第8話 病院にて

「ん…ここは…?」


目を覚ました俺の視界に長い黒髪が入ってくる。

俺の寝ているベッドに突っ伏す様に寝ているその女の子は…


「優理…?何で?」


あぁ…ここは病院か…そう言えば気を失って倒れたんだったな。

念の為なのか俺の身体には包帯が巻かれて居て見た目だけなら痛々しい見た目になってる。


「そういや、観月さんは無事なのか?」


「んぅ……あれ…寝ちゃってた…」


「おはよう。着いててくれたんだ?ありがとな。」


「柊羽…?目が覚めたの?!」


「あぁ、起きたよ。どれくらい寝てた?」


「3日!3日だよ!皆がどんな気持ちだったと思ってるの!!!」


「ごめん、それにありがとう。包帯だらけなんだけどもしかして治らなかった?」


「んーん。全部綺麗に治ってるよ。包帯は念の為って感じ。お医者様、呼んで来るね。」


「ありがとな。着いててくれて…」


「コメント見て無いの?付き添うって言ったでしょ?」


「覚えてるよ。だからこそありがとな。」


ふりふりと笑顔で手を振って部屋から出て行った優理を見送って側の棚に置いてあったスマホを手に取る。


「うわ…通知ヤバいわ…えっと…」


沢山の人からの心配の声、放送の感想、勿論だけど、懲りずに焼け死ねば良かったって声も沢山だ。


「まぁ…観月さんに支えられて最後出たからなぁ…まぁ、ゴミ処理が進むだけか。てか、俺が焼け死んでたら観月さんも死ぬっての分かってないだろうなぁ……あっ…刀どうしよう…ってか報酬。」


最後の一撃で使っていた刀も一緒に砕け散ったのは確認してる、それに何より刃も完全に溶けて丸くなっていたしもう直しようの無い状態だった。


コンコン…と扉をノックする音が響く。

俺は、それに応えると直ぐに医師と看護師、その後ろから呼びに行った優理と…観月が一緒に入って来た。


「柊羽くん…目が覚めて良かった…」


「心配かけたよな?ごめん、観月さん。」


「むぅ…何故さん付けになってるんですか?中では呼び捨てだったでは無いですか。」


「あん時は戦闘中だったし危ないところだったからな。」


「では、これからは観月と呼び捨てで呼んでください。優理さんと茉奈さんの事も呼んでますし構いませんよね?」


医師と看護師から色々聞かれたり調べられたりしながらも俺にそんな事を言って来る観月に気圧されながらも俺は頷く…


その後、俺から包帯等を外して一晩問題無ければ直ぐにでも退院して構わないと言って退出して行った。


「それで…あの後はどうなったんだ?」


「柊羽くんが意識を失った後、何とか転送ポートまで柊羽くんを運びまして先にロビーに転送しました。」


「沢山の人が待機してる所にいきなりだったから驚いたよ。」


「私も焦って居たんです…何が何でも柊羽くんを助けたくて…」


「まぁ、そのお陰で柊羽は間に合ったんだけどね。もうあれだよ?ジャバジャバポーションぶっかけて、治癒術師達が治癒術をかけて何とかだったよ…それくらい酷い火傷と、筋断裂だった。」


「そうか…ありがとう。俺を助けてくれた人達にも何かお礼をしたいけど…」


「皆さん、必要無いそうですよ?それよりも元気な姿を見せて欲しいとおっしゃってました。」


と、言われてもな……


「柊羽。助けてくれた人達は、別に見返りを求めた訳じゃ無い。柊羽が精一杯生きてるのを皆が知ってる。柊羽のその姿は、沢山の人に勇気を与えてるの。」


「ですから、柊羽くんは退院した後にでも生放送でお伝えすれば十分なんですよ?それに、今回の深層ボスの討伐で目赤ダンジョンの深淵への扉が開かれました。今まで開いて居なかった場所がです。」


あそこな…俺も一人で倒しきれなくて、深淵に行けなかったし今回は観月さん…観月のバフのお陰で感覚が優れていたのもあって大剣が本体だと気付けたから倒せたんだよな。


「そう言えば大手ギルドが挑むって宣伝してたけどさぁ…漁夫の利って感じで情けないよね。」


「まぁまぁ、その辺はお互い様な所もありますし気にしても仕方ないかと…モヤっとはしますが…」


「別に攻略できるなら構わないさ。ところで報酬は?」


「あぁ、それなら神代家で保管していますし、私達向けの刀と弓でした。」


「そっか。それなら刀を貰っても良いか?駄目になったしさ。」


「勿論です。弓も構いませんよ?私は見ていただけ…と言いますか足を引っ張ってますし……」


「道中があれだけ楽だったのは観月のバフのお陰だから観月も受け取って。」


「分かりました。ところで何故あの時、大剣が本体だと分かったんですか?」


「それそれっ!何で分かったの?私は核が移動してるんだと思ってた。」


「それは、あいつのスピードや対応力なら俺の夢幻だってある程度は何とか出来た筈なんだ。」


だけど、夢幻を全て身体で受けて、大剣には当たらないようにしていた。


「言われてみれば確かに…目で追うのも無理な戦いでしたし柊羽くんのスピードとパワーに付いて来て居たのにあの夢幻と言う技は全て身体で受け止めて居ましたね。」


「成る程…観月は目の前で見てたんだもんね。説明されたら気付くって訳かぁ。」


「まぁ、そんな訳で本体は大剣の方なんじゃ無いかと思ったのさ。」


「分かりました。また、湧いたとしても次はもっと早く対応出来ますね。それと、使った技に関しては聞いても大丈夫ですか?」


「あぁ、えっと……先ず第一に現状だと最大で20連まで内包出来るんだ。リスクはあるけどね。」


そう、筋断裂しまくるのよね…しかもブチブチと千切れる音が聞こえるレベルで……


「もしかして、筋断裂してたのって……」


「そう、身体がまだ付いて来ないみたいで切れる切れる。」


ケラケラと笑いながら言う俺を観月は何処か辛そうに見て優理は……怒ってきた。


「ふざけんな!そんな事繰り返してたら!何時動けなくなるか分かんないじゃん!!何で自分を大切にしないの!?柊羽が動けなくなったり死んだりしたらしたら悲しむ人が居る事くらい分かんないの!?」


