第27話 アメノヒホコ

「おらぁぁ!!」


ドゴンッ!と俺の蹴りが紗月の外殻にぶつかり大きな音を立て弾きながら外殻を壊す。

一つ、思い付いた事を実行している、皆の前に出た時の感覚、茉奈の攻撃以外に内包出来ないのか?と言う言葉。これ等から一つの答えを導き出した。

縮地、瞬歩と言われる武術においての奥義にもなる移動法……これを足に動く瞬間に内包する。

それにより……紗月の速度にも追いつける様になった。


「ぁぁァァァ!!」


ブオン!と外殻から作られた尻尾が襲い掛かって来る。

攻撃に合わせて村正で斬撃を内包して斬り付ける。

さっきからこれの繰り返し!先に進まない!


「コロシてよォォォ!!!」

「断るって言ってんだろ!!」


ギャリィンッ!ギィンッ!コーンッ!部屋中に村正と外骨格のぶつかる音が響き渡る。

後一手……優理や茉奈、巴菜ちゃんだけじゃ足りない。

後一手、この状況を変えるナニカが必要だ、じゃないと紗月を助けられない。


「コロシてくれないナラ……私がコロス!!」

「やってみろや!俺を殺せるなら殺して見せろ!紗月!ぶっ壊れろ!夢幻!」


紗月の身体に影響が出ない様に外骨格に技をぶつけまくり破壊しまくる、これの繰り返しにしかなっていない本格的に困ってきた。

そして、問題はもう一点……移動の瞬間に足への内包によるダメージ……


「保ってくれよ!俺の足!!」

…………………………………………………………

SIDE 観月


『観月、聞こえるかえ?』

「え?灼絶?」

『うむ。直ぐに灼断の元に向かえ。わらわの力が必要よ。』

「どう言う事ですか?柊羽くんの所に向かえって……」

「観月、どうしたの?」

「ぁ……姉さん。灼絶が話しかけて来て、直ぐに柊羽くんの所に向かえって言ってて。」

「どう言う事?」

「分からない。まだ聞けてない。ちょっと待ってね。」

『其方の妹が危険に陥ってる様だ。解決にはわらわの力が必要よ。』

「紗月が?!どう言う事?!」

『其方の家の血に呑まれておる様だ。』

「暴走……」


ガタンッ!と姉さんが椅子の音を立てながら立ち上がり直ぐに指示を飛ばしている。


「分かりました。直ぐに向かいます。紗月……」

『灼断の話では、神代の血以外にもボスの力も作用して居る様だ。そして……』

「何ですか?」

『灼断の所持者に殺してくれと懇願しておる。』


ぐっ……とキツく拳を握る。

紗月を死なせない為にも柊羽くんに紗月を殺させない為にも急がないと!


「観月!行くわよ!お祖母様からも開放の許可も取れてるから走り抜けるわ!」

「はいっ!急ぎます!」


私達はゲートの前に急ぐ、そのタイミングに合わせて回収部隊がゲートから戻って来た。


「幸月様、観月様。只今戻りました。」

「お帰りなさい。これから私達が入り直ぐに紗月達の所まで行きます。回収した物はギルドと神薙へ報告を。」

「あら?玄岩の刀ですか?何故それだけ……?」

「お急ぎの様ですので簡単に、玄岩順平は篠崎柊羽殿への奥義を放ち深層へと押し込みました。」

「その結果、紗月様達の怒りに触れ争いになった所を我々が隙を付き玄岩を処分、そのまま魔物の餌にしてきました。死亡の証拠として刀だけを持ち帰りました。」

「……そうですか。その事は後程詳しく聞かせていただきます。ですが、紗月を柊羽くんを優理も茉奈も巴菜も守ってくださり感謝します。」

「神薙と玄岩には実力を顧みず一人で自爆したと報告しておきます。」


私と幸月姉さんの言葉を聞いて回収部隊の皆さんは頭を下げる。

それを見た後、私達はゲートを潜り視界が開けるのと同時に走り出すのと同時に解放を行ない一瞬でトップスピードで柊羽くんの所へ急いだ。


…………………………………………………………

SIDE 優理


「何か、何か出来ないのかな……私達だって強くなったのに、なのに!」

「何時も!何時も!!柊羽くんに任せっきりで紗月が大変な時に何も出来ないの?!」

「レベルが違いすぎます。先程みたいな状況なら兎も角、入り込めません。邪魔にしかなりません。」

「そんなの分かってる!!下手したら私達が柊羽を殺しかねないって事くらい!でも!でも!」


私も茉奈も武器を握る手をギリギリと音がなる位強く握り締めてる。

本当に情けないよ……美奈さんの剣と技術を受け継いだのに、まだ完全に使いこなせない模倣にしかなってない自分の実力が!


