第28話 新たな力
「ぅ……ぁ……」
天之日矛が私の胸を、心臓を貫いた。
私の、人間としての神代紗月はこれで終わり。
ここから先は神代としての紗月が表に出て手始めに姉さん達を、優理ちゃんを、茉奈ちゃんを、巴菜ちゃんを、そして……お兄さんを殺す。
ごめんなさい……弱い私で……
ごめんなさい……失敗作で……
ごめんなさい……最後まで迷惑をかけて……
本当にコレで終わって良いの?
本当にこのまま皆とさよならで良いの?
本当に……?本当に……?本当に……?初恋の人に気持ちを伝えなくて良いの?
「紗月は失敗作なんかじゃ無い!」
「迷惑?そんなの一度だって思った事ありません!紗月は大切な妹です!」
「勝手に決めて勝手に落ち込むな!紗月は大切な妹分で仲間で友達だ!」
「紗月は一人じゃ無い!私達が居る!戻って来なさい!」
「紗月ちゃんは大切な友達です!役立たずでも失敗作でも無いよ!早く戻ってきて!こんなに沢山の人が待ってるよ!」
「紗月!お前の真っ直ぐな気持ちも行動も俺は好ましい!お前の笑顔が好きだぞ!戻ってこい!紗月!!」
幸月姉さん……観月姉さん……優理ちゃん……茉奈ちゃん……巴菜ちゃん……お兄さん……柊羽さん!
「死ねない……まだ死ねない!死ぬ訳には行かない!!」
胸に突き立てられた槍を私は掴む。
そのまま、力を入れて押し戻す!!
「へぇ……頑張るじゃん。まぁ、外からあんな風に言われたらこうもなるかぁ。」
自分でも単純だと思う……でもっ!でもっ!
「あんな風に言われて、私自身が諦める訳には行かない!そこまで落ちぶれて無い!だからっ!」
ぐぐぐ……と力を入れながら胸に刺さった天之日矛を引き抜いて行く。
もう一人の私の中から出て来たなら私にもある筈!だから……だからっ!
「お願い!来て!天之日矛!」
私の身体から刺された槍が抜けるのと同時に刺さった部分から柄が突き出して居るのを確認した私は、直ぐに柄を掴む。
そのまま勢い良く私は自分の胸から一本の槍を引き抜いた。
「あぁぁぁぁぁぁ!私は!ここで死ぬ訳に行かないの!貴女に勝つ!絶対に勝って見せる!」
「吠えるだけなら誰にでも出来るのよ。弱い貴女は私に負ける。同じ槍を手にしても変わらない!」
「『塵沙雨!!』」
お互いに同じタイミング、同じ技でお互いの存在をかけてぶつかりあった。
…………………………………………………………
「はぁぁ!!ソードダンス!」
斬ッ!ギャリギャリギャリ!と優理の技が紗月の身体を削る音が響き渡る。
「優理さん!離れて!」
片膝を地面に付けて狙いを定めた巴菜がボウガンに込めた神力を矢に移し……ズドンッ!と音を立てて射出する。
その矢は空気の抵抗すら無視して真っ直ぐにガゴンッ!と紗月の眉間に突き刺さった。
「幾ら硬くてもこれはどう?!」
勢い良く刺さった矢によって頭が逸れ身体ごと仰け反った隙だらけの外殻に茉奈の紅月が突き刺さる。
「燃えろ!」
茉奈の声に反応した紅月の刀身が真っ赤に燃え上がり紗月の外殻を熱していく。
「グギャァァァァァ!?」
「ごめんね!斬ると焼くを同時味わうなんて無いでしょ!でもね!これで終わりじゃ無いよ!蒼月!」
紅月を抜いて紅月に依って熱せられた傷に蒼月を間髪入れずに突き刺し蒼月の属性を開放して急速に冷やしてしまう。
「柊羽くん!お願い!」
「あぁ!3人共ありがとう!少し痛いぞ!我慢してくれよ!
斬撃を内包した攻撃を紗月の全身を覆う外殻に徹底的に叩き込む。
「アアアァァァァァアアァアァァ!!」
ビキッ!バキッ!ガラガラッ!と紗月を覆う外殻が崩れていくのを即座に離れた俺は見届ける。
「これで!」
「嗚呼唖……役……立た……ず……汚……点……」
「……え?」
「神……代……足……纏い……ぎらいっ!皆!ミンナ!キライ!」
外殻が崩れ落ち、現れた紗月の目が真っ赤に染まって居て、明らかに普通の状態では無かった。つまり……まだ足りて無い、外殻の全てを破壊しただけじゃ足りないと言う事!
