第14話 激情

SIDE 幸月


「さって…やりますか!」


セーフエリアに到着して直ぐに助け出した女性達の身体に回っている毒を除去する為、私は懐から一本の短刀を取り出す。


「え…?短刀何て持ち出してどうするの?」


気絶した一人、柊羽くんの兄貴分の恋人さんに向けて短刀を向ける。


「ちょ?!ちょっと?!幸月ちゃん!?」


まぁ、この流れならこのまま始末すると思うよね。

慌ててる声を無視して、彩花さんの胸…心臓へ、真っ直ぐに短刀を突き立てる。


「ひっ!!彩花!!」


「力を示して…布都御魂っ!」


「ちょっと!何をして……ぇ…」


言葉の後、刀身が光り彩花さんの身体を包んで直ぐに消える。


「ふぅ…これで一人目は大丈夫。後は貴女達ね。」


「彩花の顔色が良くなってる…汗も止まってるし呼吸も落ち着いてる……あっ!!傷は?!」


「無い…何で?確かに心臓に突き立てたのに……」


身体に鞭打って彩花さんに近づいて状態を確かめてる沙羅さんと里香さん。

そんな二人を見ながら柊羽くんは私に近づいてきて心配そうな顔で声を掛けてくる。


「幸月さん、大丈夫?霊剣に魔力?神力?を注ぎ込んだんだよな?」


「平気だよ。強い毒じゃ無いしこれくらいは慣れてるからね。それよりも残りの二人もやっちゃうね。」


心配してくれるのは嬉しい。

だから私は何も心配はいらないと笑顔で柊羽くんに答えて里香さんと沙羅さんに近づいた。


「これで分かったと思うけど二人にも施しても良いですか?」


「ほぇ…あぁ!うん!お願いします!怖いけど……」


「う、うん…怖いけどこのままは困るからお願いします……」


まぁ…刺さないと駄目だしねぇ〜…改めて思うけど怖いよねこれ……


目をぎゅっと閉じて我慢してるお姉さん達を見ながら私はサクサクと治療?を施した。


…………………………………………………………

「これで、一安心か…後は彩花さんが目を覚ましたら帰還して終わりかな?」


「そうだねぇ、今回は柊羽くんのお陰で簡単に済んで良かった。」


「別に俺が居なくても問題なく終われただろこれ。」


「そうかもだけど、それはそれ!今回は柊羽くんのお陰で上手く早く終わった!のは間違い無いでしょ!」


そんなもんかな〜?茉奈の言う事も分かるのは分かるけど…

つか前の俺なら三人を置いて行ったろうに……まさか追いつけるスピードで抑えるとはね…皆に対しての認識変わった証拠か。


「はい、どうぞ!お疲れ様、簡単なので悪いけどコーヒーだよ。」


「ありがと、優理。それにしても本当に言い伝えの力があって、それを発動させる事が出来るなんてな。」


幸月さんが所持し使っていたには味方の軍勢を毒気から覚醒させたという伝説がある。

 つまりだ…この霊剣は通常使うときは武器として、を流して使う時は体内の毒や病など内面の治癒にも使える癒しの力を持つ刀って事になる。


「私も最初の時は驚いたよ、こんなの本当にあるんだ!って。」


「それね!言い伝えとか神話って盛った話とか子供用の冒険譚とか躾の為の教え程度だと思ってたもん。」


二人の意見に俺も同意。神代かみよの物なら兎も角、割と近代の物まで…1000年そこそこのにもあったりするからな。


「って事は、雷切らいきりとか小狐丸こぎつねまるとかも本当って事か?」


「雷切って、雷を斬ったって刀だっけ?小狐丸ってのは?」


雷切は有名だから興味無くても知ってるか。


「小狐丸ってのは、雷の軌道を変えたって逸話のある刀だよ。」


「ほぇ〜…そんなのもあるんだねぇ〜…」


ふんふんと、茉奈も優理も頷きながら聞いてるけど…これは興味無いやつだな……男同士なら盛り上がると思うけどさ…盛り上がるよね?誰に聞いてんだ俺……


「つーか、短刀に加工してるのに効果出るんだな。概念的な物だから関係ないとか?」


「多分そうだよ。刀だと重いし大きいしで邪魔だったから加工したんだけど効果は変わらなかったもの。」


