど魔力を込めるとそれぞれが属性を発現させる事が出来る。茉奈に使って欲しい。」


茉奈の手に二本を握らせる。

茉奈は恐る恐る二刀を持って俺を不安そうな顔で見詰める。


「形見ではあるけど死蔵するのも良く無いし茉奈に使って貰うなら親父も喜ぶと思うんだ。だから使って貰えないかな?」


「良いの……?こんな、こんな凄い剣……私なんかがこんな……」


「茉奈に任せたい。」


「重たい…物凄く重たい責任だね……」


「うん。重たいとは思うけど茉奈にしか頼む事は出来ないと思ったんだ。」


茉奈は二刀をじっ……と見詰めた後、覚悟を決めた様にしっかりと剣を持って俺を見る。


「任せて。私がちゃんと受け継ぐ。そして……お義父さんの代わりに柊羽くんを守って見せる。」


「俺も茉奈を守る。一緒に戦う為に受け取ってくれ。」


「改めて宜しくね!柊羽くん!この剣に恥じない様に私は強くなる!託してくれた柊羽くんの想いに答える様にっ!」


茉奈は今まで見た中で一番綺麗な笑顔で俺の我が儘に答えてくれたから、俺ももっと真剣に向けられている想いに向き合わないといけないと、茉奈だけじゃなく他の皆の想いにも向き合うと心に決めた。

でも、なんだろ?お父さんって言った時のニュアンスが少し違った気がするんだが……まぁ、良いか。


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