「優理……泣く事無いだろ…あくまでも最大で内包した時だけだしさ。」


「泣いて無いし!!もう使わないでよ?!どれだけ心配したと思ってるの!?どれだけ悲しんだと思ってるの?!」


目に涙を溜めながら俺に詰め寄る優理…心配してもらえて嬉しいし、申し訳無いけど……


「綺麗…」ボソッと漏れた俺の言葉に顔を真っ赤にして直ぐに離れて恨めしそうな目で俺を睨んできた。


「と、兎に角です。使うなとは言いません。ですが、出来るだけ使わないでください。私も気を失ったのを見て心臓が止まるかと思いましたから…」


「うん。気を付けはする。そう言えば…深層に突入する時に観月を抱っこしたのを見て何かを依頼したって言ってたの居たろ?それに関しては分かった?」


「あぁ…えっと、これだねー。」


優理が俺にスマホを見せてくる、そこには…依頼された探索者が警察に届け…探索者を先頭に警察がそいつの家に踏み込む動画と逮捕されて連行される動画が出て来た。


「本当にすいません…私達の責任ですね…」


「いやいや、それは無いって。獣だし本能しか無いんだよ。」


「獣って?」


「年齢一桁に欲情するのは病気、10代に欲情するのは動物としては正しい、成人に欲情するのは人類。」


「うん?どゆこと?」


「年齢が近いなら話は別だけど成人してるのが未成年に欲情して手を出すのは犯罪でしょ?男女共に。」


コクコクと頷く二人を尻目に俺は話を進める。


「良い歳した大人が未成年の尻を追いかけるって動物以外に何て言えばいいの?本能しか無いって事でしょ?」


「「あぁ…確かに…」」


「何の為に法律があるのって話よね。あぁ!でもそうなると…神代家主導で進めてる大掃除って動物の保護団体が虐待だって騒ぐかな?」


「まさかぁ…だとしたら同類って事じゃんっ。ナイナイ。」


「言った方が騒がれると思いますよ?」


アハハと、3人で笑いながら優理と観月は時間一杯まで居てくれて、お陰で寂しいとは感じる事は無かった。


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~次の日~


「お世話になりました。」


受け付けで退院の旨を告げて、病院を後にする。

今日は、茉奈が朝から来てくれてる。


「終わった?それなら帰ろっ!」


「うん…てか、学校は…?」


「さぼったっ!柊羽クンの迎えの方が大事だしねっ!てか、入院費用とかは?神代で払ったとか?」


「いや、ほら…成人まではそう言うの免除されてるし。」


「えええ!マ?!そう言うのもあるの?!」


「うん。大学行ってたりだと22までは食費とか衣服代とか趣味費とかそう言うの以外は免除されてる。だからこそ、ダンジョンの素材が1/10で残りの9割とかはそう言う費用とか探索者を出来ない人達とかの保護費とかに回ってるの。」


「そっかぁ…でも、考えたら当然だよね…氾濫とかで柊羽クンみたいになった人達は進学とかも出来なくなっちゃうもんね。」


「そう言う事、自分達が原因で孤児になった訳じゃ無いしなりたくてなった訳でも無い。親が居ない事で勉強出来なくて学歴が手に入らないじゃ折角、何か才能があっても埋もれてしまうからな。」


買い取り額だけ聞けば、確かに酷いなと、食い物にされてるって思うけど…その分、学費、家賃、治療費、光熱費、税金なんかは免除されている。


「柊羽クンみたいに下の素材持って来てくれる力の人も居る訳だし買い取り額とか本来は高額だもんね。」


「まぁ、上手く作ったと思うよ?とは言え、それにも文句言って来る奴らは居るんだけど、俺からすればお前も同じようになってから文句言え…としか言えないわ。」


親の愛…本来は受けるべきものを受ける事も出来ず、必死に生きるか、諦めるかの二択…そう言う経験が無い奴が文句を言うのは間違えてる。


「えいっ!」


「ま、茉奈?!何で腕絡めてくる?!てか胸!胸!」


「当ててるから良いの!今はもう、一人じゃ無いよ?私が居る、優理も居る、紗月さんも観月も紗月も…それに沢山の人が柊羽クンを応援してる!だから、一人じゃ無いよ!」


俺の腕に腕を絡めながら抱き着いてくる茉奈がそんな事を言って来る。


「今回だって、柊羽クンを助けようって沢山の人があの時、集まった。それが答えだよ!」


「…早めに放送してお礼、言わないとな…」


「うんうん!そうしなさいっ!って事で、帰ろー!」


「そうだなぁ~…先ずは帰らないとな。」


片腕に茉奈を引っ提げて俺は自宅へと歩いて行く。


俺はもう一人じゃ無い…か…ありがとうな、茉奈。


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