第21話 神代と篠崎

「ソードダンス……はぁぁぁぁぁ!!!」


優理からの連撃を捌いていく。

神代家の訓練場に俺と、優理の剣戟の音が響き渡っていた。


「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」


切り上げ、二刀を操り連撃を繰り返し、外した剣を投げて来たり姉さんの技を疎いとは言え再現していた。


「フッ!」


短い呼吸と共に優理の剣を弾き飛ばし首元に村正を突き付ける。


「むぅ……まだ通用しないかぁ〜……」


「まだ姉さんの模倣だからな。慣れていないのもあるし優理のソードダンスって言えるまで昇華しないとな。」


「うんっ。動きはどうだった?出来てたかな?」


「疎い部分もあるけど動けていたよ。だから頭と身体の動きが連動するまで使い続けてって所からかな。」


優理に指摘事項を伝えてると笑顔で「うんっ!頑張るっ!」と答えてくれる。


「はいはいー!それじゃ次は私ね!!連戦だけど行けるー?」


「行けるけど茉奈とは何時もやってるだろ?」


「良いじゃん!私もやりたいもん!ね?ね?」


「はいはい。そんじゃやりますかね!」


「えー!茉奈ちゃんズルいー!」


紗月の文句も何のその、茉奈は俺の受け渡した二刀を抜いて構えた。


「早いもの勝ちですー!それじゃ!いっくよー!!」


掛け声と共に茉奈は紅月、蒼月を構えて駆け出す。


「やぁ!はっ!」


キンッ!ギィンッ!茉奈の二刀による攻撃を片手だけで捌いて弾いて受け流して動かずにやり過ごしていく。


「このぉ!相変わらず硬いんだからもうっ!!絶対に動かしてやる!」


「茉奈の攻撃は軽すぎるんだ。速さはあるが軽すぎるから片手で対応出来てしまうのが問題だな。」


「パワーかぁ……確かに力不足は私も感じてるけど筋肉ムキムキはなぁ……」


「別に筋肉むっきむきにならんでも身体強化のレベルを上げるとか色々あるんじゃないか?」


「まー……分かるけどぉ……あんまり力強いの可愛くないじゃん?」


「可愛くないってっ。まぁ、任せるけどさ。」


「はーいっ。それじゃ次ね!少しだけど使える様になったんだよー!」


茉奈が飛び込んでくるのと同時に紅月、蒼月からそれぞれの属性の焔と水流が溢れ出す。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


まるで踊るように茉奈は剣を振り回しながら焔と水流を操り攻めてくる。


「凄いな!もうそんなに使える様になってるんだ!」


俺も負けじと払い、避けて、剣戟を合わせるが……流石に属性も一緒に襲って来るのを避けきるのは無理だ。


「くっそっ!やっぱり属性系とは相性悪いな俺!!!」


「これならどう!いくよぉ!」


茉奈が突然、2刀をぶつけた!?ジュワァァァ!と音がなって辺りを蒸気で包んだ。


「そうか!目くらまし!」


茉奈の姿が全く見えなくなり2刀への供給も切ったらしく焔も水流も見えなくなってる。


「見えないな……ならっ!」


音を、空気の流れを頼りにすれば良い。

さぁ!何処からでも来い!茉奈!


シュンッ!と風切り音が耳に届くのと同時に俺はそれを避ける。

蒸気が晴れるまで続ければ終わるが……この程度なら俺には通じないぞ?


「流石ぁ……この状況で私の攻撃を避けるなんてね!でも!これならどうかな!!!」


姿が見えない茉奈の声が俺に届く。

何をするつもりなのか楽しみだな!


シーンと音も無く静かな時間が過ぎる、数秒?数分?の時間が過ぎる。

さっきと同じく俺の耳には風切り音が届く……だけどさっきとは違い左右からそれぞれ剣が飛行する音で風切り音が俺の耳に届いた。


「まさか!投げたのか?!」


目を開けて飛んでくる剣を視認しながら対応を始める、右からは紅月、左から蒼月がそれぞれ焔と水流を纏いながら飛んで来た。


「手から離れても発動させるって随分と!」


右の紅月を村正で弾き、左の蒼月を身体ごとずらして避ける。

蒼月の水流に下手に触れると動きを阻害されるだけじゃなく流されて飲まれる可能性もあるからこっちは避けるしか無い。


「くっ!ここまで使える様になってるのは予想外だ!」


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「茉奈?!」


剣に意識を向けていた俺の意識外から茉奈が襲い掛かり拳に魔力を纏わせて一気に!!


