第25話 神代紗月
くっそがぁ!おい!てめーら!早く俺を助けろ!
俺達に着いて来てる回収部隊に大声で声をかけるが、紗月に潰された喉からは声が出てこない。
早くしろって!死んじまうだろ!!
痛みを我慢して俺は怒鳴りつけるのに、声も出ないから、誰も動こうとしない。
早くしないと本当に魔物が寄って来る!死んじまうだろうが!!
ザッ、ザッ、ザッと、土を踏みしめる音が聞こえてくる。
やっと現れやがったか!!遅いんだよ!ゴミ共が!役立たずしか居ねぇな!
「やれやれ……息遣いだけで煩いと言うのも才能ですかね?差し詰め、文句と助けを求めてるって所でしょうけど、私達の仕事の範囲外の事を言われても困ります。連れ出して欲しいなら報酬を提示して頂かないと。」
は……はぁ?!この俺様を救えるんだぞ?!名誉だろが!!仕事の範囲外とか意味の分からない事言ってねーで助けろや!!
「ふぅ……こひゅこひゅ聞こえるだけで何を言ってるのか分からんが……助けを求めている事だけは分かる。だが……それが人に助けを求める態度ですか?ご自身の立場を理解して無い様ですね。」
こ、こいつらは何を言ってやがるんだ?!守護者の家系の俺を助けられるんだから最高の名誉だろうが!!
クソがッ!俺を助けたらGodDessを好きに遊ばせてやる!巴菜もだ!紗月は俺が楽しんだら好きにして良い!だから助けろ!!
「お前達!このまま撤収するぞ!紗月様達から依頼はここまでだ!即時戻り報告する。急げ!」
お、おいっ?!俺は?!おい!!無視するな!!あいつらの身体を好きにさせてやるって言ってるだろ!!
俺を冷え切った目で見下ろす回収部隊の隊長を睨み付けてるにも関わらず何も反応をしめしやがらねぇ!
「私の息子は、お前からの執拗なイジメで自殺した。」
「私の息子もだ。」
は?だから何だよ?俺は何をしても許されるんだよ!そもそもにしてイジメ程度で自殺する程度の雑魚なんて居なくても一緒だろうが!
「私の娘は貴様にレイプされて心を病んだ。」
「私の娘は貴様にレイプされて首を吊った。」
だーかーらー!それが何だってんだよ!弱い奴が悪いんだろが!!俺の責任にしてんじゃねーよ!
「今回は貴様の番だ。貴様はここで死ぬ。魔物に食われてな。」
は?ふざけた事言ってんじゃねぇ!てめーら!ここを出たら覚えておけよ!って、おい!待てよ!置いて行くな!
「あぁ、安心してくれ。貴様が柊羽殿を殺そうと不意を突いて奥義を当て深層に押し込み、紗月様達にやり返され、気を失って居る間に、助ける暇も無く食われたと報告しておく。」
待ってくれよ……本当に置いて行くのか?死んじまうじゃねーか!
「貴様はここで死ね。神代家は我々を救ってくださった。そしてそんな神代3姉妹を救った柊羽殿の為なら、我々は喜んで泥を被る。」
ずる……ずる……と俺も周りから沢山の気配が近付いてくる音が聞こえて来る。
不味い……本当に死ぬ……一人じゃ動けない俺じゃ食われて死ぬ……嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない!
た、助けて!助けてよぉ!
「貴様がどれだけ助けを求めても私は何もせん。私の息子がそう言った時、貴様は何をした?」
「私の娘がそう言った時、貴様は何をした?」
グルルル……と鳴き声が聞こえて来た、直ぐ側で今にも喰おうと俺を狙う気配がしてる。
「今までのツケが回ってきたんだ、玄岩順平。では、撤収するぞ!あぁ……貴様の刀だけは回収部隊として回収してやる。」
待って……待ってよぉ……いやだぁぁぁ!