ボスを倒した後に現れ外殻を形成した宝珠が紗月の慟哭に呼応する様に光を放ちそれに応じて最初よりも強固な鉱石や宝石が集まり始める。
「ざっけんな!!紗月は足手纏いなんかじゃ無い!これ以上、私達の仲間を利用するなぁ!」
優理がシュンシュンシュンッ!と合体剣をバラしながら投げ飛ばし形成しようとする鉱石と宝石を弾き邪魔をする。
「紗月は一人じゃ無い!私達が居る!戻って来なさい!」
茉奈が紅月と蒼月の属性を開放しながら踊る様に合体剣の隙間をぬって炎を水を駆使して弾き、ずらして邪魔をする。
「紗月ちゃんは大切な友達です!役立たずでも失敗作でも無いよ!早く戻ってきて!こんなに沢山の人が待ってるよ!」
巴菜が明らかに無理をしてるのが分かる程の神力を使って打ち漏らしを弾いて行く。
「柊羽くん!今の内にこちらへ!灼絶が呼んで居ます!」
「観月?!灼絶が呼んで居るって?」
『柊羽。灼絶の元へ行け。状況を打開するには我等の力が必要だ。』
「灼断?紗月を助けられるんだな?」
『うむ。我等の力を見せてやる。我等が何故二つなのかをな。』
「信じるぞ。優理!茉奈!巴菜!少し頼む!決めに行く為の準備が居る!少しで良い抑えてくれ!」
「「「了解!」」」
直ぐ様、観月と幸月の側に行った俺は灼断を顕現させる。
「それで?どうすれば良い?」
「灼絶、どうすれば良いのですか?」
『観月、わらわに続け。「我、焔の主なり。」』
『柊羽。我に続け。「我、焔を統べし者。」』
「柊羽くん?観月?何を?」
『「我、全てを絶ち、全てを焼き尽くし全てを癒す者。」』
『「我、全てを絶ち、全て焼き尽くし全てを無に帰す者。」』
俺と観月の詠唱が続いて行く、そんな無防備な俺と観月を幸月は守る様にイリュージョンクルーを発動して蝶を顕現させていた。
『「我が身は全てを穿ち、全てを絶つ。』」
『「我が身は灼断を支え、灼断と共にある。」
トランス状態の観月が灼絶をゆっくりと構えるのと同時に灼絶の全てが聖なる焔の様な白く輝く弓へと姿を変えた。
「紗月は失敗作なんかじゃ無い!迷惑?そんなの一度だって思った事ありません!紗月は大切な妹です!」
幸月が観月の気持ちも代弁する様に紗月に向かって叫んでいる。
紗月の目からは涙が零れてる。
俺の手に握られている灼断を灼絶へと番えるの同時に灼絶とは真逆の漆黒の矢へと刀身が変化し、俺と観月の二人は灼絶の弦を目一杯に引きボスの核へと狙いを定めた。
「紗月!お前の真っ直ぐな気持ちも行動も俺は好ましい!お前の笑顔が好きだぞ!戻ってこい!紗月!!」
「3人共離れて!!」
幸月の声が響くのと同時に俺と観月の準備も終わり……
『『「我等が焔にて全てに終焉を。」』』
「「
俺と観月の言葉と同時に放たれた灼断が真っ直ぐに核へと飛んで行った。
…………………………………………………………
SIDE 紗月
ガガガガガッ!ギャリギャリギャリッ!ガキィンッ!
「フフッ!アハハッ!アハハハハハッ!やるじゃん私!」
「死ねない!負けない!皆が待ってるんだ!今日ここで私は貴女を超えて見せる!」
「不可能!私が成り代わるの!人間としての神代紗月はここでお終い!」
神代としての私が構える……その構えは大技の構え。
放って来るのは、豪衝槍だと思う、だから私も……
「耐えれる?紗月の覚悟は分かった、だから手加減は抜きで行く。認めてあげる、貴女は私。甘えん坊で、弱くて、泣き虫で……その癖、負けず嫌いで自分の弱さを認めようとしなくて……だから。」
ここで殺してあげる……そう言った神代の私は構えた天之日矛の全身に神力を纏わせて行く。
その光は私が撃つ時とは比べ物にならない位の光の強さ。
「負けないよ。幸月姉さんが、観月姉さんが、優理ちゃんが、茉奈ちゃんが、巴菜ちゃんが……何よりも柊羽さんが待ってくれてるんだ!私は負けない!」
私の想いに呼応する様に、神代の私に負けない位に私の天之日矛の光も強くなる。
「「豪衝槍!!」」
同時に私達はお互いの技を開放して、二つの技がぶつかり合い均衡する。
「アハハハッ!土壇場で私に追い付いたじゃん!でもそれじゃ足りないよ!」
言葉と同時に豪衝槍の光が強くなって私の豪衝槍を押し返して来た。
私じゃ足りないのは分かってる、だから……だからっ!