「おぉぉぉぉ!!!」


村正から手を離し両手を組んで茉奈の攻撃を俺は受け止めるのと同時にズドンッ!と大きな音が響いた後に衝撃で蒸気の全てが晴れた。


…………………………………………………………

SIDE 幸月


「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!骨がミシミシ言ったぞ?!」


訓練場に柊羽くんの声が響くのを聞きながら私は近付いて行く。


「むっきぃぃぃぃ!!!これでも届かないの!?柊羽ずるい!」


柊羽くんが弾いて避けた剣を茉奈は回収した後に文句を言いながら柊羽くんに詰め寄ってる。


「ずるいって何さ!?くっそ焦ったし最後とかもう殺す気だったろ?!罅入ったんじゃねーかなこれ!!!」


紅月と蒼月……茉奈が柊羽くんから渡された柊羽くんのお父さんの遺産。

名前を聞いた時はまさかと思ったけど見て間違いないと確信した。


「そうだったんですね……私達と篠崎家は昔から……」


「ちょっと……やりすぎだよ茉奈。柊羽が怪我したらどうするのさ!」


「うっ……熱くなったのは認めるけど……はぃ、ごめんなさいっ!!!」


「いってぇぇ……不味くないかなこれ……」


「本当にやりすぎだよ茉奈ちゃん。」


「そうですよ。柊羽くんに怪我させてどうするんですか!!!」


観月も紗月も優理も茉奈に文句を言ってるのを見ながら私は力を開放して柊羽くんに怪我の治療を始めながら柊羽くんに抱き着いた。


「幸月?!いきなりどうした?!」


「ありがとう……ございます……貴方が、貴方のお父様が……」


「姉さん?どうしたの?」


「観月も紗月も幼かったから記憶には残ってないかもね。」


「幼いって!たいして変わらないじゃん!幸月姉!」


「俺の父さんに何かあるのか?」


「はい、これで大丈夫。もう痛くないよね?」


「あぁ……ありがとう。でも……」


柊羽くんが不思議そうな顔で私を見詰めて来るのを見つめ返しながら私も言葉を紡ぐ。


「お祖母様を交えてお話ししましょう。大切なお話があります。」


「大切な話って?」


「紅月と蒼月の事です。茉奈から名前を聞いてもしかして?と思っていたけど、実際に見て確信しました。柊羽くんのお父様は、神代家の恩人です。」


「……え?……ぇぇぇえええ?!」


観月と紗月との修練がまだ残っているけども、それは後回しにしないと駄目になった。

それくらい紅月と蒼月の存在は大きい。


「では、行きましょう。既にお祖母様に声をかけて貰う為に人を動かして居るからあまり待たせるのはです。」


困惑している皆を引き連れて私は修練場を後にした。


…………………………………………………………

訓練場を後にした俺達は少し前に神代家についての話をした部屋へとまた集まっていた。


「ごめんなさい。待たせてしまって。」


神代家総当主のお祖母様が俺達の対面へと座る。


「いえ、こちらこそいきなりですいません。それで早速ですけど、茉奈に紅月と蒼月と言う2刀を受け継がせました。これは俺の父の遺産です。強くなりたいと願った茉奈にならと思い託しました。この2刀は神代と何か関係があるんですか?」


「そうなのね。ふぅ……まさか、ずっとが柊羽くんのお父様だったなんて……」


「俺の父は神代と何が?」


「最初は20年前ね……私と幸月達の両親で魔の排除に赴いた事があったの。その相手は当時の私達では抑えるのが精一杯で祓い切れなかった事があったのね。」


お祖母さんの話は続く、その時に……


「ここまで!って思った時に、後方から二振りの剣が飛来して魔を切り裂いたの。その隙を付いて私達は残ってる力の全てを使って祓い切ってギリギリの勝利を収めた事があった。」