ぐちゃぁ!ぐしゃぁ!と俺の身体に噛み付いてお互いに引っ張りながら引き千切ろうと魔物達が少しでも量を食おうと力一杯食い千切ろうとしてる。
「びょふゅ……はぎゃ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
甲高い声だけが最後に出て……フロア中に俺の悲鳴が響き渡り俺の生涯はここで尽きる……何で俺が……こんな……目……に……ぐじゃぁぁ!と最後に俺の耳に首に噛み付いた音が最後に聞こえた。
…………………………………………………………
「っもうっ!!かったいなぁ!!」
「一気にレベル上がり過ぎでしょ!!」
ギャリィィン!と剣でゴーレムの腕を弾き耳障りな音が辺りに響く。
「でも……今までと違って戦えてる!……ここだ!!」
ザンッ!と、私の合体剣がゴーレムの関節を綺麗に切り落とし、腕を切断する。
「ナイス!優理!私も!!」
ザシュ!と茉奈の剣がもう片方の腕を切り落とす。
「紗月!決めちゃえ!」
無言でゴーレムのコアを狙った紗月の槍が綺麗に貫いて、ガラガラと音を立ててゴーレムは倒れていった。
「やるぅ!紗月ちゃんも凄いねぇ!」
巴菜さんが私達の連携を見て褒めてくれるのが嬉しい。
柊羽のお姉さんの技と武器とあの夢の中での
そしてそれは………茉奈も同じみたいで、柊羽から受け継いだ
「置いていきますよ。お兄さんを早く見付けないと。」
倒した魔物に一瞥もくれず歩き出した紗月を私達も急いで追いかける。
「柊羽の事だから大丈夫だとは思うけど……」
「怪我してなきゃ良いな……」
うん、ほんとにそれ。柊羽だから大丈夫だとは思ってるけど万が一もあるしね。
「お兄さんが怪我なんてしてたら玄岩家ごと滅ぼしてやる。」
あ〜……これはちょっと不味いかも……紗月ってば制御出来なくなって来てるかも。
「早く行きましょう!あの人の強さなら大丈夫だとは思いますけど私達の危険もありますし……」
「散千雨。」
紗月がボソッと呟いて後ろから現れたゴーレムを穴だらけにして直ぐに倒してしまう。
「邪魔。私の邪魔をするな。」
「優理……これ不味くない?」
「う、うん。かなり呑まれてきてると思う。」
「急ごう。幸月さんも観月も居ないし怪我をさせないで止められるとしたら柊羽くんだけだと思う。」
柊羽なら、一撃の元に紗月を制圧出来ると思うのは私も同意見。
仮に、このまま暴走しても柊羽が居るか居ないかの差は大きい
「邪魔物は皆コロス……待っててねオニイさん。」
紗月の雰囲気に私達は引きながら走り出す紗月の後を追い掛けた。
…………………………………………………………
「と、言う訳で……」
紗月の意識を奪った後、追い付いてきた優理達と共にセーフティーエリアに移動して話を聞いていた。
どうやら俺はかなり奥まで流されたらしく、知らない内にセーフティーを通り過ぎて居たらしい。
「開放が不安定ってのは、呑まれるって意味だったか。」
幸月から話は聞いていたけど操りきれないって意味だったんだな。
「詳しく聞いてなかったけど確かにこれは危ないな。」
「うん。今までは一瞬とかで済んでいたからこんな事は無かったんだけど、今回は柊羽の事があったし、開放時間も長くなったからだと思う。」
「見たのも初めてだしね。どうしたら良いか分からなかったから柊羽くんのお陰で怪我も無く済んで良かった。」
「でもどう言うことだ?紗月の血は何か違うのか?こんなに戦いを求める様になるなんて戦神とか?観月も幸月も長く開放してても呑まれたりしなかったぞ?」
「それは……私が未熟だからです……その……ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました……」
俺達が話していると紗月が目を覚まし落ち込んだ顔で声をかけてきた。
「良かったぁ……目を覚まして、心配したよ。」
「ごめんね、紗月。負担かけちゃったね……」
「いえ!私の方こそ呑まれてしまって……」
「大丈夫なんだよね?紗月ちゃん。」
「はい。意識は確りしています。巴菜ちゃんもごめんね。」
本当に落ち込んでるな……明るい紗月が居なくなってしまってる。
俺はそんな紗月の頭に手をぽんっと乗せて綺麗な髪を撫でる。
「あの……おにいさん……?」
「ありがとな。俺の為に無茶をしてくれて。来てくれて本当に嬉しいよ。」
「そ、そんなっ!でも!私……私……玄岩を……」
紗月が何をしたのか、死ぬと分かっていてもそれでも腕を折り切り落とし足すらも壊し魔物が出る場所に放り投げて来た事。
だから、俺は……俯く紗月を優しく抱きしめた。
「ごめんな。俺の為に手を汚させた。そして、ありがとう。俺の為にそこまで怒ってくれて。紗月が、罪に問われるなら俺も一緒だ。」
紗月は静かに俺の胸の中で涙を流す。
そんな紗月の頭を撫でて居たら、優理も茉奈も巴菜ちゃんも紗月に寄り添い静かに待ち続けた。
とは言え……あいつのやった事を考えれば罪に問われる事も無いだろうけどね……仮に生きていたとしても、これだけ目撃者が居て回収部隊も撮影しながらなんだし言い逃れは出来ないし、させない。
部隊の奴等が裏切るならその時は……
紗月を慰めながら俺は、そう決めた。
…………………………………………………………
「さて……ここからどうする?」
「えっと……正直戻っても良いかなとは思ってるよ。」
「紗月の事もあるしここから先に進んでも進まなくても良いかなー。まぁ、深淵への道を開きたいなら付き合うけど。」
「間引きは済んでいますから依頼自体は完了と考えて問題無いです。深淵への道は出来ればですから。」
優理、茉奈、巴菜の3人はどちらでも良いと、紗月はどうかな?