「柊羽みたいに誰かを助ける為に強くなったのに……何処にも足りてない……」

「優理だけじゃ無いよ……私だって同じだもん。紗月が柊羽くんが、仲間が大変な時に見てるだけしか出来ないなんて……」

「二人共……今は耐えましょう。きっと何か出来るチャンスは来ます。それまで!」

「くっ……柊羽……負けないでっ。」

「柊羽くん……」


私も茉奈も鍛えて貰ったのに見てる事しか出来ない。

それが何よりも悔しい……柊羽も紗月も大切な仲間、友達だから二人共どうか無事に……

剣を握る手に更に力が入った。

…………………………………………………………

SIDE 紗月


暗闇の中で座り込んでいる。

顔を膝に埋めて手で耳を抑えて何も見ない様、何も聞かない様に子供の様に震えていた。


【神代の失敗作】、分かってる。

【神代の役立たず】、何度も聞いた。

【神代の足手纏い】、私は姉さん達とは違う。

【神代の汚点】、煩い!自分が一番知ってるよ。


今まで言われて来た心無い言葉の数々等がそれ等が私を責め立てる。

足を引っ張らない様に強くなった、何を言われても気にしないと、明るくもなった。

けれど……私は力に呑まれてしまった。

お兄さんにも優理ちゃん達にも迷惑かけてる。


だから……


「殺してよ、お兄さん。このまま化け物になりたくない。」


座り込む私に私の中の存在が話し掛けて来た。


『ようっ。何時もみたいに自分には無理だと諦めるつもり?』

「……煩い。」


私の中の私、神代の私、具象化とか言うらしいけど表に出て来た事は無い存在。


『やれやれ。私程度に呑まれて、更には無計画にボスに手を出して取り込まれてちゃ世話無いね。こんなのが私の宿主だとはね。』

「さっさと主導権持って行けば?」

『てめぇ……マジで殺されたいみたいね。』


私の中の私が睨み付けながら私の胸元を掴み持ち上げ無理矢理、顔を上げさせて来た。

そんな私の目からは情けない位に大粒の涙が零れてて……


『んだよ?その面。何を泣いている?』

「煩い……煩い!勝手に私の中に居る癖に!好き勝手な事言って!」

『そんだけ吠えられるならまだ死んでねーみたいね。おい!本当にこのままで良いの?』

「……良い訳無いじゃん……でもだったら、どうしろって言うの!?こうなったらもう止まらないじゃん!」

『何故そう思う?』

「何故って!何時もそうじゃん!何時も!何時も!私が耐えられないで飲み込まれて!姉さん達に迷惑かけて!ママにもパパにもお婆様にも!私は神代の失敗作なんだ!神代の汚点なんだ!だから!だから……」

『そうか……それがお前の気持ちなんだな?』

「そうだよ……その通りだよ!」


ぶぅんっ!と私を放り投げて物凄く冷めた目で私を見下ろして来るもう一人の私。


『そうか。そうか……ならここで死ね。神代紗月の身体は私が貰う。』


もう一人の私は自分の身体から私の知らない槍を取り出して構え身体の芯から凍える様な殺意を飛ばして来た。


…………………………………………………………

「くっそ!後一手……あと一手何か……!」

「がァァァ!」


ギィンッ!ギャリギャリギャリ!