幸月さんは、治療が終わったらしく俺達に近づいて来ながら聞こえていた話に答えてくれる。


「お疲れ様ぁ〜、大丈夫そう?」


「うんっ!後の二人も毒素は消えたし少し休めば問題ないよ。」


「良かった。幸月さんの力だから信じては居たけど、それでもやっぱりな部分はあるしね、何度も見てても。」


「優理ちゃんは酷いなぁ〜、何度も助けてるのにーっ。」


「ごめんなさーいっ!いつも感謝してまーすっ!!」


もうっ!と戯れ合う二人……年齢差、と言っても一つだけどあるのにお互いに遠慮無く過ごせるのは良い関係だよな、俺と信志みたいに。


「ん…んぅ……ぁれ…?」


「「彩花っ!!」」


優理と幸月の声に反応した訳では無いだろうけど、彩花さんが意識を取り戻したみたいだな。


「ここは?私は確か…沙羅?里香?良かった…無事だったんだ……」


「シュウくん達のお陰でね!彩花も大丈夫?苦しいとか痛いとかは無い?」


「う、うん。大丈夫みたい。」


よっと…って感じで少し勢いを付けて起き上がって俺達の方に歩いてくる。

それを見守りながらもう大丈夫そうだと、一安心。信志の恋人だから助けられて良かった。


「改めて、ありがとうございます。シュウくんと幸月さん、優理さん、茉奈さんのお陰で助かりました。」


「私からもありがとう。来てくれなきゃどう成っていたか…」


「本当に助かりました。もう駄目だと思って居たから…ありがとうね。」


「信志の恋人だしもしかしたらこのまま?って可能性もある訳で…そうなると、俺もちょいちょい会う事になると思うので、そんな可能性のある人が…ってのは流石に目覚めが悪いのでお気になさらず……」


「んぅ~…?このままの可能性…?あっ///いやでも、それは…ねぇ?///」


「兎に角、帰りましょう!このエリアはポータルも無いセーフエリアみたいだし、信志も待ってるでしょうし。」


先だって俺は歩き出す、それに伴って他のメンツも着いて来る様に歩き出した。


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「ねぇ…おかしくない?」


「だよね…こんなに走った記憶無いんだけど…」


「移動を開始して既に1時間だよ、魔物が出て来るのはダンジョンだからとして、まぁ…処理しながら進んでると言ってもシュウくんがサクサク倒してるから時間的なロスはほぼ無いのに…」


「ここって来た事無いんですけど、こんなに入り組んでる所です?てか、ミノタウロスとか出る様なダンジョンなんですか?」


「いや…出ないよ。ここはもっと下まで行った事もあるけどあんなん居た記憶は無い。」


セーフエリアから既に1時間は移動してるし、幾ら適当に走って逃げて居たとしてもとっくに戻れてる筈なんだが…それに気にせずにサクっと倒したけどミノタウロス何てここでは見た事は無い。


「ねぇ…柊羽。もしかして進化したとか?」


「それってダンジョンが進化するって話のやつ?優理。」


「うん。少し前に発表あったじゃん?放置されてると中の魔物が強くなったり内部構造が変わったりする事が分かったってさ。」


「蟲毒……」


「それって柊羽くんが言ってた?幸月。」


「えぇ、そう。蟲毒に似てるって話を聞いて神代でも情報を集めていたんだけど、確かにそう言う面があるって分かったの、今の現状とミノタウロス何てのが出る様になったって話で、優理ちゃんの言った進化って言うのが引っかかって…」


ミノタウロスの神話って何だっけ?迷宮の主?王?…って事はミノタウロスが仮に唯の雑魚だったら、アレ等を纏めてる奴が居る…?あれ?でも…ミノタウロスってのは本来は俗称で正確には…


「それって…ダンジョンのレベルが上がったって事?ヤバいじゃん、早く出ないと!」


「GodDessとシュウくんならあの程度は問題無いんだろうけど…私達は…」


俺が考え事をしてる間に話が進んでいた…確かに彼女達だったら対応は出来ないだろうな…これは幸月さんに頼るしか無いかな?