「私は……先に進みたい。今のままじゃ私は弱いままで神代のお荷物のまま、それは嫌だ。」
「お荷物?」
俺の零した言葉に紗月はぽつぽつと語りだす。
「うん……観月姉さんも幸月姉さんも私の歳の時には今ほどでは無いけどもっと上手に力を扱えてた。私はそんな二人の姉さんが理想で私と二人みたいになるんだって思ってた。」
同じ神代だからな、簡単に成れるって思っても仕方無いだろな。
「でも実際は簡単に力に呑まれて長い時間の開放も出来なくて、目に映る相手を倒すだけの機械になってしまう。」
「紗月の開放は攻撃特化なのか?観月はバッファーで幸月はヒーラーとデバッファーで紗月がアタッカー?」
「そうです。代々、神代では其れ等のどれかが発現します。そして、他の家と協力して仕事にあたってます。」
「だけど、今代は3姉妹でそれぞれの役割を発現したから、基本的に神代だけで国の仕事にあたれていました。」
紗月の説明に付け加える様に巴菜ちゃんが補足する。
「その上、私と茉奈って言うタンクとブレイカー?アタッカー?が加わったから今まで出来ていたって事?」
「その通りです、優理ちゃん。でも、私はこのままじゃ駄目だって分かりました。身体だけじゃ無く力に呑まれない為にも心も強くならないといけない……だから……お願いします!私をこの先に連れて行ってください!お兄さんの……いえ!柊羽さんの強さを!戦いを!戦うと言う事の意味を!私に教えてください!」
何時もの雰囲気とは違い真摯な態度と強い意思を宿した目で俺を見る紗月。
「分かった。俺が何を教えられるか分からないけど先に進みたいなら着いて来れば良いさ。」
「決まりっ!それじゃさっさと終わらせて帰ろうー!」
「そだねぇ〜……疲れて来たもんね。」
「二人共なんだかんだでやる気ですよねぇ……GodDessの強さってこう言う所なんでしょうねきっと。」
「紗月。先に進むのは構わない。だけど、進むなら開放しろ。そして呑まれるな。それが条件だ。」
本当なら帰したい。
だけど、ここで帰したら紗月はここで止まる。
強くなりたいって思いは俺には痛いほど分かるから……見てるだけ、逃げるだけしか出来なかった自分が嫌で死にもの狂いで強くなったから、紗月の気持ちは良く分かる。
開放すれば寿命が縮むのは分かってるけど、幸月と観月よりも劣っているのは事実だから追い付きたいって気持ちも良く分かる。
だから……一旦、目を瞑る。
「開放したまま……?でも……私は……」
「観月も深層は開放していたんだから、紗月も開放して居ないと着いて来れないだろう?だから、開放したまま呑まれずに着いて来るなら構わない。どうする?」
「………。やりますっ!柊羽さんが居てくれる、優理ちゃんも茉奈ちゃんも巴菜ちゃんも居る。だから大丈夫です!扱ってみせます!」
俺は頷いて立ち上がる……俺に続いて優理も茉奈も巴菜も立ち上がる。
だから、俺は……
「行くぞ?紗月。」
紗月に向かって手を差し出すと、間髪入れずに紗月は俺の手を取って。
「はいっ!」
力一杯に応えた。
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