父親のそんな姿は、俺は知らない。

篠崎の家がそんな事をして居るなんて事も聞いた事が無かった。


「その時に、名前を聞いたりする前に私達は気絶してしまって手掛かりは飛来した2刀のみ。海の様な蒼とマグマの様な深紅の剣。」


「それだけだと、見つけ様が無いですね。」


「そうなのよね。その次は10年前ね……ダンジョンから少し溢れた事があったのを覚えてる?」


「ありましたね。俺が全てを失った氾濫ほどでは無いですが、まだ色々と足りてない時代ですね。」


「その時も同じ……怪異との経験の多さから私達も駆り出された事があったの。でも……種別が違うからねぇ、やはり劣勢に追い込まれ幸月達も巻き込まれて危うく。」


「えぇぇぇぇ?!そんな事あったの?!おばあちゃん!」


紗月が声を上げた、観月も驚いた顔をしてお祖母さんを見つめてる。

幸月だけは、目を閉じて静かに聞いてるけど……


「観月も紗月も小さかったからね。娘の腕の中で震えていたし、幸月は前に立って立ち塞がって居たわね。震えては居たけど……」


くすくすと笑いながら当時の姿を思い出してるお祖母さん。


「笑わなくても良いでしょぉ……お祖母様っ。」


「ごめんなさいね。追い込まれて、殺されるとなったそんな時だったわ、柊羽くんのお父様が私達の前に入り込み炎と水を操り、まるで踊っているかの様な剣舞で魔物達を屠って行ったの。」


「父さん……そんな事をしてたんだ……」


「子供ながらに私はその背中に見惚れました。柊羽くんのお父様の姿は私の目と記憶に焼き付いてる。」


幸月……そっか……父さんは凄いな。


「あれ?そんななのに調べなかったんですか?神代なら、家を調べるなんて造作も無いでしょう?」


「そうね……でも、恩人を調べるのは気が引けてね?でも今は調べておくべきだと思ってるわ。」


「そうだよー!そうしたらもっと早くお兄さんと仲良くなれたのにー!」


紗月の言ってる事はその通りだしそうなったら嬉しいけど、それはそれで色々大変だろうなぁ……


「なんか不思議な感じです。お祖母様達を助けた方の次世代が私達を助けてくださった……それがとても不思議です。でも……」


「でも?」


観月はとても優しい顔をしながら俺を見詰めている。


「その事がとても嬉しく幸せだと私は感じています。神代と篠崎、過去…と言う程の時間は経っていないかも知れませんが……世代を超えても繋がっていた、私達の出会いは偶然では無かった。それが何よりも嬉しいです。」


そう言った観月の顔は慈愛に満ちた顔をして居て、余りの美しさに俺は赤面して見惚れてしまった。


「またそうやって雰囲気作るぅー!柊羽と観月ってほんと何なの!!??」


「ほんとだよねぇ……柊羽って観月を好きすぎじゃん?」


優理と茉奈が俺をジト目で見詰めて来る。

特に茉奈からの視線が痛く感じるのは偶然か……?てか紗月も幸月もジト目で見て来てるわ。


「ふふっ。二人の仲が良くて嬉しいわぁ。」


俺と観月を生暖かい目で見詰めてるお婆様を俺は見ながら一つ、溜息をついた。


「はぁ……父の事を教えてくれてありがとうございました。父さんが、何をしていたのか、父さんが神代との関わりがあった事には驚きましたけど、俺が神代と関わる事になったのは偶然では無かった……いや、きっと父さんの作った縁が俺を導いたんでしょう。だからこれはきっと必然なんだと思う。」


俺の言葉を静かに聞きながらも何処か満足そうな顔をしている神代家の面々を見ながら俺もこの出会いと父親の話をしてくれた事に感謝を……そして……俺は茉奈に視線を向ける。


「茉奈、2刀を頼む。この話を聞いてもやっぱり、紅月と蒼月は茉奈に持って居て欲しい、茉奈に使って欲しいって想いは変わらないから頼む。」


2刀を渡した時よりも真摯な顔で茉奈は俺を見詰めて来る視線を確りと受け止めた。


「うんっ。返すべきなんだと思ったけど、柊羽が話を聞いても私に使って欲しいって思うなら私は、今は無理でもいつか柊羽のお父さんみたいに、いや……更に使いこなして見せる。だから、私に任せて!私を見て居て!お父さんの想いも柊羽の想いも力に変えて私は紅月と蒼月を使いこなして見せるから!」


こうして、正式に父親の剣は岸本茉奈の愛刀になった。

いずれ、数えきれない程の人を救うの始まりだった。


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