21 動き出した捜査線・最終ゲーム④
<――おいおい。いつまでここに寝てればいいんだ? 言っただろ。ゲームは“ルールはがあるから”面白いんだ。スリルがあればある程な。俺達の言葉など信じられないだろうが、これは紛れもない事実。我々ソサエティはここにいる3人ともう1人存在する。
そして、貴様らが知りたがっている爆弾の停止を唯一知る者だ。何故ならソイツがその爆弾の“製造者”だからよ! 爆弾の事など聞かれても俺達には分からん。ハァァァハッハッ! 面白いな。ここまで楽しませてくれるとはなぁ。
……貴様! ならば早くソイツの居場所を言え!……それを探すのが貴様ら警察の役目だろうが。まぁ、楽しませてもらってるから特別にヒントぐらいやっても面白いかもな。ここまで辿り着いてまた爆破で市民を守れませんでしたなんて、警察の面子丸潰れだもんな。いい気味だぜ。ハァァァハッハッ!
……何時までもふざけているんじゃない! さっさと言えッ!……必死だなぁ。いいぜいいぜ。その慌てた様子がまた溜まらない。もう捕まっちまったし、最後の最後まで楽しませてもらいたいからよ、教えてやる。
ヒントなのか分からないが、もう1人の仲間も勿論、ずっとこのゲームに参加して貴様らを見ている! 今俺達が捕まった事はどうだろうな? 知っているかもしれないし、まだ気付いていないかもしれない。見ているかもしれないし、見ていないかもしれない。ハッハッハッ! アイツは俺達以上に“狂っている”からな!>
そう言う事か。
本当に何処までも人をコケにする舐め腐った奴らだ。だが、俺は今の会話で妙に納得してしまった。
犯人が“もう1人”――。
この妙な違和感の正体はコレだったのか。完全に消えた訳じゃないし、相変わらず爆破までもう“10分弱”しかないってのに少しスッキリしたぜ。
「おい千歳、聞こえただろ?」
シンがそう声を掛けてきた。
「ああ、しっかりな。ふざけてやがる連中だ。でもその残る1人の製造者とやらは、マークしていた建物には出入りしていないんだろ? 一体どこにいるんだ」
「それが分からない。くっそ。折角奴らを捕まえたのにッ……! ここまできてそれは無しだろ」
「情けない声出してんじゃねぇ。ここまできたんだからもう決着はすぐそこだろ。諦めんな」
「うるせぇ。誰が諦めるか! だがどうする。手掛かりが何もないぞ」
確かにシンの言う通りだ。これじゃあ何処にいるのか見当も付かない。
<本部長、ダメです。3人とも口を割る気が一切ありません。どうしますか?>
無線からの応答に、本部長も頭を悩ませているのか返答がない。
「――黒野さん」
そんな中、突然碧木が俺の名を呼んだ。
「どうした碧木」
「1つ聞きたいことがありまして」
どうしたんだこんな時に?
そう思った矢先、碧木がとんでもない事を口にした。
「もし黒野さんだったら……“どっち”を切りますか?」
「――⁉」
思いがけない問いかけに、俺は一瞬言葉が詰まった。
「そんな深く考えないで下さい。少し気を紛らせたいだけなので」
「軽はずみに言える事じゃないだろ」
「例えばの話ですよ。残り約10分。“万が一”の事も考えた方がいい時間です」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇ! 万が一なんて考えるな!」
「だったら、黒野さんはそのもう1人の居場所が分かるんですか?」
核心を付いてくる碧木に、俺は再び言葉を詰まらせてしまった。
碧木の言う通りだ。急に存在が明らかになったもう1人の存在に、俺は少し焦っているのかもしれない。
「すいません。先輩に生意気な事を言いました」
「いや、お前の言う通りだ。それに生意気になのはいつもの事だし」
「私も決して投げやりになった訳じゃありません。ただ黒野さんだったら……黒か白どちらを切るんだろうとふと思っただけです」
「そうか。でもやっぱりその質問には答えられないな」
ようやくソサエティをここまで追い詰めたんだ。最後の最後に爆弾はやっぱり止められませんでしたなんて洒落にならん。そんな事になれば俺はもう一生アイツに顔向け出来ない。
「そうですよね。昔の事を知っているのに不謹慎でしたね私……。お母さんはどういう気持ちでこの時間を過ごしていたのかな……」
独り言の様に呟いた碧木。
俺は本当に不甲斐ない。あまりに無力だ。
やっとの思いでここまで来たのによ。結局、誰かを救う為には誰かの犠牲を払わないといけないのか? いや違う。救える人には全員を救える力がある。俺にはそれが備わっていない。ただそれだけの事。自分に力がねぇんだ。だから救えない。捕まえられない。何も出来ない。
置かれている状況も6年前と全く同じ。
また関係ない人達の命まで天秤に掛けられている。
そして俺にはそれを救う事が出来ない。
そう言えば一真が言ってたな。自分の手の届く範囲に救える人がいれば充分だって。お前は確かに救ったよ。自分を犠牲にしてまで。でもやっぱり俺は思うんだ。あの時、全員が助かる道は本当に無かったのかって。
分かってる。それでもあの時はアレしかもう選択肢が無かった。無かったと言うより、それしか出来なかったんだ。俺も、俺達警察も。だからこそその悲劇を2度と繰り返しちゃいけないってずっと思ってたのに。
「――残り時間は!」
「残りやく7分を切っています!」
「爆弾の製造者は何処にいるんだ⁉」
電話から聞こえてくる音声がより一層騒がしくなってきた。
残り7分――。
いつの間にかもうそれしか残っていないのか……。
「碧木、大丈夫か?」
こういう状況にも関わらず、俺は気の利いた事1つ言えない。大丈夫な訳ねぇだろ。何聞いているんだ俺は。
「大丈夫です。それに、もう切る方決めました」
「――!」
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