「イリュージョンステップ…ポータルを見付けて…」


そういやこれって何でイリュージョンステップって言ってるんだろう?


「無理はしないでくれ幸月さん。処で…何でイリュージョンステップって名前なんだ?」


「この程度なら何の代償も無いから大丈夫だよぉ。えっとね、イリュージョンは幻影、ステップは色々な意味があるよね?」


ステップ…足取り段階を熟すとかそう言う意味があるのは分かる。

頷く俺を確認した後に続きを話し始める幸月さん。


「最初に柊羽君に纏わりついて動いたのは彩花さんの情報を見る為でその情報から足取り…足跡とかを探したから飛んで行ったの。」


そこはまぁ…予想通りだな。


「それで、今はこのフロア全体を調べる為に飛ばしたの、まぁ…応用みたいなものだね。」


「使い方次第か…それは分かるけども…」


ドクン…ドクン…


「あっちみたい!少し急ぎましょ!」


「そだね!何か嫌な感じがするし…」


ドクン…ドクン…ドクン…


さっきから心臓が激しく鼓動している…何でだ…こんな感じは初めてだ……


「あっ!あそこにポータルある!これで帰れるー!!」


ドクン…里香さんが走り出す…それを追い掛けて、沙羅さんが走り出す…ドクン…ドクン…その光景を自分は見ているだけのつもりだった。


「シネ。」


一言…たった一言の後に突如現れた角がある大男が巨大な斧を振り下ろす…それを、俺は無意識に動いた身体で駆け付け即座にの剣で受け止める。

だけど……


「がぁぁ!」


「「「柊羽くん!!!」」」、「柊羽っ!?」


ズドン!と音を立てて地面にめり込んだ斧は俺の右手を簡単に切り落とし、一瞬遅れて肩口からは血がブシャャャャ!と吹き出した。


「オマエアノトキノ……ジャマダ!」


あの時って何だよ!と相手を見上げると背中には見覚えのある大剣…


「それは、まさか…」


ニヤァと俺を見て嗤う魔物……覚えてる、記憶にある…それは…!!!それは!!!!!


「ぶち殺す!!!!来い!!!灼断!!!」


俺の左手に灼断が現れ俺は一気に灼断を開放するのと同時に焔を纏った灼断を叩きつけた。


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SIDE 幸月


「今の内に皆さんは逃げてください。」


「で、でも!!!」


「茉奈、優理、3人を連れて脱出して。私は柊羽を援護する。」


敬称は無しで命令として二人に告げる。

柊羽は…激しい感情を爆発させながら、あの普通に顔のあるミノタウロスに灼断を叩きつけてる…だけど、片腕を切り落とされてるし急いで止血だけでもしないと死んでしまう、直ぐに柊羽が離れてるのを良い事に切り落とされた腕も回収して燃えない様に自分の身体でぎゅっと抱きしめる。


「で、でも!私達のせいで!!私達も何か!!」


「邪魔なのよ!さっさと消えなさい!足手纏いって事も分からないの!?」


私の無遠慮な言い方に3人はビックリした顔で目も口も見開いてるけど…知った事じゃ無い。


「幸月さん、柊羽をお願い!私達も直ぐに戻るから!」


「えぇ!早く行きなさい!柊羽に気が逸れて居る内に!」


優理と茉奈の二人が片手に一人ずつ二人で残りの一人を引っ張りながらポータルまで引きずって行ったのを見届け、前を向く。


「そいつを返せぇぇぇぇぇ!!!焼き斬れ!灼断!!!」


「柊羽くん…何であんな…」


「幸月さん!後でね!」


「絶対に柊羽を連れ戻して!!!」


「任せなさい!早く行って!」


5人がポータルで転送されてダンジョンから消えた…それと同時に私の直ぐ横にドゴンッ!と音を立てて吹き飛ばされた柊羽が叩きつけられた。


「オワリダ。」


ブォン!と横薙ぎで私と柊羽を纏めて斬り潰す大斧が私の目の前に迫ったのだった。


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