「やぁぁぁぁぁ!これでぇぇ!」
「なっ?!マジで?!」
槍から手を離し私の技を全て押し返し爆発した事による目くらましを利用して一気に距離を詰めて、そのまま……!
「いっけぇぇぇ!蜻蛉切り!届けぇぇ!」
私の相棒、ここが私の精神世界なら私の想い一つで顕現だって出来る筈だから!!
「それは予想外だってぇ……はぁぁ……私の負けかぁ。」
ズシャ!と神代としての私を私の蜻蛉切りが何の抵抗も無く貫いた。
「私の勝ち。」
「うん。私の負け。でも忘れないで、これで終わりじゃ無い、あんたが弱れば何時だって乗っ取ってあげる。」
「させないもん。私はもう逃げない。神代を受け入れて生きて行く。姉さん達と、優理ちゃん達と柊羽さんと……一緒に戦うんだ。」
「ふんっ。精々頑張りなさい。じゃーね。」
最後に笑顔を向けて神代の私は私の中に溶ける様に消えて行った。
「本当に私なの?最後まで憎まれ口叩いて!もうっ!でも……ありがとうね。」
ピキ……ビキ……バキンッ!と世界が割れて行く。
そのまま私の意識も落ちて行く……だけど心配はしていない。
だって……元の世界への光が見えたから。
…………………………………………………………
「グッ……ガァァァァァァッ!」
俺と観月の放った合わせ技、鬼哭飛燕がボスの宝珠を貫きそのまま紗月へと深々と刺さる。
「紗月!!ちょっと柊羽!アレ……大丈夫なの?!」
「ウゥ……アァァァ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
紗月の叫びと共に紗月の暴走を癒す様に焔が巻き起こり直ぐに収まるのと同時に紗月が倒れ込む。
「わわわっ!紗月ちゃん!」
巴菜が駆けつけて紗月を抱き止める。
俺達も、直ぐに紗月に駆け寄り、声をかけた。
「……ん。皆さん……ごめんなさい……」
「馬鹿!無茶ばかりして!心配させんな!」
「優理ちゃん……ごめんなさい。」
「身体、大丈夫?私等かなり無茶苦茶したし……」
「大丈夫だよ茉奈ちゃん。ちょっと疲れたけどね……」
解放を解除した幸月と観月がそれぞれ近づいて紗月を抱きしめた。
「おかえりなさい、紗月。」
「頑張ったね。偉いよ。」
「幸月姉さん……観月姉さん……ごめんなさい……」
「ごめんなさいじゃ無いでしょ?私達が欲しいのは何かな?」
幸月が慈愛に満ちた顔で紗月に問う。
「うんっ!ありがとうっ!ただいまっ!」
3姉妹の笑顔で空気が弛緩しているところに悪いけど……
「まだ終わってない!全員構えろ!」
灼断と灼絶の合わせ技、鬼哭飛燕に貫かれた宝珠が鈍く光を放ちながら浮き上がる。
そのまま、自身を直す様に周りの鉱物を取り込み始めた。
「良い加減……しつこい!こうなったら跡形も無く壊してやる!」
支えられていた紗月が一人で立ちながら神代を開放し、片手には蜻蛉切り、片手には俺達の知らない槍を持ち2槍を構えた。
「紗月……その槍は……?」
「物凄い神力を感じます……まさか……」
「帰ったら全部話します。だから今は見て居てください、私の成長を!柊羽さんも私に任せてください!」
返事を聞かずに宝珠へと飛び出した紗月はその勢いのまま俺達の目の前で圧倒的は成長を見せつけた。
「これが私の新しい奥義!蜻蛉切りと天之日矛の合わせ技!ぶっ壊れなさい!
驟雨……言うなれば、にわか雨。時に激しく時に弱く。激しい強弱で降る雨。
それが天之日矛と蜻蛉切りによって一閃とも言うべき速度で対象を切り裂いていく。
その威力、その激しさそれはもはや目にも止まらぬ処か目にも映らない速さで宝珠を跡形も無く破壊し尽くした。
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