「くそ!良い加減目を覚ませ!紗月!何時まで寝てるつもりだ!!!」


どごんっ!と外殻の頭部を村正で叩きつけ、勢いと反動を利用して距離を取る。

それと同時に紗月の尻尾が俺を突き刺そうと襲い掛かる。

ヒュンッ!!ギィンッ!ギャリンッ!と何かが飛来する音の後、飛来した何かは尾にぶつかり少し勢いを弱めるのと同時に……


「こっのぉ!!させないっ!!」


ガキャァァンッ!ととんでも無い音を立てながら俺の前にたった優理の剣の腹に尾の先がぶつかった。


「うわっ?!」

「きゃっ?!」


受け止め切れず俺と優理は同時に吹き飛ばされ地面を擦りながら体制を崩す。


「ガアアァァァ!!」


身体中の外骨格の突起、鰭の様な場所を飛ばしながら俺と優理を仕留めようと襲いかかって来た。


「不味いっ!」


優理を庇おうと無理矢理に俺は前に出るのと同時に……


「お願い。灼絶!」


ヒュヒュヒュッ!と俺の前に放線状に矢が等間隔で飛来したその瞬間、俺と紗月の間の空間がずれて、俺と優理を殺そうと飛来した鰭が明後日の方向へと飛んで行った。


「空間がずれた?今のって……」

「遅くなってすいません。優理ちゃん、柊羽くん。」

「私も居るよ。癒して!イリュージョンクルー。」

「観月、幸月……二人共なんで?」

「灼絶が教えてくれたの。紗月が危ないって、柊羽くんの所に向かえって。」

「ありがとう。二人が来たなら紗月を救える。観月……悪いけど……」

「はい、お任せくださいっ。そう言えば前回は名前を教えていませんでしたね。これが私の神代の力の名前。リコンストラクタ……皆を助けてっ!」


リコンストラクタ……再び積み上げるって意味だよな?傷ついたものや壊れたものを治すとかって事以外にも今までの経験や戦闘力なんかも積み上げ直してるからのバッファーって事か?


「凄い……今までで一番のバフかも。これなら……」

「私達も戦える!柊羽くんだけに押し付けないで済む!」

「紗月ちゃん、ちょっと痛いけど我慢してね!」


俺を中心に優理も茉奈も巴菜もそれぞれの獲物を構える。

そんな俺達の後ろには、観月と幸月が解放した状態で武装を構えてる。


うん……もう負ける理由が無い、紗月を救う、全員で生きて帰る。


「紗月!行くぞ!良い加減に目を覚まして貰う!ちょっと痛いけど乗り越えて貰うぞ!」


俺達は全員で一気に飛び出し紗月とぶつかり合った。


…………………………………………………………

SIDE 紗月


「はぁはぁはぁ……」

「へぇ……蹲って諦めて泣いてた癖にまだ抵抗するんだ?さっさと死んだ方が楽なのに。」


ひゅん!ひゅん!と自分の身体から取り出した槍を振り回しながら私に近づいてくる。


「何処まで耐えられるのかな?そらぁ!」

「くっ!……このぉ!」


ビュォン!ヒュヒュヒュンッ!ボッ!ボッ!ボッ!と空気に穴を開けるかの様な音を出しながら私を貫こうと連続で突いて攻めて来て、全てを避ける事が出来ない私はどんどん傷が増えて行く。


「リコンストラクタ!皆を助けて!」

「イリュージョンクルー!皆を癒して!」

「え……?姉さん達の声?」


私の世界に外側の声が聞こえて来る、その声は聞き間違う事なんてある訳無い二人の大切な姉の声。


「へぇ……姉さん達も来たんだ。神代として私の処分の為かな?まぁ……何でも良いけどね。どうせ私が私になって外の人達も皆殺しにするしっ。」


幸月姉さん……観月姉さん……私を殺しに来たの?助けに来てくれたんじゃないの?私はもう必要無いの?


「ほらほら!諦めて私に身体を渡しなさい!そうすれば楽になるよ!」

「……私は……死んだ方が……良いの……かな……」

「当たり前でしょ!なんだから!」


そっか……そうだよね……失敗作だもんね……暴走もしてるし処分するには丁度良いよね……玄岩も殺したし……


「やっと諦めたぁ、最後に自分を殺す槍の名前位知って逝きなさい。この槍は本当はあんたが目覚めれば使えたのにね。」


天之あめの日矛ひほこ……もう一人の私はそう言って私の胸に槍を突き立てた。

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